天使になんか好かれたくない

@ryou_0124

1.風雅という男

 「暇やな……」

 俺は騒がしい教室でポツリとつぶやいた。声を拾ってくれる人は誰もいない。それもそのはず、俺はクラスで孤立しているのだ。その理由は単純である。ただ暗い。それだけ。だと思ってる。最初は一生懸命に話しかけていたクラスメイトも俺に話しかけることがなくなった。

 俺に非はないため(もしかしたらワンチャンあるかもしんないが)孤独を気にしたことはない。………………嘘、少し(結構)気にしている。そのため休み時間はいつも机に突っ伏して寝ている。今も同じ体勢で寝ている。正確には寝たふりをしている、なのだが。

「はぁ……。貴方ねぇ……」

 しばらく机に突っ伏していると、頭上から呆れたような声が聞こえた。

「あ?なんやねん」

 突っ伏したまま生意気に答える俺に対してその声の主はこう答える。

「貴方さぁ……。一回その顔上げてから返事してください。そんなだから友達出来ないんですよ」

 ずっと同じ体勢の俺にズバズバと突き刺すような言葉を言う。それを聞いてもなお、顔を上げようとしない。だってめんどいんやもん。こいつは毎日のように俺のとこに来ては色々と文句を言いに来る。余計なお世話だってんのに。俺は一人を楽しんでんの。邪魔しないでほしいわ。

「何で人間界に連れてこられたのか忘れたんですか」

「うるさいなぁ」

 俺はそう言ってようやく顔を上げる。透蒼(とうあ)の眼鏡の奥で翠色の目が光ったような気がした。

 黒羽風雅(くろばふうが)、十六歳。今年の春から神代高校に通い始めた高校一年生。毎日普通に学校に来て授業を受けて、普通に家に帰る。ただそれだけの日々。……というような設定の中生活しているのだが、このプロフィールは完全にフェイク。

 本当の俺はこんな平々凡々なヤツじゃないってことよ。

 本名シュトルツ・フウガ。今年で齢一五〇。悪魔の世界、魔界に住んでいる魔族の中でも何不自由ない結構裕福な家庭で育った。いわゆる貴族っていうやつやな。貴族やぞ?位が高くてえらいやつー。

「……何ブツブツ言ってるんですか」

「………………別に何も?」

「ニヤニヤと気持ち悪いですね」

 まるでゴミを見るような目で俺を見下ろす透蒼。相変わらず口が悪い奴やでほんま。こんなかっこいい風雅ちゃんのことをそんな風に言うなんてサイテー!処刑しちゃうんだから!プンプンッ。

「気もっち悪い……。てか、貴方の考えてることなんて丸分かりなんですよ」

 ふーん、言うたな。当ててみてや。わざと挑発的な態度をとってみる。どうせ当たらんから。

「まぁ、貴方のことですから、どうせ想像の中でマウントでも取ってたんでしょ 。『俺貴族やから』みたいな感じで」

 ぅえー……。当たってるやん。ここまで来るとキモいぞ透蒼。まぁ、お前俺のこと大好きやもんな(笑)。

「大好きなわけないじゃないですか。そんなこと言わないでください。鳥肌立つんで」

「俺の思考読むな、キモい」

「貴方がめちゃくちゃ顔に出やすいのが悪いです。俺別に今魔術使ってないですし」

 嘘やろ、マジ?俺そんな顔に出とんの?えー嫌や。こんな奴に思考回路読まれるなんて俺のプライドが許さん。

「ていうか、話そらさないでください」

「……逸らしたつもりないけど」

「貴方、何で自分が人間界に連れてこられたのか忘れたんですか」

「分かってるつってるやろ。まったく同じこと二回も言うなバカが」

「”まったく”ではないです。同じ文章言う前に”貴方”って付け足しました」

 ほぼ同じやろ。そう心の中でツッコむ。

「話を戻します」

「貴方と私が二人そろって人間界に落とされたのは完っ全にアンタのせいです。そこんとこ理解しておいてください」

 やっべ。俺のことアンタ呼びするときはほんまにキレてるときや……。

 


 普通なら悪魔が地に落とされることはない。なんで俺が落とされたかというと…………。言いたないなぁ………………。まぁ、完全に俺のせいではあるんやけど……。

 まぁ、な?俺の特技っていうか好きなことっていうんが「おもろい魔術」なんやけど、プロフィールにも書かせてもらってます。ありがたいことに。感謝ですわホンマに。そんなどうだっていい話は置いといて、その魔術でいたずらをしまくった結果よな。一応貴族の家系なんで結構いい家柄の人との交流もあるんよ。その、な。俺らとは比べ物にならないくらい偉い人の家に家族全員であいさつに行ったときな?マジで失礼したら立場なくなるくらいのエグイ人の家。今更言っても言い訳みたいになるんやけど、魔が差したんよ……。

「笑い事じゃないです」

 そんな怖い顔で見んといてや透蒼……。

 話の続きをすると、そのどえらい人のご飯に、うわ、思い出しただけで気分が悪くなってきた。えっと、その人のご飯にな、サラダやったんやけどマヨネーズとケチャップと醤油とか塩とか砂糖とかをブレンドして、ばれないように魔法で透明にした調味料類。それプラス……乾燥した虫とかトカゲとかカエルとかを入れたんよな。目に見えないほど小っちゃくなってるやつ。体ン中、胃液で復活するタイプのやつらをサラダの中に入れた。あ、ちゃんと安全性は守られてるで。別に毒を持ってるやつらちゃうし。とか思いながらその時はやってしまったんよな。

 まぁ、案の定そのお偉いさんは食って……。結論言うと吐いて、その後一ヶ月ほど体調崩して死にかけました……。まさか、あんな事態になるななんて思ってもいなかったもんで。幸い、お偉いさんは優しくて特に何もなく許してくれたんだけど、そら親は許さんよなぁ。だって、自分たちの立場消える可能性あったんやもん。ということがあって、罰として人間界に落とされた(地獄のほうが下やけど)というわけや。しばらくは帰ってくんなやと。ついでに人間界について学んで来いって。


 

「ちゃんと反省してください」

 俺って名家の家の息子やからもちろん(?)執事というか俺に仕えているあくまがいるんよ。で、そいつがこの透蒼。エルンスト・トウア。小さいころから俺の側にいてくれている一番信頼しているヤツ。で、俺の過ちのせいで仕えているトウアも一緒に落とされたらしい。俺の側近やからな。申し訳ないけど、まぁ、ドンマイ!

 だからこんだけキレてるってわけよ。マジでごめんちょ。

「……ふざけてます?」

「んふ。ふざけちゃった」

 テヘッというような効果音が付きそうな顔をすると、ついに透蒼お怒りモードMaxになったのか。

 バゴンッ!

 現代の教室では中々聞かない音が俺の頬を打った。

「いっでぇ!!」

 つい大きく叫ぶ。周りの奴らも音に驚いてしまったようで、こっちを見ている。

「……すみません。アンタの顔面に蚊がいましたので」

「そんなわけあるか!こんのくそったれ!」

「……退治できていなかったんでしょうか。まだ蚊が……」

 そう言って透蒼はまた拳を振り上げる。

 キーンコーンカーンコーン

 ちょうど昼休み終わりのチャイムが鳴り、みんなが移動し始める。そういや次は移動教室やったな。

 よかった。チャイムのタイミング最高すぎる。もしあと何秒か遅かったらまた透蒼にぶたれる羽目になるところやったわ。

「残念です。アンタをもう一発殴るつもりだったのですが」

 そう言い残し、透蒼は他のクラスメイトのところへ行った。あいつ、俺とは違ってちゃんと友達作るやつやから。なんだかんだ言って楽しんでんじゃねぇか。

 ということで、俺はまたぼっち移動ってことですね。まぁ、慣れたことやけど。そんなこと考えていると背後からか細い声が。

「ね、ねぇ黒羽くん」

「なに」

「さ、さっきの頬っぺた大丈夫、だった?」ビクビクと震えながら聞いてくる。

「そんなのお前に関係ないやろ」

「ご、ごめんなさい!」

 いつものように返すとその小動物みたいなクラスメイトは、おびえたように走って行ってしまった。

 俺、なんかしたっけ。前を歩いていた透蒼はチラリとこちらを見てため息をついていた。

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