第2話 あの世
あの世は、思ったよりもガヤガヤしていた。
空は夏の夕暮れのような薄紅色。地面は雲でできていて、フカフカしていた。しばらく歩くと、向かう先に汽車が見えてくる。博物館でしか見ないような、古めかしいいでたちをしていた。
汽車の前に人だかりができている。駅員姿の天使に、たくさんの人が群がっていた。
「わしゃ天国にいけるんですか?」
「天国も地獄もございません。あの世はあの世オンリーでやらせてもらってます」
「じゃあ私の息子を殺した奴も、地獄に落ちてないってことなんですかっ」
「心中お察ししますが左様でございます」
「天国へ行くために神を信じてきたんですが⁉」
「ええそうおっしゃる方は多いですがこれが現実なんです」
「死んだのに現実なんですか?」
「まだ受け入れられないでしょうが現実なんですよ」
「なんで、なんで私が死ななくちゃいけないんですか!」
「とにかく!」
駅員の天使が、羽ばたいて人々を蹴散らす。興奮のサインなのか、天使の輪っかが高速回転していた。
「汽車に乗ってください!中で説明がありますから!」
「私飛行機がいいんですけど」
「ええいそんなものあの世にはない!」
「でも汽車はあるんだなあ」
環は思わず呟く。
「現代人に合わせてあの世も変わっているんですよ。そしたら今度は電車がいいだの新幹線だのリニアだのってこっちは何するにも時間がかかるっていうのに……」
駅員が環を二度見する。
「あ、え、え……?」
胸ポケットから小冊子を出し、慌ててめくる。
「こ、これだ」
震える手で笛をつかみ、七回鳴らした。
「と、とらえろーっ!」
死者たちの目が、環に集まる。
空から、白い衣をまとった五人の天使たちが環に集まる。
「な、私何もしてないんですけど!」
「お前はまだ死んでいない」
「ここは死者以外が来ていい場所ではない」
両脇から環をつかむ天使が言う。
「即刻、この世に帰ってもらう」
「いやこういうのって、三途の川の前で死んだじいちゃんとかが『お前は、死ぬにはまだ早い』とか言ってくれるやつじゃないの。なんでこんな義務的なのよ」
「やかましい!とにかくお前はこの世行きだっ!」
「ちょーッと待ちなさァい」
空が震えるような、大きな声が響いた。
薄紅色の空に、ぬうっと巨大な女の顔が現れる。天使たちがその場に平服する。突然腕を離された環はしりもちをついた。
「あなた、
「私の個人情報が、大公開されちゃってるんですけど……」
「それもそうねェ」
女の顔が光に消える。まぶしさに閉じた目を開くと、女が人間のサイズとなって立っていた。
女は純白の衣をまとい、白い杖を手にしていた。深い青の髪に、夜空のような瞳。全てを見透かされているようで、彼女が神だと
「私はあの世の門の神。ユスティラと言うわ。よろしく」
絹の袖を優雅に揺らし、手を差し出す。ギリシャの神のような彼女に見とれていた環は、慌てて握手をした。
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