AIの成長が著しい今、俺の物語を作る夢。叶えるにはラストチャンスなのではないかという話

富熊ロウ

AIの成長が著しい今、俺の物語を作る夢。叶えるにはラストチャンスなのではないかという話

 頭の中で行われる妄想は、そこまでも自由で無限大だ。


 小説でも、漫画でも、アニメでも、ドラマでも、映画でも。


 何かしら物語に触れたことがあり、それを好ましく思っている人間なら、一度は頭の中で物語を作った経験があるだろう。


 登下校や通勤の途中。ご飯を食べている途中。布団に潜り、目をつむった時。

 いつでも、どこでも、どんな時でも。


 自分の妄想の中で描き出された物語は、どこまでも甘美で魅力的な、自分のための世界でたった1つの物語だ。





 そんな俺も、頭も中に無数の物語がある。


 趣味は物語の鑑賞。

 映画でも、アニメでも、漫画でも、小説でも何でもござれだ。


 そして、もう1つの趣味は妄想。それもほとんどは物語について。

 触れてきた物語の展開や、結末に”あーでもないこーでもない”と、好き勝手に”自分ならこうする”と頭の中で描き出す。


 もしくは自分の大好きだった物語のシーンを思い出して、その甘美な夢を頭の中に描き出してもう一度酔う。


 そんな。「またよそ事を考えている」と周りから何度も注意を受けてしまうような、そんな奴だ。


 俺は…まぁひどいほうだけど。大なり小なりな全人類そんなもんだろ?




 じゃあ、そんなに物語と妄想が好きなら、自分で物語を描いたことがあるんだろうって?


 簡単に言うな。

 頭の中の妄想を外に出すには技術がいるんだよ。


 漫画を作るには画力が必要だし、脚本を書くには知識が必要だし、小説を書くには文章力が必要だ。


 俺の性格は、そういうコツコツそういうのつけるには向いていないんだよ。


 そう、自分に言い聞かせて逃げているだけなんだけどな。


 本当は、自分の頭の中の物語を何かで形にしたい。ずっとそう思っている。

 思っているだけだ。

 




 そんな俺の心情を変える出来事が、最近は起きてきていた。

 AIの発達だ。


 ここ最近、爆発的に進化しているように感じているそれは、創作を人間様の専売特許では無くしてしまった。


 誰でも簡単にそこそこレベルのイラストを生み出し。


 神の一手は幽霊ではなくそいつが極め。


 ボーカロイドの楽器性を奪いつつある。


 若干、俺の趣味に偏った例えをしてしまったが、とにかくこのAIってやつはやばい。


 いつか人間が生み出す、すべての頭脳から資産がAIに取って代わられた。

 そんな日が、確実に迫っているように感じる。




 俺は心のどこかで、人生の中で、物語を生み出すチャンスも時間も無限にあると思っていた。


 ふと、どこかで時間が空いて、本当に心の底からやる気が出てきて、いつかのタイミングで物語を作ったりするのだろう。


 そう思っていた。

 でも、もしこの先、AIが物語を作り出したら?人間の物語に対する思考能力を、妄想する力を、いつかあいつが越えてしまったら?


 チャンスなんか、俺が思ってるよりずっと短いんじゃないか?


 そう思うと、俺はなんだか無性に急かされる思いになった。


 AIの歩みなんか、凡人である俺なんかには到底予想なんかできないし、止められない。


 それを考えると。

 俺の、いつか物語を作ってみたいという漠然とした、夢と呼ぶにもおこがましい漠然としたこの思い。


 叶えるにはラストチャンスなんじゃないか?

 無性に物語が描きたくなってきた。



 こうして俺は、今までは物語を享受することにしか使っていなかったパソコンを、自分が物語を生み出すために起動した。


 まぁ、そんな簡単にいくとは思っていない。


 どんなに妄想が得意でも。それを外に出すのは技術の領域だ。

 それでもいい。やってみよう。


 俺は、椅子に座り伸びをした。

 このままだと、いつか後悔してしまうかもしれない。



 そもそもチャンスなんて、人間がいつか死ぬ以上。元から有限なんだけどな。


 それぐらい、最近のAIの進化には衝撃を受けているって話。


 お願い神様。せめて俺が生きている間だけは、人間から物語を奪わないでください。




 俺が死んだあとはいくらでも奪っていいんで。

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