ところで話は変わるけど、チキンライスってうまいよな。
「なあ、メロンパンの妖怪っつうんがおるらしいんやが、聞いたことあるか?」
「はあ? なんやその取ってつけたような設定のやつ」
Nが唐突にそんなことを話し始め、Kは思わず顔を顰めた。
たしかにKはNが無類のメロンパン好きであり、男子高校生のくせにメロンパンに一家言あるというほどの変わり者である。
ただ、そんな酔狂なことを言い出すまでとは思っておらず、てっきりKはこの話をNのメロンパン好きが高じて作り上げてしまった世迷言かと思っていたのだが。どうにもそうではないらしい。
「妖怪っつうのは信仰ってわけじゃないが、信じられていること。そんでその恐怖心であるとかを元にして成立する存在らしくてな?」
「まあ、ある種の神様の変異体みたいなもんやな」
「そんでもって、メロンパンって脳ミソみたいな形してるやろ? それを面白がって言い始めた掲示板から、脳ミソとメロンパンを入れ替える妖怪として生まれてもうたんやと」
「なんやそのけったいな話。てか、これからメロンパン食うってときに聞きたなかったんやが」
そもそも今日はNがメロンパンを奢ってくれるというから来たというのに。男子高校生からすれば一食の昼飯代が浮くというのは重要なことである。とはいえ、だからといってわざわざこんな話をしてくるとは、なかなかに性格が悪い。
「ちなみに、入れ替えられたらどうなるんや? さすがに脳ミソがメロンパンに置き換わったら死んでまうと思うんやが」
「なんや、なんだかんだ言うてKも気になるんかい」
「アホか。半端に聞いたらモヤモヤするってだけや」
Kのその言葉に対してNはケラケラと笑いながらも、メロンパンの妖怪についてを説明してくれる。
どうにもその入れ替えられたメロンパン自体がメロンパンの妖怪らしく。つまりはメロンパンの妖怪に身体を乗っ取られてしまうらしい。
それでいて、メロンパンの妖怪はメロンパンが好きだから、乗っ取られてしまったら、メロンパンの話をしたりメロンパンばかり食べたりするらしい。
いや、同族やないんかい。……まあ、このあたりはネットで生まれた妖怪の適当さ加減が伺える。
「しかし、俺がその妖怪に乗っ取られたら周りのやつら判断つかへんやろなあ」
「お前、いっつもメロンパンの話してるし、いっつもメロンパン食ってるもんな」
たしかにメロンパンの妖怪からしてみれば、これほどまでに好い隠れ蓑もないのかもしれない。
そんな話をしていると、そろそろメロンパン食うか、と。Nがメロンパンを取り出す。そういえば、そういう話だった。
この話の流れでメロンパン食べるのもなにやら気分が微妙なところが無くはないが。とはいえこのメロンパンはNの奢り。なればありがたく頂こうと、彼からメロンパンを受け取り。
そして、Kは首を傾げる。
「いっただっきまーっす!」
美味しそうに。そして、満足そうに。メロンパンに齧りついているNの隣で、Kは不思議そうにその様子を眺めながら。ゆっくりと口を開く。
「なあ、なんでこのメロンパン、白あん入ってないんや?」
「えっ?」
「えっ?」
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