5 ケアマネの『できること / できないこと』だよ

◆◆◆


ダーティ:「制度ビジネスとして、介護保険制度のルールでは『できること/できないこと』というのが割とハッキリしています」


ウサマネ:「介護保険制度で報酬を得るサービス事業所全般がそうなってますよね」


ダーティ:「ええ。もちろんグレーゾーン(★※1)もありますが、今回のジョンさんに対して『本人に代わって市役所や親族と交渉し、その上で現金を病院に運ぶ』『引っ越しの段取りをする』『本人の思うがままに介護保険サービスを調整する』『タバコ(嗜好品)を買って来る』などは、〝やっちゃダメなわけではない〟けれど……それがケアマネの業務かと言われれば、私は〝違う〟と断言します」


ウサマネ:「え? でも……ダーティさんって、生活保護の相談や申請への同行とか、ゴミ屋敷の掃除とか、入院した利用者の手続き代行にペットの世話や里親探しとか、それこそ利用者の買い物代行をしたり(★※2)もしてませんでした?」


ダーティ:「はい。時にはそんなこともしていますね。よく地域包括の方などには勘違いされるのですが、私は何も、福祉的な博愛主義であったり、ケアマネとしての熱意からをやっているわけではありません」


ウサマネ:「いや、まぁダーティさんが博愛主義じゃないのは知ってますけど……じゃあどうしてそんなことを?」


ダーティ:「そういうグレーな支援でもしないと、単に仕事の依頼がなかったからですよ(笑) 要するに営業活動の結果なだけです」


ウサマネ:「え、営業活動ですか?」


ダーティ:「はい。このダーティ・ケアプランを開設した当初は、私は地域包括や他の同業者とは繋がりがほとんどない状態でした。当然のようにケアマネとしての担当依頼などありません。今思えば、まったくもって無謀でしかない事業所立ち上げでしたね。前にも少し言いましたが、地域包括や病院に勤める人たちだって人間です。素性の知れない新規開設の怪しい事業所に相談しようなんて思いません。だからこそ、私は他の事業所に蹴られた〝訳ありケース〟を率先して引き受け、グレーな支援を含めて対応してきたわけです。まぁ……結果として開設から十年以上が経過した今も、未だに〝訳ありケース〟が集まってくるようになってしまいましたが(笑)」


ウサマネ:「(いや、そこで働く身としてはあんまり笑えないんだけど……?)」


ダーティ:「ま、なんにせよ、ウサマネさんには〝教科書的な〟ケアマネとしての『できること/できないこと』を改めてお伝えしておきましょう。これは私個人の考えですが、やはり〝グレーな支援〟を行う以上は、何がホワイトで、何がグレーで、何がブラックなのかを知っておかないと収拾がつきませんからね」


ウサマネ:「は、はぁ……(素直にホワイトなことだけしてれば良いんじゃ?)」


◆◆◆


★※用語について


★※1 グレーゾーンぐれーぞーん

 ケアマネの業務においては、明確に報酬が発生するモノ以外がグレーゾーンな支援と言えるのではないでしょうか?


 つまり、ほとんどの支援がグレーゾーン(笑)


★※2 生活保護せいかつほご相談そうだん申請しんせい同行どうこうゴミごみ屋敷やしき掃除そうじ入院にゅういんしたした利用者りようしゃ手続てつづ代行だいこうペットのぺっとの世話せわ里親探さとおやさがもの代行だいこう


 はい。すべてグレーの支援です(笑)


 市役所の窓口担当者などは、安易かつ平然と『ケアマネさんがいるならそちらに相談してみては?』などと無責任に言うこともありますが、これらの支援については、介護保険制度で報酬が算定されることはありません。ケアマネが動いてもタダ働き。


 しかしながら、生活保護の相談や申請への同行については、利用者にとっては死活問題となります。


 なんだかんだと言っても、この世の中で個人が直面する問題(困りごと)の9割は「金」で解決を図れます(偏見)


 生活保護制度についても、「適切な相談方法」「適切な申請の手順」「必要な書類」というものがあります。


 基本的に必要書類は概ね同じでしょうが、市区町村によっては相談方法や手順に多少の違いがあったりもします。


 金に困ってる要介護認定を受けた高齢者が、何の準備もなく窓口に行って相談したところで、窓口担当者が「それは大変ですね! 分かりました! さっそく生活保護を申請しましょう!」とはなりません。


 どうしても〝すぐに申請したい利用者〟と〝必要書類がないと受理できない担当者〟との間でギャップが生じます。


 生活保護の窓口などでワーワーと怒鳴ってる人。


 中にはハラスメント気質の人もいるにはいるでしょうが、相談方法や申請の手順を知らないが故に、〝担当者と話が通じない〟という状況に陥っている場合もあるんじゃないかと思います。


 申請希望者と窓口担当者とのギャップを誰が埋めるのか?


 橋渡しの支援を誰がするのか?


 特に決まりはありません。


 ケアマネがしろと言われているわけではありません。


 ですが、誰かが適切な調整をしなければ、いつまで経っても申請できません(それもどうなんだろうとは思いますが……)


 ゴミ屋敷の掃除についても、介護保険制度のヘルパーで対応できるのは、あくまで〝日常生活上の範囲〟です。大掃除的な対応は基本できない設定となっています。


 ですが、何とかしないと、利用者の日常生活すら成り立たないレベルのゴミ屋敷状態というのもあります。


 そもそも、ある程度片付けないと、ヘルパーすら入ってくれません。


 入院中の支援にしても同じく。


 入院中は医療保険での対応となるため、基本的に介護保険制度のサービスは利用できません。


 身寄りのない人、字が書けない人、意識不明で搬送された人、突発的な救急搬送で貴重品やお金を一切持たずに入院した上、自力では外出できない人……などなどは、一体どうすれば良いのか?


 病院側も困ります。


 で、『ケアマネさん何とかして下さい』と無茶振りをしてくるという流れ。タダ働きの強要ですね(笑)


 そして、厄介なのは〝ペットを飼ってる身寄りのない一人暮らしの人〟。


 本音では『自分の世話もままならないのにペットなんて飼うな』と言いたいところですが、実際にそういう方々はそこら中にいます。


 飼い主が入院した後、残されたペットはどうするのか? 


 もちろん〝ペットの世話〟なんていう介護保険サービスはありません。


 支援のないまま自宅に放置されたペットは死にます。


 さぁどうしますか? ……という具合。


 ただし、これらについて、ケアマネが対応するのが正解というわけでもありません。


 むしろケアマネ協会や学者先生からすれば、〝やっちゃダメな支援〟に分類されるかも知れません。


『利用者が生活保護の申請を却下されようが、自宅がゴミ屋敷だろうが、入院中の手続きで困っていようが、自宅に残されたペットが野垂れ死にしようが……私の業務の範疇ではないので知りません』


 ……という感じで、〝何もしない〟というのもケアマネとしては決して間違いではありません。


 だって、それらは公的な報酬として設定されていないから。タダ働きだから。


 事前に備えていなかった〝見通しの甘い〟利用者自身が悪いんです。


 何故、介護保険制度に位置付けられたケアマネが、タダ働きをしてまで、利用者の見通しの甘さの尻拭いをしなければならないのでしょう?


 利用者の自業自得としてばっさり切り捨てるのも、一つの正解の形だと思います。


 もし、それが不味いというなら行政機関がやれば良いんです。


 あるいは『本人やペットが可哀想!』と言う人たちがいるなら、その人たちがボランティアでやればよろしいのかなと。


◆◆◆


■ケアマネのできること/できないこと■

※あくまでダーティ・ケアプランが採用する教科書的なやつ


○できること○

○介護保険制度についての相談

○介護保険制度以外の医療や介護の相談

○生活の困りごとの相談

○他の制度についての相談や橋渡し(連携)

○経済状況に応じたサービスの組み立て

○医療機関との連携や調整

○受診時の付き添い対応 ※必要に応じて

○不利益を回避する手続き等の提案


×できないこと×

×定期的な身体介助 ※入浴や排泄の介助など

×定期的な生活援助 ※買い物、掃除、調理など

×社用車や自家用車での送迎

×医療同意 ※治療方針の決定など

×保証人となること ※身元保証などはできません

×入院中の直接的な支援 ※連携や相談は可能

×支払いの立替え

×サービス利用の決定


○×ケアマネにできるのは、あくまで「提案(情報提供)」であり「決定」や「決断」は当人や家族の対応となります×○


ダーティ:「……とまぁこんな具合ですね」


ウサマネ:「ほんと、教科書的な模範解答って感じですね。ペットの世話の為に、入院中の本人から鍵借りて自宅にお邪魔したりしてましたけど(笑)」


ダーティ:「まぁ『できること/できないこと』というのは、あくまで各々の事業所なり法人なりの方針によっても違うでしょう。とりあえず、ダーティ・ケアプランはこうですよと明示する〝表向きの綺麗事〟です」


ウサマネ:「この綺麗事を厳密に守るとなると……ジョンさんのような人を担当するのは無理そうですけど?」


ダーティ:「ははは。ウサマネさん。先ほども言いましたが、その辺りは地域包括なり病院なりが、親族を巻き込んででもジョンさんを〝強く説得する〟でしょう」


ウサマネ:「はぁ……本当に〝綺麗事〟なんですねぇ……」


◆◆◆


 その後、マウンテン地域包括の担当者からダーティ・ケアプランの事務所に連絡が入りました。


『ジョンさんが、是非ともダーティ・ケアプランでケアマネを頼みたいと言っています! よろしくお願いします!』


 嘘つけ(笑)


 なにはともあれ、こうしてウサマネさんはジョンさんの担当ケアマネとして対応することになりましたとさ。


◆◆◆

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