第05話 win-winな関係

 リミアと出会い二人旅となったおれ、いやおれ達は王都への道を進んでいた。


 さて、ようやくおれの人生のメインヒロインと出会えたことだし、まずは仲良くならないとな。そして、そのためには会話だ。


 なにを話すか迷うところだが、リミアも魔法学院を受験するということだから、まずは魔法に関する話でいいだろう。


「リミアはなんの魔法が使えるんだ」


「わたしが使えるのは光魔法です。と言っても、まだ魔法を一つ使えるだけなんですが……」


「えっ、光魔法!? ホントに!?」


「は、はい、本当です」


 おれが驚いたせいか、リミアは戸惑い気味に答える。おい、マジか?


 師匠の話によると、光魔法を使える人間なんてそうそうおらず、師匠自身も使えないのに、この子はそれが使えるのか。


「……あの、レインさんはなんの魔法が使えるんですか?」


「おれは風魔法だ。ちなみにその一種類しか使えない」


 本当は違うんだけど、師匠に言われた通りこの設定でいく。そのために、人差し指をピンと立てて1という数字を強調してみた。


「一種類……、あの、使える魔法の種類って分かるんですか?」


「ああ、目に魔力を集中させる技術があって、その状態の目を魔眼って言うんだ。で、その魔眼を使うと、相手の魔力量や使える魔法の数を見抜ける。まあ、数まで見抜けるほどの魔眼の使い手はそうそういないけどな」


「そうなんですね。全然知りませんでした……」


 ふむ、どうやらリミアは魔法に関する知識が乏しいようだ。ということはやっぱりこの子、田舎にすんでるのん? そういえば、服装も田舎の女の子っぽいなあ。


「そういや魔法と言えば、空を飛べる魔法があるんだよ。だから、良かったら――」


「えっ、そんなことができるんですか!?」


「あ、ああ、これは風魔法のひとつで、おれは使えるよ」


 おれがとある提案をする前に疑問を投げかけられたので、おれはその場で<飛行スレア>を発動し、軽く空を飛んで見せた。


「ほ、本当に飛んでる……。や、やっぱりレインさんってすごい人なんですね……」


 なにやらリミアが感動した目でおれを見た上に褒めてくれている。やばい、美少女にこんな反応をされるとめちゃくちゃ嬉しい。


「それで、良かったら王都までこの魔法を使って空を飛んでいくか? 歩いて行くと時間も掛かるし疲れるしで大変だろ?」


「……い、いえ、それは大丈夫です。空を飛ぶ魔法なんてすごく疲れるでしょうし、レインさんにそこまでの迷惑はかけられません」


 大して疲れるわけでもないし別に大丈夫なんだけどなあ。


 ……いや、でも待てよ。もし、飛行魔法を使って空を飛んでいけば、大した時間もかからずに王都に着いてしまう。


 だが、このまま歩いて王都まで行けば、あと一週間くらいは美少女であるリミアと二人きりで旅ができる。こんな素晴らしいチャンスを逃す手があるだろうか? いや、ない!


 ……あとはあれだな。人間、楽をすると楽なほうに流れるからな。ここで、安易に楽をさせないのはリミアのためでもある。よし、飛行魔法を使わず、歩いて行くための理論武装も完璧だ。


 というわけで、王都まで美少女リミアと楽しくおしゃべりをしながら歩いて行くことにした。


 *****


 そういえば、おれは先ほどから普通にリミアと会話ができているな。前世では女子どころか男子とすらろくに話せないぼっちなおれだったが、無事に普通のコミュニケーションができるようになったようだ。


 これはやはり、魔法学院に行くことを決めてから、人との会話を頑張った甲斐があったということだろう。


 前世での失敗を反省し、今世では頑張ったおれは偉い。こうやって、自分で自分を褒めて、自己肯定感を高めるのは大切だ。逆に自分のことを駄目な奴だと貶めても、メンタルにダメージを負うだけで特に良いことは無いからな。


 さて、リミアと出会い歩き続けて数時間、リミアの歩くスピードが見るからに遅くなってきた。


「もしかして、疲れたか?」


「……え、ええ、実は少し」


「なら、少し休憩しようか?」


「でも、初日からこれだと、入学試験の日に間に合わないかもしれないですし、まだ休んでいる余裕は……」


 んー、いざとなったら空を飛んでいけばいいだけだから全然余裕なんだけど、その方法はさっき遠慮されちゃったからなあ。


 なら、ほかに良い方法はないかなあ……。 ……そうだ! いいことを思いついた!


「じゃあ、リミアさえ良かったら、おれがリミアをおんぶして歩こう。どうだ?」


「……え? い、いえ、そんな迷惑をかけるわけには……」


 リミアは首をふるふると横に振ってそう答える。いや、別に全然迷惑じゃないからね。


「いや、大丈夫だって。知っての通りおれは強いから、女の子を一人おぶって歩くとか全然余裕だから」


「……言われてみればそうですね。……では、すいませんがお願いしていいですか?」


「ああ、もちろん」


 おれはリミアに背を向けて地面に座る。そして、リミアはおれの背中に自分の身体を預けてきた。


 当然、女の子一人分の体重なんておれにとっては無いも同然なので、歩くのも全然苦しくはない。


「すいません。体力が回復したらちゃんと自分で歩きますので」


「いや、全然いいよ。なんなら、このまま王都までずっとおんぶしててもいいくらいだ」


「い、いえ、さすがにそこまでは……」


 いや、本当に全然いいんだけどなあ。だって、今おれは美少女と合法的に身体が密着してるんだよ。


 特に背中の上のほうとかはとても柔らくて大きな膨らみを感じてるので、おれとしては迷惑どころかお礼を言いたいレベルである。


 そして、リミアのほうは疲れずに王都までの道を進むことができるので、まさにwin-winな関係と言えるだろう。


 *****


 リミアと出会った一日目の夜。いや、本当に今日は素晴らしい一日だった。

 光魔法を使えるリミアに出会ったことで、おれのこの二回目の人生が光り輝き始めた気がする。


「さて、ご飯も済ませたしそろそろ寝るか」


「そうですね」


 おれ達は河川敷に陣取り、眠るための準備に取りかかる。


「そういえば、リミアは野宿の経験とかあるのか?」


「はい、あります。王都に行くことを決めたあと、そのために必要なことを学んだり実際に練習したりしたので」


「そっか、じゃあ大丈夫だな」


「はい、なのでまずはレインさんが先に眠ってください。最初はわたしが見張りをしますので。とは言っても、もし魔物が現れたりしたらレインさんを起こすことになってしまうと思うんですが……」


 リミアは申し訳なさそうな顔をしながらそう提案してきた。普通に考えればリミアの言う通り見張りは必要なのだが、普通ではないおれには必要がない。


「いや、リミアは普通に眠っていいよ」


「え? わたしが先に眠ってレインさんが後から眠るってことですか?」


「いや、おれは眠っているときでも魔物や人の気配を察知したりできるから普通に二人とも眠って大丈夫ってこと」


「そ、そんなこともできるんですね……」


「まあ、そういう訓練もしたからな」


 いかに強い人間といえど眠っているときは無防備である。となると、当然最強を目指していた昔のおれはそんな弱点を塞ぐための訓練もした。


 いや、まあ、おれに限らずそれなりに実力のある魔術師ならそういうことはできるみたいだけどね。ソースは師匠。


「では、すいませんがお言葉に甘えて眠りますね」


「ああ、いや、ちょっと待って」


 リミアがなにも敷いていない地面に横たわろうとしたので、おれはそれを制止した。


「地面にそのまま横になると服とか汚れちゃうからここに寝てくれ」


「ここ、というのは?」


「ああ、この辺をちょっと触ってみて」


「……あれ? 暗くて見えづらいですが、地面の手前に銀色のなにかが?」


 リミアは手でコツコツと地面の手前を叩き、そこにある物を確認していた。


「それは魔力障壁って言って、その名の通り魔力で作った壁だよ。リミアも魔法学院で魔力の使い方を学べば、その壁を作ることが出来るようになる」


「そうなんですね。なんだか、魔法学院で勉強するのが少し楽しみになってきました。あ、それとありがとうございます。ここで眠らせてもらいますね」


「ああ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 リミアはおれが作った魔力障壁の上に横たわり、毛布を被った。


 慣れない旅で体力的にも精神的にも疲れていたのか十分も経たないうちにリミアはスースーと寝息を立て始めた。


 よし、無事にリミアに眠ってもらうことができた。睡眠不足はお肌の敵だからね。特にリミアみたいな美少女は健康的な生活を送るべきだろう。


 しかし、それはそれとして、やはりリミアは寝顔も可愛いな。


 紳士であるこのおれは、目の前で女の子が無防備に寝ていても当然手を出したりしないが、ついついこの可愛い寝顔をずっと眺めていたい気分になる。


 ……いかん、このままでは眠れる気がしない。前世でも寝付きが悪く、ひどいときはベッドに入ってから数時間眠れないときがあったんだよなあ。


 だが、前世とは違い今世のおれには魔法がある。というわけで、おれは自分自身に<睡眠ソムヌラ>の魔法を発動する。


 ああ、すぐに眠気が襲ってきた。


 この魔法なら、きっと魔王城でもすぐにおやすみできる。すやぁ……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第05話を読んで頂きありがとうございました。

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