第5話 隣り合い
小学校も後半戦を迎えた。だんだんと男女の垣根が強くなり始める時だ。だけどエレウテリアも樒も凪奈もとくに距離が出来たりすることはなかった。ただ女子同士のコミュニケーションは密になったようには感じる。さてそんな時代に俺たちは修学旅行を迎えた。
「月への修学旅行か。因縁深いな」
シャトルから地球の蒼を見つつ、俺はそう呟いた。
『最終決戦は月の裏側でしたし、表側は資源基地としての重要拠点でしたから駐留する機会も多かったですものね』
徴兵後にクールスのパイロットになって大体月か各地のスペースコロニーに駐留することが多かった。もっともいい思い出はまるでない。戦争の真っ赤な記憶だけが頭に刻まれている。全ては地球の人類を守るための赤だった。
「蒼いなぁ。きれい」
隣に座るエレウテリアが窓越しに地球を見ている。最近になって大人びてきた彼女の顔はとても美しい。地球を愛おし気に見詰めている。
「わたしはあのあおを目指してここまでやってきたんだと思う」
「何言ってんだお前は。今さっき地球から出てきたんだよ」
なんかボケたこと言ってるけどエレウテリアはもともと月面都市生まれだった。地球には何かしら思うところがあるのかもしれない。
空港から日本国が所有している研修施設へと向かい、そこの部屋に俺たちは荷物を置いた。
「昔は六分の一しか重力がなかったらしいな」
『ええ。もともと月の重力はそれしかありません。ですが月面都市では重力子の生成により地球と同じ1Gを保つことが出来るようになっています』
「進歩様様だな。さて。ではカイフィーくん」
『ええわかっております』
俺は部屋に備わっているLANケーブルを口にくわえる。
「リロイ・ケーニッヒを探し出せ」
『Yes.Sir!』
リロイ・ケーニッヒ。奴の素性はよくわからない。エースパイロット同士付き合いは深い方だったが、あの男の過去を俺はよく知らない。ただ幼いころは月にいたという話だけは聞いたことがあった。月のネットと地球のネットの繋がり方は距離の問題もあり限定的だ。せっかくご当地に来れたので奴の所在を探り当てたい。とりあえず調査はカイフィーにお任せするとして、俺は修学旅行の方に戻ることにした。
修学旅行は名門校らしく真面目な産業見学とかばかりだった。だけどやはり月は月で興味が尽きないことばかりだ。
「月で採れるヘリウム3が現在の地球のクリーン核融合発電の根幹をなしております。かつては見上げるばかりだった月はいまや我々の文明に欠かすことのできない存在なのです」
俺たちはヘリウム3鉱山とその製錬工場を見学した。凪奈は興味深々だったけど、樒やエレウテリアはあまり楽しそうには見えなかった。だけど
「はい。それでは月面探索の演習を行いましょう!」
俺たちは宇宙服を着させられて、実際に月の表面に案内された。子供たちはみな興奮していた。頭上には青い地球の絶景が広がり、身体はまるでファンタジーの様に軽い。
「枢さん!本当に軽いんですね!すごいすごい!」
樒が珍しくはしゃいでいた。
「ふん。みんな子供だな。重力が六分の一になったからと言ってなんだというのか」
そういつつ凪奈はその場でぴょんぴょんジャンプしまくっていた。うさぎかよ。みんなはしゃいでいる。だけど一人だけ大人しい子がいた。エレウテリアだった。
「どうした。いつもならぴょんぴょん跳ねまわってそうだけど」
「お前は怖くないのか?この宇宙の闇が」
エレウテリアの紫の色の瞳が地球ではなく宇宙の闇をじーっと睨んでいた。
「なにもいない闇だ。人も夢も愛もきっと何もかもが蒸発した闇だ。怖い。わたしは怖い」
両手で自身を抱きしめるエレウテリアの顔は青ざめていた。宇宙を見ていると時に自分の命さえも闇の中の一粒の揺らぎでしかないと怖くなる時がある。リープする前の世界でもそうだった。人類さえも広い宇宙から見れば儚い存在に過ぎない。なのに戦争なんかに熱中するなんて馬鹿馬鹿しいのではないかと哲学的なゾンビになりそうな瞬間もあった。だけど。俺はエレウテリアの手を握る。
「確かに怖いな。でも。俺たちは隣同士にいるよ。だから寂しくはない」
エレウテリアの目が大きく開かれた。そして涙を流しながらとても儚げにでも綺麗な笑みを浮かべて頷いた。
「うん。そうだな。おまえがいる。だからわたしはもうさみしくない」
エレウテリアは俺に抱き着いてくる。宇宙服越しでは互いの身体の感触はわからないけれども。この冷たくて寒い宇宙でもここだけは暖かく感じられたのだ。
世界を救うためにロボット兵器で宇宙人相手に特攻をさせられたけど、気がついたらタイムリープしてました。次の人生では特攻させられたくないので、いやなやつに押しつけます! 万和彁了 @muteki_succubus
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