第4話 突然のラッキースケベイベント


「市場は英語でなんというのだ、サー・イシュタリオン」

「さあ?」

「ダジャレか!」


俺はまたしてもバチコーン! とアリシエラに頭をはたかれた。

どこがホワイトなお仕事なんだよ。

おこです。

まあでも、実際にはアリシエラは子供だし猫パンチのようなもんでそんなに痛くないけどな。


「マジメにやれ!」

いや別にダジャレ言ったつもりないんだけど。と思いつつ、俺は英単語集の後ろのほうの和英索引ページを調べた。

市場、市場っと。あった。

「なんだ、マーケットか」

逆にかんたんな言葉すぎて出てこなかったぜぇ……と、赤点ギリギリマン(たまに赤点マン)のくせに俺は心の中で負け惜しみを言った。


「ふむ、まーけっとならば発音しやすそうだな。では次回はてれぽーろを使って来てもよいな」

と、アリシエラ。


俺とアリシエラ、それにアリシエラの従者トルックは、宮殿の外に広がるいわば城下町にある、市場にいた。

朝、起きたら俺は制服のまま寝てしまっていたのでブレザーがしわになっちまってた。起き出してきたアリシエラが、朝食をとったら服や必要な品物を買ってくれるというからついてきたのだ。


市場は活気があり、いろんな物が売られていた。要り用なものはそこで買うことができた。


・衣服(制服のままじゃ替えがないし浮いてる)

・カミソリ(髭剃り用)

・マント(ここの気候は現在、暑くも寒くもないが、一定以上の地位にある者はマントを羽織るのが常識らしい)

・布の鞄

・木のお椀と木のカップ

・短刀(いつ使うのか知らんけど買えと言われた)

・水筒(いつ使うのか知らんけど買えと言われた)

・羽根ペンとインク(筆記用具は持ってるけどいちおう)

・石鹸と歯ブラシ、歯磨き粉(歯ブラシがある世界でよかった……)


とかだ。

木のお椀とか、なかなかに初期装備感がある。


アリシエラは途中、屋台で売ってたプラムみたいな果物にめちゃくちゃ砂糖がまぶしてあるお菓子を買い食いしていた。

俺とトルックにも買ってくれたが甘すぎで最後まで食べるのに俺は四苦八苦した。


もちろん日本円は使えないからそのお菓子だけじゃなく、全部アリシエラが銀貨と銅貨で払った。皇女様ごっつぁんです!


俺たちは買い物を終え、トルックがここがおいしいです、と言って選んだ食堂の、道にはみでたテラス席(と言うにはまったくオシャレ感はない)で昼メシを食べているところだ。


この世界ではみんな字が読めないからメニューにはヘタウマみたいな食材の絵が描いてあった。


豚、牛、鶏、羊、エビ、お米、野菜などの俺から見ても違和感のないもののほかに、どう見てもトカゲとか猿とか、何なのかよくわからない真っ黒い丸に毒々しい赤い点々がついている何かとかがあった。


俺はまだチャレンジ精神が湧かず、無難に牛肉と野菜と米を選んだ。


調理方法も選べたから炒め物にしてもらうと、肉野菜炒め的なものと、米はおかゆをにして食べるのが一般的とのことでおかゆが出てきた。

おかゆと肉野菜炒めってちょっと合わねーや。でもそれぞれの味はうまかった。


トルックは鶏肉と根菜のシチューとパン、アリシエラはアップルパイの横になぜかソーセージが添えられた料理をモリモリ食っている。


周囲の庶民がちらちらとこちらを見ているのだが、最初はアリシエラが皇女殿下だからかと思った。


が、違った。


ーおい聞いたか、あのお方、新しい詠唱官様だそうだ

ーお若いな

ーあの服かっこいい!

ーお顔も凛々しくていらっしゃるわ~

ー姫様のお命を救い、さっそく手柄を立てられたとか。さぞ優秀なのであろうな


そんな声が聞こえてきて、悪い気はしない。


凛々しいなんて言われたこと、生まれてから1度もないぜ。絶対〈詠唱官〉補正入ってるだろ。


俺が、隣の隣のテーブルの若い町娘たちをちらっと見ると、彼女たちは互いに顔を見合せて嬉しそうにきゃ、なんて言って笑顔を見せた。


ちょ。これ、思ってたよりずっとよくね?


俺はこの世界で生きる希望が湧いてきた。


定期テストをもう受けなくて済むのもいいね! 定期テストどころか小テストだってGテッ○だって受けなくていいんだぜ? 最高では?


「ふう、満腹じゃ」

と、満足そうにアリシエラがぽんぽこになったおなかを撫でた。食いすきだろう。でもまたはたかれると嫌だからツッコミは入れないでおいた。

「そろそろ帰るとするか」

それからアリシエラは悪戯っぽくにっこりした。

「てれぽーろで帰るところをみなに見せてやろう。喜ぶから」


というわけで。

アリシエラが手からあわあわを出し始めると、皇都ラリパッパの住民たちの興奮は最高潮に達した。


おおーーーーっ


という感嘆の声が周囲に波のように広がっていく。


そして、俺は例の大学ノートをデイバッグから引っ張りだし、昨日と同じように〈詠唱〉した。


「てれぽーととぅーざぱらすーーっ」


一瞬、頭がくらっとして、


あれ……なんか湯気が……


湿った湯気ががもくもくしていて何も見えない。

どこここ。

風呂場?


と思った時。


湯気が少し薄れて、すらりとした少女の白い裸体がうわーーーーーーーーーっ


「きゃーーーーーっ!!!!!」


ヤバヤバヤバのヤババババババ


「どこにてれぽーろしとるんだこの馬鹿者ーーーっ!!」

「私は何も見ておりません見ておりませんどうかお許しををををを!!」

アリシエラが喚き、トルックが這いつくばって顔を伏せる。


「いやーーーーっ!! なんなんですのアリシエラ!」


少女は長い紺色の髪と手で大事なところを隠しながら、頬を染めていた。目の覚めるような美少女だった。


俺の運命の女、大神聖帝国第二皇女サマースターとの、これが出会いだった。

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2024年12月16日 21:10

赤点ギリギリ高校生の俺、英単語が読めるだけで超絶尊敬される異世界で神聖帝国皇女の詠唱官となってチートなスローライフする! 赤宮マイア @AkamiyaMaia

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