2 クソヤローだったよ
◆◆◆
■ 事例(生活歴) ■
あるところにジョンという男性がいました。
このジョンさんはお金持ち一家に生まれた、いわゆるボンボンです。
大学卒業後も就労はせず、両親からお小遣いを貰って遊び歩く生活をしていたそうです。
ジョンさんが四十代のころ、父親であるスティーブさんが亡くなり、母親であるケリーさんとの二人暮らしに。
しかし、彼の生活は変わりません。親の金で相変わらず遊び歩く日々。仕事もしません。
ジョンが50代のころ、とうとう手持ちのお金が底を尽きます。この時、母ケリーさんは七十代。
ジョンは母ケリーさんに金をせびります。
『おい、金寄越せ』
という感じだったんでしょう。
これまで息子を放置というか、甘やかすままだった母ケリーさんも、流石にジョンを諫めます。
『ジョン、先のことを考えてお金は残しておかないと……分かって頂戴』
しかし、母ケリーさんの思いは通じません。
ジョンは母ケリーさんを殴り飛ばし、お金を奪っていきます。
絵に描いたようなドラ息子ですね。
そんな息子ジョンからの暴力や暴言に晒され、その上で目減りしていくお金。徐々に徐々に精神的にも肉体的にも弱っていく母ケリーさん。
そんなケリーさんを様子を見かねて、古くからの知人であるマーサおばさんが立ち上がります。
『ジョン! 母親であるケリーさんを傷つけるのは止めなさい!』
マーサおばさん、カッコイイですね。
しかし、そんな程度でジョンは改心しません。他人に注意されたくらいで改心するのであれば、とっくの昔に改心していたでしょう。
ジョンはマーサおばさんに対しても暴力に訴えます。ですが、マーサおばさんも負けていませんでした。
殴り返します。
結果、なんとジョンの方が骨折。そして入院となります。いやぁ~ジョンさんは弱かった。弱い者にしか強く出られないという、典型的なアレな人を体現していますね。
この一連の動きにより、ジョンと母ケリーの生活実態が明るみに出ることになり、ようやくに地域包括支援センターや行政が介入。
母ケリーさんは六十五歳以上ということもあり、息子ジョンからの母に対する高齢者虐待(★※1)があったという認定と相成りました。
諸々があり、母ケリーさんはもう一人の息子(ジョンの弟)であるニックが住む地域(県外)へと引っ越ししていきました。その後、ニックさんの家の近所の高齢者住宅へ入居されたそうです。
残されたジョンは一人になります。
このジョンさんには、定収入がない・仕事が無い・住む場所がない……ということで生活保護(★※2)を受給してアパートへ引っ越し。
しかしながら、生活保護を受給してもジョンの生活態度に大きな変わりはありません。自立しようとはしません。仕事なんてしません。遊び歩く日々は続きます。
家事もまともにしたことがないということで、数年待たずにアパートはゴミ屋敷化。
ジョンさん60代。
ゴミ屋敷と化したアパートで倒れているのを近所の人が発見します。
救急車で搬送されて入院となります。
地域包括支援センターが介護保険の要介護認定を申請代行。
で、「要介護1」の認定が出ました。
退院支援ということで、地域包括支援センターからダーティ・ケアプランへ依頼が来ましたとさ。
ダーティ:「……とまぁ、こういった次第ですね」
ウサマネ:「こいつ、クソヤローじゃねーかッ!」
◆◆◆
★※用語について
★※1
読んで字の如く、高齢者に対しての虐待です。
一応、根拠となるのは「
この法律のおいての「高齢者(虐待を受ける側)」の定義は「六十五歳以上」となっています。
つまり、六十五歳未満の方に対しての虐待行為は、厳密には高齢者虐待ではないという扱いです。
まぁだからといって、高齢者分野の支援者は〝六十五歳未満の方への虐待と思しき行為を無視してオッケー!〟……とはなりませんけどね。
この法律では、高齢者虐待のことを『養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう』という風になっています。
「
⇒ 高齢者を現に養護する者。家族とか親戚とか知人・友人とか……みたいなイメージ。
「
⇒ 色々と条件はあるけど、要するにケアマネや地域包括の職員、老人ホームなどで働いている人たちのことだと思って下さい。ざっくり言えば、金もらって介護・福祉関係の仕事してる人たち。
ちなみに、虐待の内容については……
【
⇒ 肉体への暴力。怪我をさせるなど。
【
⇒ 読んで字の如く。必要な介護等を放棄すること。
【
⇒ 言葉や態度の暴力。必要なコミュニケーションを取らない、暴力を振るうフリなども含む。
【
⇒ わいせつな行為をする、わいせつな行為をさせるなど。
【
⇒ 金を盗む。金を使わせない。財産を勝手に処分するなど。
……こんな感じです。
ちなみに、障害者虐待はこの高齢者虐待と同じ内容ですが、児童虐待には「経済的虐待」の項目はありません。
要するに、国は児童への「経済的虐待」を認めていないってことです。
これは『ガキの金は元々親が管理するんだよッ!(超意訳)』という、民法第824条「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない」という条文があるからかな? 真相は不明。
子に小遣いを与えない、子のバイト代を取り上げる、子の所有物を勝手に処分する、進学にかかるお金をわざと出さない……等々はどうなんだって話ですけどね。
余談でした。
★※2
はい。みんな大好き
憲法の第二十五条が根拠となっています。
例のアレですね。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
言わずと知れたセーフティネット。最後の防波堤たる社会保障。
ネットでは話題が出る度に賛否の炎上が起きますし、何かと物議を醸す制度ではあるでしょう。
しかしながら、否定的な意見を吐き出す人たちの多くが、その実態を正しく把握しているかは疑問もあります。もちろん、正しく実態を把握した上で、制度や生活保護受給者を叩く人も多いでしょうけど。
さて、そんな生活保護ですが、生活保護と一口にいってもその
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・
この八つが生活保護の扶助とされています。
ケアマネとしては「医療扶助」「介護扶助」への関わりが深く、逆に「出産扶助」「教育扶助」「生業扶助」などはあまり馴染みがないかも知れません。
◆◆◆
ウサマネ:「ちょっとダーティさん! このジョンって野郎、クソじゃないですか!?」
ダーティ:「ははは。ウサマネさん、何を今さら……このジョンさんが聖人君子なお人柄であれば、包括だってわざわざうちに話を持って来ませんよ。先ほど、そういう話をしたところじゃないですか?」
ウサマネ:「いや、それにしたって酷くないですか? コイツ?」
ダーティ:「これこれウサマネさん。口が悪くなっていますよ。利用者をコイツとか言わない。ま、クソヤローとか言ってる時点でアレですけど」
ウサマネ:「だって! 親の金で仕事もせずに遊び暮らして、金が無くなったら母親に暴力を振るうなんて! その上、母親がいなくなった後は〝僕ちんお金ないの〜〟で生活保護ですか!? しかも、生活態度を改める訳でもなく、弱ってきたら今度は〝介護保険で助けてぇ〜〟って! 人生舐めてるでしょ! コイツ!」
ダーティ:「ジョンさんが人生を舐めてるかは知りませんが……確かにこの人の生活歴を知ると微妙な気持ちにはなりますね(笑)」
ウサマネ:「笑いごとじゃないでしょ! ダーティさん! こんなやつの担当受けるんですか!?」
ダーティ:「いやいや、もうすでに引き受けてますから。このジョンさんは、ウサマネさん曰くのクソヤローかも知れません。ですが、残念ながらというべきか……介護保険制度(★※3)は〝人格者であるべし〟などという利用要件はありません。どんなクソヤローだろうが、要介護認定を受けた方であれば、必要に応じて利用できるサービスになっています」
ウサマネ:「そ、それくらい分かってますよ! でも! 納得できません! こんなドクズなんて担当したくないですよ!」
ダーティ:「はは。まぁ気持ちは分からなくはないですけどね。もちろん、私だって本音を言えばジョンさんのような人を支援なんてしたくはないです。こんな人はどこぞで野垂れ死にすればと思ってますよ。まぁそれすらも、後始末をする人たちの労力を思えば迷惑極まりない話ですけどね。当然、社会保障の資源だって無限にあるはずもなく、平気で他人に迷惑を掛けるクズに対しての支援に割く労力や資源は勿体ないと感じますし、そんな連中はそのクソみたいな人生にさっさと自分自身でケリをつけてしまえばいいのにとさえ思います。まぁ、自分のケツすら自分で拭けないようなくだらない輩だからこそ、どこまでも厚顔無恥に図々しく生きようとするんでしょう。あ、もしかすると、自分自身が、世間からどう見られているかを客観視できるほどの感性や知性すら持ち合わせていないのかも知れませんね。このジョンさんのような輩というのは、本当に度し難い生き物ですよ。その姿はゴキブリ以下の醜悪さや嫌悪を抱かせますし、ごく自然に反吐が出てしまうほどです」
ウサマネ:「……ダ、ダーティさん、それは……流石にちょっと言い過ぎじゃ?」
ダーティ:「いえいえ。遠慮なさらずに。ウサマネさんだって、このジョンさんのような人はクズだと思っているんでしょう? そんな輩はとっとと殺処分にでもすれば良いんです。国の社会保障はこんな連中には贅沢なくらいです。福祉的な支援なんて受けさせるもんじゃないし、とっとと病院から放り出し、行く当てもない状況に追い込んで野垂れ死にさせてしまえばいいんです。そうでしょう?」
ウサマネ:「……」
ダーティ:「どうしました? ウサマネさん?」
ウサマネ:「あ、あのー……オイラはそこまでは思ってないです……」
ダーティ:「ですが、先ほどウサマネさんが口にしたような〝クソヤローの支援なんか受けたくない〟という支援者側の選別的な感情は、突き詰めればジョンさんの生きる権利を奪うという極論に行き着きます」
ウサマネ:「……す、すみません。軽率でした……」
ダーティ:「いえいえ。分かって頂けたなら良かったです。ただ、私だってジョンさんのようなクソヤローを担当したくないというのは、紛れもない本音の本音ですけどね! はは! いや~! まったくもって清々しいクズですよね! このジョンさんって! 親の顔が見てみたいです! あ、ジョンさんがぶん殴って分離になったから、そうそう簡単には会えないんでしたっけね!(笑)」
ウサマネ:「(め、めちゃくちゃいい笑顔で言い切ってる。ダ、ダーティさんって、時々どこまで本気か分からないんだよなぁ……)」
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★※用語について
★※3 介護保険制度(かいごほけんせいど)
厚生労働省曰く『家族の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的に、2000 年に創設されたものが介護保険制度です』とのこと。
ごく単純に言えば〝対象(要介護状態等)となった人たちは、介護保険サービスというのを使えるよ!〟ということです。
この介護保険サービスをするための要介護認定の申請条件は、65歳以上(第1号被保険者)と40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)となっています。
第1号被保険者は、原因を問わずに要介護認定の申請自体は可能ですが、第2号被保険者というのは、加齢に伴う疾病(特定疾病 下記参照)の診断が無ければ、要介護認定の申請自体を受け付けてくれません。
【特定疾病】
・1
・2
・3
・4
・5
・6
・7
・8
・9
・10
・11
・12
・13
・14
・15
・16
事例のジョンさんは〝40歳以上65歳未満で特定疾病(脳梗塞:脳血管疾患)〟という条件を満たしていますが、生活保護受給者ということで、実は医療保険加入者ではありません。つまり、厳密に言えば介護保険制度の対象ではないということになります。
ですが、だからと言って『お前にはサービス使わせねぇから!』みたいな話にはなりません。
詳しく説明すると面倒なので省きますが……40歳以上64歳未満の要介護認定を受けた(特定疾病に該当する)生活保護受給者というのは、介護保険分野では「
◆◆◆
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