落下幼女はじいさんとinスローライフ?〜異世界送りにされたのでとりあえず帰宅を目指します!〜
玄花
第1話 おい!じーさん大丈夫か
ある日。儂はいつも通りに散歩に出掛けた。それが大いなる小さな旅路。その始まりになる事なんぞ知る由も無く。今思えば、それを知る必要性も無かったのかも、しれんがのう。もう二度と御免じゃよ。あんな疲れる旅路なんぞ。「不要でも無駄じゃなかった。」だ、なんて年老いたジジイが言っても誰に響く訳も無いじゃろうが。あれが「青春」?それも同じくして、
じゃよ。さて、昔話もそろそろ始まる頃合いかのう。1人の小さな勇者と、少しばかり経験豊か過ぎるこの、1人の老ぼれ。その2人の1人物語が。
いせかい、と呼ばれるもう一つの世界での。
─────────────────────
ある日、それは雲一つ無い晴天の日。
独りには余りにも広過ぎる広過ぎる空。
その下で1人の老人は歩いている。
そして、その住宅街の歩道の片隅。
雲一つ、いや、影一つ残す事無く
その空の下から老人は消え失せた。
〜数分前〜
今日も儂は新聞を読む。
毎度、御苦労の事ながら変わらずに
変わっていく社会、見逃していては
碌な事も無い。まあ今まで
見てきた事も大抵、碌な事が無かったが。
さて?そろそろ、昼時かのう。
机に置いてある時計を見てやり、立ち上がる。
少し散歩でもして、体を動かすとするか。歳も歳じゃ、動かなければ化石にだってなりかねん。時間とは本当に迷惑なものじゃのう。
そうして儂は、玄関の大鏡に映る皺の顔に
白髪の老人の顔を見て歩き出す。
ああ、いい天気じゃ。無駄に広い空。
家にコンビニにマンション。
思い返してみれば昔の景色の
跡形も無い。そして、続いて歩いていけば。
今、歩いている風景すらも………?
「はッ⁉︎跡形…も…無い?じゃと?」
急に風景が変わって、何処じゃ此処⁉︎
遂に死んだのか⁉︎散歩ってそこまで
危険なものだったか!?何事じゃっ!!
目に映るのはまっさらな地面。白い空。
死んでしまえば何も無い。本当に何も無い。
そう考える儂には都合の良い事実かも
しれんがのう…そうして頭を悩ませる儂に、
「やあっ!何をそんなに慌てているんだい?」
背後から無駄に元気な声がする。
「だッ誰じゃ⁉︎」
流暢に話し続ける不審な男。
「ははっ!まったく元気なおじいさんだ。
おっとぉ、ボクの年齢がキミよりも
計り知れないほど上っていう事は
突っ込まないで欲しいかな!
……
「誰じゃ?と聞いとるんじゃよ!」
「ん〜っと、名乗るなら、神ですね。」
青年は唇に手を当てて爽やか過ぎる
笑顔でそう名乗る。かみじゃと?
何故か儂の名前を知る青年。
にしても変わった服装のヤツじゃ。
長い金髪に白い布の服。神?胡散臭い。
服装だけは、何処かの神話にでも出
てきそうな代物じゃ。はぁ…まったく、
最近の若者は、ではなく最近の
人間は年寄りから若いやつまで
妙な者が多過ぎる、迷惑な話じゃのう。
「んで、儂はどうなるんじゃ?」
この風景を見て否定するのはどうかと
思うがやはりどうせ死んだとて、変わる
物もあるまい、だからその先くらいは
聞いておきたい、というのも人の常じゃ。
「あ〜、えっとですね〜、
死んでないっすよ?そしてそしてー!
変若水様、あなたには異世界、に
行ってもらいます。その後、
は御自由に老後?を楽しんで下さい!以上!」
いせかい、いせかい…なんじゃ?
ご自由じゃと?老後は散歩で十分なのじゃが?
「まあ、上からの命なので異世界の事なんか
ボクも詳しくは何も知らないんですけどね〜
それじゃあ、」
得体の知れない青年は儂の方に手を伸ばし、
「ふぁぁ?」
「さあっ!行ってらっしゃ〜い!」
そして儂はその純白無色の空間から
得体の知れない風景の見える大きな
穴へと落とされた。神が老人を
労わるだなんて期待はしてないが
一体どういう事なんじゃ⁉︎いせかいじゃと?
「ふぁっ!?おいっ!返事になっとらんぞ
このっ!若者がぁ!儂はどうなるんじゃー!」
足掻いてももう遅い。地に足どころじゃない
地、すらも見えぬ高さから落とされる。
足腰脆くなってる年じゃぞ?死ぬぞ?
そして、自称神は言葉を付け加える。
「あっ!オマケ、付いてますんで〜!
必要になったその時、それを長年の知恵?
でしっかり活用してくたさ…」
その言葉を境に儂は、いせかい?とやらに
送り込まれた。その、とある世界の王国の
町並み、その中に、その中心部にある
噴水の前。いや、噴水の中に儂は落とされた。
びっしょぬれじゃ…
「ケホッ、」
例の爺さんに、
元気そうな男の人が近付いてくる。
「おい、じいさん!大丈夫か⁉︎
急に空から落ちてきて噴水なんかに⁉︎」
「大丈夫に見えたとしたらそれは魚じゃ!」
「おお…これまた元気なじっさまだな…」
「心配は感謝するが、何?噴水じゃと?」
家の近くにそんなもの無いはずなんじゃが…
あっても子供の五月蝿い公園くらいじゃ、
西欧のような風景、青い空にレンガ造りの町。
儂の町から掛け離れた景色。
あの神さんを名乗る奇怪なヤツが
儂を本当にいせかい?にそんなものが
存在するのか?この風景を見る限り
本当に儂の住んでいる町ではないんじゃが…
儂は、呆然として辺りを見渡す。
「と、とりあえずだな…噴水から出ようぜ?」
「あ、ああ、そうじゃな…」
そうして儂は噴水から出る。
「さむっ…」
「そりゃあそうだろ。」
ん?この男耳が尖っとる?そのうえ
変わった衣装じゃ…緑の服、は?
耳が尖っとる?人間じゃないのか…
「んあ?」
体が冷えて頭がおかしくなったのかのう?
やはり噴水で頭が冷やされても冷静さが
欠かれておる。頭の情報の処理ができて
おらんようじゃ。
「さて、ここは、日本か?」
明らかに違うと分かったうえで儂は問う。
「にほん?どこだあ、そりゃ?
それはともかくここ、この国は
ローリッシュ・ジークラフト王国。
その場所だぜ!」
ほう…本格的に駄目になってきている気が、
帰って昼食でも取りたいのじゃが…
「あ〜あ〜、もういい、
心配は感謝するが去っとくれんか?
色々と信じられなくて気が狂いそうじゃ」
儂みたいな老いぼれと関わっても時間の無駄
じゃよ、、、ついでに言っておけば
得体の知れないヤツと関わるのは御免じゃ。
「あ、ああ分かったが…無理はするなよ、」
後ろ姿を見て儂はニヤリと笑う、
「なあに、もちろんじゃよ…へ?」
まあ、綺麗な空じゃ悪夢にしてはのう?
空中から何かが落下しておる。
落下してきておる、儂に目掛けて、
隕石…?それにしては小さいのう、はは…
本当にどうにかなってしまったのう…
儂が落ちて来て他の者が落ちてこない
理由もあるまい…それは声を発しながら、
「とわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そうして、それを避けようと思考するまでにも
至らず、儂の頭に何か、が衝突する。
[ゴトッ!!!!]
頭に鈍器でもぶつかったかのような音。
「⁉︎へぐッ!………」
落下して来た幼女は口を開く。
「んあれっ⁉︎もしかしなくてもここがいせかい?
うわ!なんか、すごくすごいよミミっ!」
飛び跳ねながら笑顔で誰かに話し掛ける。
それには、冷静な返事が返ってくる
「うん、そうみたいだね〜あと…
おじーさんが下敷きになってるみたいだよ?
なんか、泡ふいて蟹みたいに…」
そうして幼女は地に這いつくばる
白髪の老人を見る。さながら蟹。
「んー?かにさん?いいねー!おしいそうっ!
え、なんでかにさんなこんなところに?
………キャッ⁉︎」
「おいおい、大丈夫か?おじーさん?
おーい、なあ、おーい…え…
だいじょぶじゃない?」
音信不通の老人を見て、幼女は
その上で、慌ただしく動き出す。
「へっ!?はわわわ…
どっ、どどっ!どどうしよミミ!!!
おじいちゃんっ⁉︎いまおりるからねっ!
ほんとに、ほんとにごめんねっ!!!」
呆れた声で再び誰かが幼女に言葉を返す。
「ははぁ…どうしようか、ナナ…
起きないよ、このじーちゃん、」
そうら言ったが、どうやら
気が戻ったみたいだ…
「…………っんがッ⁉︎なんじゃあ?
確か儂は散歩をしていたはず。
何故か頭というか身体中が痛いのじゃが…」
「あ、起きた。」
「おい!じーさん、大丈夫だったのか⁉︎
やっばい音聞こえて後ろ振り向いたら
気絶してたぞ?あれ、1人増えてやんの孫?」
再び参上、異世界人その1。
「痛いを通り越して記憶が混濁しとるわい…」
すると、その異世界人は意気揚々と語り出す。
「そうか、なら改めてだな。
ここはローリッシュ・ジークラフト王国。
その城下町、中央噴水広場であり、我らが
神様…名前なんだっけ…の像の前だ!
なんだ?そうっ!にほん?じゃあないぜ!
ここは、ローリッシュ・ジークラフト王国だ!」
はぁぁ…
テンション高いのう…愛国心は認めるが、
ほう…儂はこの方、純日本人として生きて72年
人生初のいせかい、に到達したらしい…
儂はまだ認めんがのうっ!!!
つづく
落下幼女はじいさんとinスローライフ?〜異世界送りにされたのでとりあえず帰宅を目指します!〜 玄花 @Y-fuula
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