第一話 そうはならんだろ!!
俺は昔っから不幸だ。良い事を経験出来た試しなんて一つたりともありゃしない。
どんだけ対策をしても、どんだけ警戒しても、どんだけ拒絶しようとしても、必ず不幸な目に遭う。もはや体質といっても良い。
でも、俺にはそんなどうしようもない不幸を背負ってでも叶えたい夢がある。それは……もう命が長くない俺のばあちゃんの為に大金を稼いで、そんで救って、また仲良く一緒に平凡で幸せな生活をする事。
けれどもその道は遠かった。その夢の為に頑張って、結局は不幸のせいでお金は増えないばかり。食費を削っても、生活費を節約しても、一向にお金が増える事は無かった。
これ以上削っていったら俺はいつしか働くことすら出来ない身になる。そうしたら俺は夢も叶えられなくなる。だから俺は上手く行けば一攫千金を稼げる、攻略者になる事を選んだ。
幸い俺には最低限の才能はあった。生まれて初めて、自分の運に感謝した。
それからというものの、俺はがむしゃらにダンジョンへと潜っては、攻略をする生活を続けている。今日もまた、俺はダンジョンへと潜る。
そんな俺の名前は
ソロでの攻略者をやっていて、何回か中難易度のダンジョンを攻略している。腕には自信があるつもりだ。
ただその腕前以上に運が無く、どんだけ罠や敵の対処が上手くても、何かしらで不運を発揮して生と死の狭間に追いやられる事が多々ある。
しかも……初心者が潜るような低難易度でも最低1回は死にかける。お陰で毎日命は超が付くほどの低空飛行。一歩間違えれば死のナイアガラフォールだ。
それでも、まあこれまで一度たりとも病院に行ったことはないがな。
「配信準備よし。お兄の方は?」
「こっちも用意できた。始めてくれ」
ダンジョン入口の簡素な広間にて。観夢がコントローラーの電源を入れると、配信用のドローンが飛び上がり、こちらに小型のカメラを向ける。
静かなダンジョンの中で、俺達の呼吸音を掻き消すようにドローンの駆動音だけが響いていた。
「よし……どうも☆超天才美少女ダンチューバー、百合ちゃんだぞ☆」
今日も決めポーズが可愛い……ってそうじゃない。今ドローンに向かって決めポーズをしている、セミロング茶髪茶眼の美少女は
俺の大事な妹で、よく俺のダンジョン攻略を配信してもらっている。とはいっても、その配信に来てくれる視聴者はどういうわけか百合を目当てに来ているようだが……。
まあ俺の役割といえばダンジョン攻略と百合を守る為の後方腕組み係だから仕方がない。
後、最後にこれだけ言っておく。俺はシスコンではない。ド級のシスコン、ドシスコンだ。
「――と、いうわけで!今日はこのひっ……ろぉ〜いダンジョンに来てます!お兄、これどんぐらいあるの?」
「案内員によるとざっと東京ドーム1個分はあるんだそうだ」
「えぇ〜!?」
百合とそんな会話をする間、俺はちらりとドローンの方を見る。
【百合ちゃん驚きすぎて草】
【今日も可愛いな】
【ワイトもそう思います】
ドローンの横には先程まで無かったホログラムが表示されており、配信に来てくれている人のコメントを映し出している。ざっと読んでみたが、今日も今日とて百合に関するコメントしか表示されていなかった。
妹が不埒な大人に変なことされないかお兄ちゃんは心配だ。
「よし、それじゃあ行ってみよ〜!」
☆★☆
「――どぉしてだよぉー!!!」
「あっはは!お兄の顔面白〜い!」
【い つ も の】
【こいついっつも不幸してんな()】
【ログボ回収】
俺は今、百合と手を繋ぎながら巨大な鉄球に追いかけ回され、ダンジョンの中を全力疾走している。
何故かって?トラップの解除に夢中になってた俺がたまたま大きな段差に引っかかるだろ?その後姿勢が崩れて近くの床に手をつくだろ?その後たまたま床にあったトラップを踏むだろ?それで鉄球が来るだろ?それで今こうなってるってわけ。
「そうはならんだろ!!」
「あはは〜!」
この後「なっとるやろがい」と言いたくなってしまうノリツッコミをしながら、俺は鉄球にぺしゃんこにされないよう一生懸命走り続ける。
トラップを踏んで走り始めてからかれこれ1時間。足はもう限界で、肺は焼けるように熱く、口はやや冷たいダンジョンの空気を取り込み続けたからかとても痛い。
「攻略者が、幾ら丈夫だからと……いっても!ぐぬぬぬっ……っあ!百合!こっち!」
いい加減鉄球を撒きたいと思った頃、丁度良い窪みを見つけたので俺は百合の手を引っ張り、一緒になってスライディングで窪みへと入り込む。
すぐ後ろでは、鉄球が自分の髪を掠めていた。
「あ゙ぁ゙ぁ゙!!はぁ゙!!」
「ふぅ……」
【ナイス撒き】
【攻略者でも不味いんだな。あの鉄球】
【あれ壊せる奴は相当強い奴しかいねえよ】
【
【当 た り 前】
無事ぺしゃんこにならずに鉄球を撒くことは出来たが、後ろからは鉄球が地鳴らしを起こす音が聞こえてきている。
もしあのまま走り続けていて、途中で体力が切れてぺしゃんこになっていた事を考えると、少しぞっとした。
まだ脳に酸素が行き渡っていない事も相まって、音はグルグルと頭の中で反芻しており、恐怖は倍々となっていく。
ゴロゴロゴロゴロ……――
暫く窪みの中で呼吸を整えていると、次第に地鳴らしの音も鳴り止んでいく。
そろそろ大丈夫だろう。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ、今回は危なかったねお兄」
「ほんとに……な゙」
【おつかれ】
【おつおつ】
窪みから出た後、走り続けていて疲れたので、手を膝につけ荒い息を吐き出す。
疲れを少しでも和らげようと下に向けた頭からは汗が滴り落ち、雨漏りのように地面に落下して吸われていく。
横には汗一つかいてない百合が立っており、ドローンに向かって色々言っていた。
散々鉄球に追いかけ回された後だと言うのに、まあ運動得意な所もお兄ちゃん好きだよ。
「あ〜……腰痛っ」
少々妹愛が脳内で爆発してしまったが、俺は思考を再び現実へ戻す。ゆっくりと姿勢を元に戻し、腰が少し傷んだので前後屈をして治す。
そろそろ最深部なのでしっかりと気合を入れ直し、ショートソードを構え、周囲を警戒しながら進んでいく。
特にトラップも見当たらず順調に進むと、突き当たりに最深部らしき開けた空間がある廊下へと出た。
「おっ、あれボス部屋ですねぇ」
「よし……しっかり荷物確認をしてから進もう。ここまで来たならもうトラップは無いだろうからな」
【wkwk】
【今日は案外早かったな】
【もしやもう一回潜るんか】
【トラップはボス部屋前にもあったりしますよ〜】
念入りに荷物を確認し、自分の立ち回り方をある程度把握した後、ボスへの怖さを打ち消すように俺は鼻歌を歌い始める。
「ふんふふ〜ん♪――」
カチッ……
「へっ……!?」
【草】
最深部が見えたことに浮かれて足元の確認を怠っていたのか、カチッという嫌な音が廊下に
どうやらトラップは魔法が施されていたのか、次第に周囲は赤い光に包まれていく。
〘
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