それいけ! ウサマネジャー!
なるのるな
訳ありの新規依頼を受けた話
1 新規依頼を受けたよ
◆◆◆
この物語は、架空の地方都市プリンセス市にある、ダーティ・ケアプランという架空の居宅介護支援事業所(★※1)に所属している、ウサギのケアマネという謎生物な
さて、今日もまた、ウサマネさんが所属するダーティ・ケアプランに依頼が……
◆◆◆
ウサマネ:「あれ? ダーティさん。新規依頼ですか?」
ダーティ:「ええ。マウンテン地域包括(★※3)から新規の依頼がありました。ウサマネさんに担当をお願いしようかと思っているんですが……」
ウサマネ:「えー? 今忙しいんで、ダーティさんが担当して下さいよ~」
ダーティ:「チッ! この駄ウサギが……ッ! 大した件数(★※4)受け持ってるわけでもないのに舐めた口を叩きやがってッ!(ははは。いやぁ、私の方も担当ケースが一杯でしてねぇ~困りましたね〜)」
ウサマネ:「ダ、ダーティさん、逆! 逆ぅ! 本音と建て前が逆になってますから! 心の声が駄々洩れですからッ!」
ダーティ:「おっと。これは失敬。……というわけで、ウサマネさんに担当をお願いしたいんですが? まぁもちろん、無理にとは言いませんけど?」
ウサマネ:「ハ、ハイ、ヨロコンデー(ちょ、ちょっとお茶目しただけなのに……目が本気ですやん)」
◆◆◆
★※用語について
★※1
介護支援専門員(ケアマネジャー)がいる事務所。事業所。
「
居宅介護支援事業所は法人格(社会福祉法人、株式会社など)を有していないと運営できません。認可が下りません。なので「個人事業主」として独立開業なんてことは不可能な職種だったりします。
ケアマネが一人で運営しているような事業所であっても、必ず法人格を有しています。
★※2
介護保険制度に位置付けられた諸々の調整役。要資格の専門職。
この資格を得るためには、医療・介護・福祉系での実務経験が5年以上かつ900日以上必要。新卒でいきなりケアマネジャーの実務に就くとかは無理。
ちなみに、実務経験というのにも縛りがあります。
「国家資格に基づく実務」
→医師、歯科医師、看護師、薬剤師、介護福祉士などの指定あり。
「相談援助業務」
→生活相談員、相談支援専門員など、こちらも業務には指定がある。
「ケアマネ」「ケアマネさん」なんて風に呼ばれることが多い。
専門職なんて偉そうに言ってるけど、「ケア真似(笑)」みたいな人も多い。
あと、ケアマネとして働くより、そもそもの国家資格で働く方が大体は給料が良いという捩れ現象あり(笑)
特別養護老人ホーム等の施設にもケアマネがいますが、そちらはそのままズバリ「施設ケアマネ」と呼ばれています。
この物語は、基本的に居宅(自宅)で生活をしている利用者を担当する「居宅ケアマネ」の話がメインです。
★※3
一般的な正式名称は「
また、中学校区で管轄を区切られていることが多く、「○○市××(校区の名前等)地域包括支援センター」という名称が多い気がします。
厚生労働省の説明によると……
『地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とし、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町村が設置しています』
……とのこと。
ひとまず、高齢者や介護問題についての総合相談所だと思って下さい。市民の相談窓口であると同時に、ケアマネたちにとっての相談窓口でもあるという感じ。
ちなみに、居宅介護支援事業所のケアマネからすれば、地域包括は新規依頼を振ってくれる元請けみたいな関係であったりもします。直接的にそういうことを口にすると怒られますけどね。
「
★※4
居宅介護支援事業所のケアマネというのは、受け持てる担当人数に上限があります。あくまでその上限を超えると、報酬をカットされる(減額設定で請求しないといけない)というだけですけど。
2024年の時点では、ケアマネ一人あたりで44人(事業所の条件によっては49人)までが、減額せずに請求できる上限の設定となっています。
ただ、これらは事業所単位の報酬算定に関する数字であり、ケアマネ一人が担当できる上限を示したものではありません。
ダーティ・ケアプランで考えると、ケアマネはダーティさんとウサマネさんの二人体制なので、44人×2人の88人までなら満額の報酬設定で請求可能という感じです。
しかしながら、事業所内における受け持ち件数の内訳としては、ウサマネさんはまだ20人くらいしか担当しておらず、管理者であるダーティさんが50人以上担当しているという状況だったりします。
あくまでも噂ですが……事業所内でケアマネの担当人数にあまりにも大きな偏りがあると、市区町村からケアマネの名義貸しをしてるんじゃないのか? 適切な業務ができていないのではないか? などを疑われたりする可能性があるとかないとか……。何事もほどほどにということですね。
◆◆◆
ウサマネ:「ええと、それで? マウンテン包括からの依頼ということですけど……今回はどんなケースなんです?」
ダーティ:「そうですね……ウサマネさんのような〝経験の浅いケアマネさん〟が嫌がりそうなケースなのは間違いないと言っておきましょうか」
ウサマネ:「いやいやダーティさん。オイラだってもう一年以上の実務経験があるんですよ? 経験が浅いと決めつけられるのはちょっとねぇ?」
ダーティ:「おっと、これは失礼しました。訂正します。今回のケースはウサマネさんのような〝出来損ないのクソなケアマネ〟が嫌がるケースですね」
ウサマネ:「し、辛辣ぅー! このご時世なのにド直球ッ!」
ダーティ:「はは。まぁ冗談(本音八割)はさておき……さっそく事例について説明しましょう」
■ 事例 ■
・ジョンさん ・六十代 ・男性
・要介護1(★※5) ・独居(一人暮らし)
・婚姻歴なし、子供なし
・近隣在住の母違いの姉がキーパーソン(★※6)
・県外在住の弟と母がいるも没交渉。父は故人。
【相談の経緯】
自宅で倒れていたのを近隣住民が発見し、救急搬送にて入院。診断名は「脱水」「低栄養」「脳梗塞」「肺炎」「腰椎圧迫骨折」。
入院中に要介護認定の申請を行い、要介護1の認定が出ました。
現状のADL(★※7)としては、室内であれば自身の支えにて概ね自立。
歩行については、段差のない病棟の廊下などは杖使用で歩行可能。
屋外の歩行には杖使用の上で転倒には注意が必要。安全な屋外歩行の為には、介助者の付き添いを要するというのがセラピスト(★※8)の評価となっています。
◆◆◆
※用語について
★※5
介護保険制度においての「要支援・要介護認定」の結果のこと。『その人にどれだけの介護の手間(時間)が必要であるかを数値化した等級・区分のこと』です。
「非該当(事業対象者)、要支援1、2、要介護1、2、3、4、5」という8つの区分があり、当然に「非該当」が一番軽く、「要介護5」が一番介護に手間が掛かるという分け方です。
「要支援1~2」 ⇒ 割とまだ大丈夫かな?
「要介護1~2」 ⇒ ちょっと介護が必要。状況によっては一人暮らしは難しいかも?
「要介護3~5」 ⇒ かなりの介護が必要。状況・状態によっては施設入所も?
とりあえずはこんな感じで覚えておいて下さい。もちろん、人によって状況・状態は千差万別なので、「要支援」でも一人暮らしが無理な人や、「要介護4」で一人暮らしを継続している人だっていますけどね。
★※6
医療・介護・福祉業界においての「キーパーソン」というのは……
『主たる介護者』
『何かあった時に連絡して動いてもらえる人・動いてもらわないといけない人』
『何かを決める際に決定権がある人』
『本人に代わって契約や金銭管理をしてくれる人』
……等々の意味合いが込められています。まぁ、基本的には『身元保証人・身元引受人』な感じですね。
★※7
日常生活における基本的な「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作などのことを指しており……利用者の状態像を把握する為の基本情報となる項目。
医療・福祉関係者が「ADL」という言葉を使っていたら、だいたいが『この人はどんな身体状態なんですか?』という趣旨の話をしていると思って下さい。
★※8
ここでいう「セラピスト」というのは、リハビリテーション専門職である「
医療業界ではリハビリ専門職をまとめて「セラピスト」と呼ぶことが多く、福祉業界でも倣っているようです。
病院関係者や福祉系の人が業務の中で口にする「セラピスト」という言葉は、エステシャンやネイリストなどを意味するものじゃないと覚えておきましょう。
◆◆◆
ウサマネ:「んんー? ダーティさん。このジョンさんっていう人のケース、別に〝普通〟じゃないですか? 経験が浅いケアマネが嫌がるとか言ってましたけど、今までも似たような新規依頼を担当したことありますよ?」
ダーティ:「ええ。まぁここまでの情報であれば特殊な事例というわけでもないでしょう。救急搬送⇒入院⇒要介護認定申請なんていうのは、ウサマネさんが感じたようにむしろ〝ありふれたケース〟と言えます」
ウサマネ:「つまり、ここから先の情報によって……ということで?」
ダーティ:「ご明察のとおりですよ。このジョンさんについては、状況というよりも、このジョンさん自身に拒否反応を示すケアマネが多かったようです。少なくとも、マウンテン地域包括の人たちもあちこちの居宅に頼み込んでいたようですが……結局、断られ続けて、ダーティ・ケアプランのような弱小事業所に投げて来たというわけです」
ウサマネ:「はぁ……要するに、ダーティ・ケアプランでの〝いつものこと〟ですか……毎度思うんですけど、地域包括って公正中立がどうのってなかったです? 他のケアマネが断ったり、明らかに面倒くさいケースをうちに振ってくるじゃないですか? そのくせ、当たり障りのないケースは他の事業所に紹介したりしてるし……こーいうのって不公平じゃないです?」
ダーティ:「はは。ウサマネさんは思ったよりも純粋ですね。〝公正中立〟なんて綺麗事を未だに信じてるんですか? そりゃ地域包括という公的な機関に公正中立を願いたいのも分からなくはないですが……プリンセス市の地域包括は委託事業ですからね。地域包括と言えども、自法人の利益を優先したいのは当然のことでしょうし、地域包括の職員も人の子です。日頃から付き合いのある事業所、仲の良いケアマネに〝おいしい〟仕事を振って上げたいというのも自然なことですよ」
ウサマネ:「いや、だからソレがおかしいじゃないですか? そもそも、地域包括が困ってるケースをダーティ・ケアプランで担当を引き受けたりして……割と付き合いはあるじゃないですか?」
ダーティ:「むしろ、だからこそでしょう。他の事業所やケアマネが嫌がるケースをダーティ・ケアプランが引き受けたという実績を作ってしまいましたからね。地域包括からすれば、『面倒なケースはダーティ・ケアプランに投げとけばいいだろ』という程度のことです。なんなら包括側からすれば、『仕事を回してやってる』という感じかも知れません。まぁこっちとしては、仕事を振ってくれるだけありがたいと思うだけです」
ウサマネ:「うーん……都合よく使われてるみたいで、なーんか納得いかないんですけど?」
ダーティ:「ウサマネさん。我々ケアマネの仕事も、所詮は仕事なんです。どれだけ崇高な福祉の精神を声高にアピールしようが、仕事の依頼がなければ食っていけません。包括に都合よく使われようが、掃き溜めのようなケースであろうが、仕事があるなら引き受けるまでです。特に我々のような弱小事業所は、〝地域包括様〟のご機嫌を損ねると仕事の依頼が途絶えますからね」
ウサマネ:「……」
ダーティ:「それに、包括だって単純に忙しいですからね。いちいちケアマネ事業所の事情なんてモノに構っていられないというのもあるでしょう。その辺りについては、ケアマネ側が地域包括に恨み節を出すのは筋違いですよ」
ウサマネ:「そんなモノなんですかねぇ……?」
ダーティ:「依頼の経緯はともかくとして、今はこのジョンさんについてです。これまでのジョンさんの生活歴についても聞いているので、ウサマネさんに説明しますよ」
ウサマネ:「はぁ……分かりました」
◆◆◆
※この物語はフィクションです。日本という国の法律や制度、機関、団体名、諸々の名称などが出てきたりしますが……誰がなんと言おうとフィクションです。
そこのところはくれぐれもよろしくお願いいたします。
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