第4話

 初デートを終えたユキノは帰ってくるなり部屋に飛び込み、ベッドに転がるとサンタを引き寄せる。


「最っ高! 楽しかったぁ! ドキドキしたぁ~」


 ギュッとサンタを抱きしめてゴロゴロしているとスマホからピロリン♪と音がする。慌てて手に取って画面を見ると『また遊ぼうね』とアキトからのメッセージ。


「やったぁ! やったよ、サンタさん!」


 潰れるほどの力でサンタを抱きしめたユキノは喜びでベッドの上を転げまわった。



 それ以来、ユキノとアキトの間にプライベートなメッセージのやり取りが続いた。ユキノにとって至福の日々が過ぎていく。


「もうすぐクリスマスかぁ……」


 恋人とのイベントをアキトと過ごせたらどんなに幸せだろうと、メッセージアプリに『クリスマスは』と打ちかけて慌てて消す。


「……まだそんな感じじゃないよね」


 ちょっと寂しそうにそう呟いたユキノは布団を被ると目を瞑った。




 サンタが動き出す。


 ユキノの枕元に置かれたスマホを手にすると、あらかじめ隠してあったタッチペンを取り出し、流れるような所作でパスワードを解除すると『クリスマスは空いてますか?』と打った。


 そんなサンタを、後ろから目を開けたユキノが見ていた。信じられない光景だったが、暗闇の中、液晶の光でハッキリと分かる画面に表示されている文字を見て慌ててサンタの頭を右手で握った。


「お前か、犯人は」


 頭に指がめり込むほどの力で握られたサンタは、スマホとペンを持ったままグルっと向きを変えられ、にらむユキノと視線を合わされる。


 ぽちっ。


 サンタは動じず、メッセージを送信した。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ! お、送ったぁぁぁっ!!?」


 ユキノはサンタの首に手を伸ばして締めた。サンタはスマホとペンを手放し、その可愛い手をペチペチとユキノの手にタップして苦しいと意思表示する。


「いや、こんなことをしてる場合じゃない。メッセージ取り消さないと…… あぁっ!もう既読ついてるっ!!」


 ガクンと肩を落としたユキノは「まだ心の準備が…… 断られたらどうしよう……」と呟く。


「サンタさん…… なんでこんなことを……?」


 そう問われたサンタはベッドに転がっていたスマホを手に取るとメモ帳アプリを開いて文字を打つ。


『ユキノちゃんが大好きだから。 上手くいったでしょ?』


 それを見たユキノの眼にじわっと涙が溜まる。サンタをギュッと抱きしめて「うん、ホントだ。上手くいってる」と言ってポロっと涙を流す。


 ピロリン♪と鳴ったスマホに『空いてるよ。遊びに行こう!』と表示された。





 クリスマス当日。


「じゃあ、お母さんは買い物行ってくるから。 出掛けるなら鍵よろしくね」


「はーい」


 食卓から母を見送ったユキノは部屋に戻るとサンタに問いかけた。


「服は、コレでいい?」


 ハンガーに掛けられた服を示して問うとサンタは力強く頷いた。下着は既に勝負下着である。


 よしっ!と気合を入れたユキノは着替え、洗面所で身だしなみを整えると部屋に戻って来、サンタの前でクルっと一回転して言う。


「どう?」


 サンタは手を前に出し、グッドと親指を立てる。


「よし! い、行ってくるね!」


 気合を入れてドアノブに手を掛けたユキノにサンタは、いってらっしゃ~い、と手を振った。


 しかし、いつまで経っても家の玄関ドアが開いたりする音が聞こえない。どうしたのだろう?とサンタはベッドから飛び降り部屋を出て、トコトコと歩いて玄関まで見に行った。


 そこには少し青い顔で玄関ドアに手を掛けて固まっているユキノの姿があった。


 しばらく見守っているとユキノもサンタの存在に気が付いて振り返る。腕を組んで少し斜めの姿勢をとるサンタは何か言いたげである。


「……分かってるよ。 でもやっぱりクリスマスってなると特別っていうか、普通のデートと違うじゃん。緊張するっていうか何ていうか――」


 サンタはその言葉を最後まで聞かず、トコトコと歩いて玄関ドアをガラッと開けるとユキノの背に回ってピョンと高く飛び上がり、バシッ!っと思いっきり背中を蹴飛ばした。


 突然の蹴りに驚き、蹴られた勢いで外に出てしまったユキノの背後でガラッ!とドアが閉まり、ガチャ!っと鍵の閉まる音がする。


「あっ! 鍵まで閉めたな!」


 振り返って怒鳴ったユキノだったが、すぐに「あははっ」と笑い、「ごめん、ありがとう。サンタさん」と言って待ち合わせ場所へと歩き始めた。





 荒々しく玄関の引き戸がガラッ!と開けられ、「ただいまー!」と元気な声で帰ってきたユキノは、ドタドタと階段を上がって来て部屋の扉を勢いよく開く。


「やったよ、サンタさん! 告白されちゃった!! 彼氏できたぁ! アキトくんと付き合っちゃったぁっ!!」


 ベッドに飛び込み、サンタを引き寄せると抱きしめる。しかしサンタに反応はなかった。


「あれ? サンタさん?」


 呼びかけにも反応はない。今まで動いていたのが嘘のように、今はただのぬいぐるみであった。


 夢だったのか?そう思ったユキノはスマホを取り出し、メモ帳に保存された文字を見る。


『ユキノちゃんが大好きだから。 上手くいったでしょ?』


 ユキノはクスっと笑む。


「ありがとう、サンタさん。 大好き」


 笑顔で礼を言ったユキノは、再びサンタを抱きしめて目を閉じた。




―― 完 ――


―――――――――

読んでくださってありがとうございます。


他にも自主企画に出されたお題で作成した物語があります。よろしければそちらもご覧いただけると嬉しいです。


・縁日のりんご飴【短編】【完結済み】

<https://kakuyomu.jp/works/16818093089975656299>

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恋するサンタの贈り物【短編】【完結済み】 弥次郎衛門 @yajiroemon

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