第2話 日記・四月二十四日
今日は学校がありました。私の通う高校は、偏差値が高い、お嬢様校なのでございます。
これも、私が自分で決めた高校ではなく、母が選んで、受験させた学校なのでございます。しかし、母は、私が高校へ通うことに、どうやら反対のようなのですが、けれども、私を聖人君子に作り上げたいという考えなのですから、どうにも矛盾してしまって、母は日々、迷って、困って、不安になっているようなのでした。
私が学校へ通うことには、どんな感情も湧きません。学校にいる時でさえ、何とも思わないのです。私にとっては、機械的な毎日を過ごす上で、欠かさず通っている場所、という認識でしかありませんでしたので、感覚的には、寝ている時と、なんら変わりはありませんでした。無感情なのです。
学校では私のことを、トモダチ、や、クラスメイト、にあたるであろう人たちが、不思議と、大変褒めちぎるのです。私はそのような時、心底困りますが、しかし、私について離れないその糸は、それらの賛美に対する回答を持っているようなのでした。
「まりあは本当に可愛いよね。羨ましいわ」
私の隣の席の女の子。確か名前は幸音だったでしょうか。その子が、そう言います。そして、それに同調するように、近くにいた子も、
「本当、可愛いし、綺麗。メイクも上手」
と、褒めます。
「みんな言っているよー。あの子、綺麗だーって」
幸音がすかさず、賛美の御託を並べます。
私は様々な人から、そのようなことを、面白半分、冗談半分に囁かれているのでした。
まことしやかに、と言ってもいいのでしょう。
しかし、どうして、皆は私を見て可愛い、綺麗だというのでしょうか、私には、その理由がわかりませんでした。そう言われて、一度、自分の顔を鏡でまじまじと見たことがあるのですが、ハッキリ言って、お世辞でも、そのようには思えませんでした。私には、作られた人形の、偽りの顔にしか見えませんでした。
それは私の知らない顔なのです。
本来、私がどのような顔をしているのか、もうすでに忘れてしまいました。家には鏡が一つとしてありません。母が全て撤去してしまったからです。唯一、母の部屋に姿見があるだけで、その姿見も、母が許可した時でしか、見ることはできません。
母は、鏡はよくないモノだと言うのです。
鏡は、自身の醜い姿を写してしまうから、よくないと言うのです。
「あなたは綺麗な顔立ちなのだから、ずっとその顔でいなくては駄目よ。メイクをおとしていいのは、お風呂と寝る時だけ。メイクをしていない時の顔は、見ては駄目よ。あなたは、私のように、綺麗でいなくてはならないのだから」と、口癖のように言っては、学校へ行く時、買い物に行く時、パーティーへ行く時、ずっと家にいる時でさえ、欠かさず、私の顔にペンをいれるのです。糸を通すのです。
母の思う、キレイナワタシ、を作るために。
そのため、私には、自分の顔が綺麗だとは思えないのです。ですから、いつもこのようなことを言われた時には、「私は人形なのだから、綺麗にも、屑にも、できるのです」と、言いたいのですが、私に仕込まれた、遠隔の糸がそれを許さないのでした。
「ええ、そうでしょうか。私と同じ化粧品、お教えできますよ」
などと、名前だけを憶えている、よくわからない化粧品を、そう言われる度に教えていました。さも、私が自分で選んで、買いそろえたかのように、説明するのでした。何をどうしても、私の本心が人に伝わることは絶対にないので、このような、上辺だけの会話を、ずっと続けているのでした。
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