ケアマネジメントと根拠の話
1 説明できないよ
◆◆◆
ウサマネ:「はぁ……ふぅ……(チラッ) はぁ~……(チラッ)」
ダーティ:「おやおやウサマネさん。どうしたんですか? そんなにわざとらしくため息なんてついて。どうしようもなく構ってちゃんな鬱陶しさが漂ってますけど? せめて、少しは隠そうとする素振りくらいは見せないと、ウサマネさんのウザさがバレバレですよ?」
ウサマネ:「辛辣ぅー! ニコニコ笑顔で淡々と言わないで下さいよ!」
ダーティ:「ま、冗談(本音九割)はさておき。一体どうしたんですか?」
ウサマネ:「いえ……ほら、オイラって今、専門研修(★※1)ってやつを受講してるじゃないですか?」
ダーティ:「そういえば受講していましたね。それが何か?」
ウサマネ:「いやぁ……講師の先生とかが、しきりに『アセスメントがー!』『ケアマネジメントがー!』『本人の自己決定がー!』『ケアマネの質の向上がー!』なんてことを言うんですけど……」
ダーティ:「なるほど。要は研修が面倒くさいという話ですか」
ウサマネ:「ま、まぁ端的に言ってしまえばそうなんですけど。講師の先生たちの話が軒並み『そりゃ言ってることは分かるけど……』みたいな感じで、どうにも納得できないというか……教科書的でなんというか……」
ダーティ:「ははは。ウサマネさん。ああいう法定研修というのは〝決められた時間拘束される〟というだけですよ。ケアマネの資格更新(★※2)の為の苦行という意味しかありません。あんな研修でケアマネの質の向上なんてできるはずありませんから(笑)」
ウサマネ:「それも頭では理解してるんですけど……講師の先生によっては言ってることが違ったりしますし、グループワークとかで、やたらやる気のある暑苦しいケアマネがいたり……『ケアマネの質の向上を口にするなら、まずこの研修の質を向上させろよ』とか思ったり……はぁ……」
ダーティ:「はは。頓珍漢な講師と暑苦しいケアマネは研修あるあるですね。では、使うかどうかは別として……一つ、お偉い講師の先生方や暑苦しいケアマネを黙らせる、魔法の質問をウサマネさんに伝授しましょうか?」
ウサマネ:「魔法の質問?」
ダーティ:「ええ。研修の質疑応答などで、かつて私も使ったことがあるのですが……実務経験豊富なお偉い講師のケアマネ様たちで、この質問にまともに回答できた人を私は知りません」
ウサマネ:「へぇ~そんな質問があるんですか? 偉い先生方でも答えられないような?」
ダーティ:「はい。では、ウサマネさんは『ケアマネジメント』の意味を答えられますか?」
ウサマネ:「はい? ケ、ケアマネジメントですか? そ、そんなの簡単じゃないですか? ええと……まずインテークがあって、アセスメントして……ケアプランの原案作ったり、実際にサービス担当者会議したり……サービス利用が開始となった後、モニタリングをしながら再アセスメントして……っていうやつでしょ?」
ダーティ:「ウサマネさん。その説明は『ケアマネジメントプロセス(★※3)』についてですね。この魔法の質問というのは『もし利用者や家族からケアマネジメントってなんですか? と聞かれた際、あなたならケアマネとしてどう答えますか?』というモノです」
ウサマネ:「えぇと……利用者や家族さんに聞かれたら……ですか?」
ダーティ:「はい。ケアマネの研修などを受講すると、ごくごく当たり前のようにこの『ケアマネジメント』という単語がテキストにも出て来るのですが、実は利用者や家族が納得するような根拠を示しながら、この単語を説明できるケアマネというのは少ないです。おそらく当たり前過ぎて意識もしてないのでしょう。法定研修の講師を任されるようなお偉いケアマネ様たちであっても、先程のウサマネさんのように『ケアマネジメントプロセス』について説明し始めたり、専門用語を羅列して説明した気になって自己陶酔しているのが大半です」
ウサマネ:「は、はぁ……で、でも、別に説明できなくても問題ないんじゃ?」
ダーティ:「はい。別に通常業務に何ら支障はありません(笑) この魔法の質問というのは、知ったかで喋ってる偉そうなケアマネ様を困らせるためだけのモノです(笑)」
ウサマネ:「えぇ? そ、それだけのため? ダーティさん、ちょっと性格悪くないです?」
ダーティ:「良いんですよ。横文字大好き福祉業界では、いちいちカタカナの専門用語を羅列して分かった風になってる勘違いケアマネも多いですし、そんな連中は〝本当にその言葉の意味を理解して使ってますか?〟と指摘されても仕方ないでしょう。それで説明できなければ、『え? ケアマネジメントの説明もできないのにケアマネしてるんですか?』『ケアマネは利用者に分かり易く説明しないといけないのでは?』と煽ってやれば良いんです」
ウサマネ:「……(本当に性格悪いな)」
◆◆◆
★※1
ケアマネの資格は5年に一度の更新制だったりします。その資格更新の条件として、規定の研修を受講しておくという感じです。
ウサマネさんが受講しているのは「専門研修Ⅰ」。
初回の更新の為には、もう一つ「専門研修Ⅱ」という研修受講が必要。
県単位で受講料などは変わってきますが……薄っぺらいテキストをだいたいが2~4万円で買わされる感じ。マジで金の無駄。
★※2
★※1でも記載したように、ケアマネの資格は更新制。初回の更新は「専門研修Ⅰ」「専門研修Ⅱ」の受講が必要。継続的にケアマネとして働いている人は、2回目以降は「専門研修Ⅱ」の受講だけでオッケーとなっています。
ケアマネの資格は取得したけど、実務経験のない方は「更新研修Ⅰ」「更新研修Ⅱ」という名称の研修受講が必要となります。内容についてはそれぞれ「専門研修Ⅰ」「専門研修Ⅱ」と同じ。受講者の割り振りが変わるくらい?
★※3
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
※その後、必要に応じて②へ戻る⇒プラン練り直しますよ的な感じ。
ケアマネ界隈では、この①から⑧及び繰り返しの工程を「ケアマネジメントプロセス」と呼びならわしています。
ただし、これはあくまで工程表であって、ケアマネジメントそのものではないです(個人の主張)
見て分かる通り、いちいちカタカナ用語が多いです。
あと、界隈ではこの循環工程を
隙あればビジネス用語も使っちゃうよ(笑)
◆◆◆
ダーティ:「とりあえず、模範解答的なモノとして……ネットで〝ケアマネジメント 定義〟などで検索すると、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部というところが作成した『相談援助の手引き』というモノがヒットすると思います。あくまで障害福祉サービス分野の相談支援について記載されたものですが、この資料の中にケアマネジメントを説明している箇所があります。まずはそれを紹介しておきましょうか」
■ 相談援助の手引きより抜粋 ■
障害をもつ方々が住み慣れた地域で自立した生活を送ることは、ふつうのことです。しかし、自立した生活を送るためには、住み慣れた地域の様々なサービス資源や、保健・医療・福祉・教育・就労等をはじめとする様々な領域のサービスを上手に使ったり、地域の障害者に対する意識やかかわりを深めたり、また、地域(又は利用者・家族)が有している“強さ”や“力”を引き出していくことが必要となりますが、それは容易にできるものではありません。これらのことを、障害者のおかれている状況等を踏まえ、適切かつ総合的に課題調整する必要が生じてきます。その技法がケアマネジメントです。
ケアマネジメントの定義は多様ですが、
「利用者が地域社会による見守りや支援を受けながら、地域での望ましい生活の維持継続を阻害するさまざまな複合的な生活課題 (ニーズ)に対して、生活の目標を明らかにし、課題解決に至る道筋と方向を明らかにして、地域社会にある資源の活用・改善・開発をとおして、総合的かつ効率的に継続して利用者のニーズに基づく課題解決を図っていくプロセスと、それを支えるシステム」
といえます。
ダーティ:「……とまぁこんな感じですね。どうですウサマネさん。これを示されて、ケアマネジメントを理解できる気がします? 利用者や家族に噛み砕いて説明できますか?」
ウサマネ:「あはは! できるわけねーですやん!(笑)」
ダーティ:「でしょうね!(笑) しかも、この資料には〝ケアマネジメントの定義は多様ですが〟と、しれっと
ウサマネ:「ダーティさんとしては、
ダーティ:「ええ。少なくとも、
ウサマネ:「え? 障害福祉分野と介護保険分野でケアマネジメントの意味って違うんですか?」
ダーティ:「はい。あくまで私は別物だと考えています。ウサマネさん、まず前提として聞きたいのですが、我々ケアマネの身分や業務の根拠となる法律はなんですか?」
ウサマネ:「え? そ、そりゃ介護保険法(★※4)でしょ?」
ダーティ:「その通りです。では、重ねて質問しますが、ウサマネさんは介護保険法の目的をご存知ですか?」
ウサマネ:「か、介護保険法の目的ですか? えぇと……ちょ、ちょっと分からないです」
ダーティ:「え? ウサマネさんってケアマネですよね? 介護保険法はケアマネの根拠となる法律なんですよね? なのに、その法律の目的もご存じないんですかぁ~?(煽)」
ウサマネ:「……(コイツ……! 性格悪いなッ!)」
◆◆◆
★※用語について
★※4
平成十二年(2000年)に施行された、介護保険サービスの根拠となる法律。
本来、ケアマネだけじゃなく介護保険サービスで報酬を得ている人たちは、皆が知っておかないといけないやつ。
でも、実際はウサマネさんみたいに、介護保険法の目的すら知らない専門職者(笑)が福祉業界には多いです。
◆◆◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます