第04話 人生に必要なのはメインヒロイン
師匠の元から旅立ったおれは今、王都へと向かうための道を歩いている。
ただ、その道は左側に川、右側に森という代わり映えがしない景色が続いていて退屈だ。
……そういえば、結局おれの前世での名前は思い出せなかったなあ。
その結果、おれは師匠と同じ苗字を名乗ることになったので、今世でのおれの名前はレイン・バーンズアークだ。
おれ的にはかなりカッコイイ名前で気にいっている。特に、「バーン」って入ってるところがいいよね。だって、あの魔界の神と同じ名前だよ。超カッコイイ。
さて、王都への旅に出た記念に、おれの転生前からこれまでを少し振り返っておこう。
最近になってようやくおぼろげながら浮かんできたんです、転生直前の記憶が。
そして、その記憶を踏まえると、諸事情で時系列が多少前後している部分があるが、だいたいこんな感じだろう。
おれは高校生探偵……じゃなかった、どこにでもいる普通の男性。
幼なじみで同級生の美少女と遊園地に遊びに行きたいという妄想をしながら道を歩いていると、労働条件が黒ずくめの企業のトラックが突っ込んできた。
トラックを避けるのに夢中になっていたおれは、背後から近付いて来るもう一台のトラックに気付かなかった。
おれはそのトラックに跳ね飛ばされ、目が覚めたら……体が縮んでしまっていた!
転生の際、おれはとあるチート魔法を習得したが、その魔法が悪人にバレたら、その能力を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ。
師匠の助言で能力を隠すことにしたおれは師匠に名前を聞かれて、ノリで江戸川コナソと名乗り、この世界の情報をつかむために、森で隠居暮らしをしている師匠の家に転がり込んだ。
小さくなっても頭脳は同じ。向かうところ敵なしの最強魔術師。だけど、保有魔法はたったひとつ!
*****
『自分の人生の主人公は自分』という言葉がある。ならば、もちろんおれの人生の主人公はおれということになる。
そして、おれが主人公ということは当然メインヒロインと呼べる存在が必要だと思う。この世界に転生してから今までそういう存在には会っていないので、そろそろ出会って良いはずだ。
そういう考えと、せっかくだから冒険気分も味わおうと思い、空を飛ばずに歩いて魔法学院がある王都まで向かっているのだが、数日たった今でも誰にも出会っていない。
いや、何度か魔物には出会ったな。全部ワンパンで撃退したけど。腕立て伏せ百回、上体起こし百回、スクワット百回、そしてランニング十キロ、これを毎日やった成果が出たようだ。
しかし、メインヒロインどころか、本当に誰にも出会わないなあ。
……まさかとは思うが、師匠がおれのメインヒロインとかじゃないだろうな?
いやまあ、見た目という観点だと師匠は間違いなくメインヒロイン級だけど、師匠はおれにとって大切な家族だしね。だから、間違ってもメインヒロインではないし、なんならサブヒロインでもない。
ただ、家族とは言っても、これが妹であれば話は別だ。事実、妹がメインヒロインである作品は存在するしな。
そういえば、おれの知る限りでは、アニメや漫画では主人公に姉がいる場合より妹がいる場合のほうが多いのは、需要の問題なのだろうか? ちなみに、おれは姉か妹なら妹派です。しかし、残念ながら、前世でも今世でも妹どころか姉も存在しなかった。
さて、暇だからあれこれと考えてしまったが、そろそろ誰かに出会うはず。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。
そう思っていたら、噂をすれば影というべきか、少し先に人影が見えた。人が二人と、……なんか熊っぽい魔物が三体だな。なにやら、人のほうがピンチっぽいので助けておこう。
おれは<
おれの手刀を受けた三体の魔物は気絶しその場に倒れ込む。よし、とりあえずこれで大丈夫だろう。
さて、おれが助けた人はどんな人達かな?
一人目は……男か。はい、次。
二人目は……きた、女の子だ! しかも、すっごい可愛い。なにこの子、アニメや漫画で言えば、確実にメインヒロインになる美少女だよ!
しかも、すごいのはその非常に整った顔立ちだけじゃない。腰くらいまで伸びた金色の髪はとてもきれいで、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
さらに、スタイルも良く、出るところは出て、しまるところはしまってる美しいプロポーション。
まさに、非の打ち所のない美少女だ。そして、確信した。きっとこの美少女がおれの人生のメインヒロインだ、間違いない。
おれが、この素晴らしい出会いに祝福を上げたい気分になっていると、モブAの男とおれのメインヒロインが順番に口を開く。
「ま、魔物が急に倒れた……。いったい、なにが起こったんだ?」
「……あれ、いつの間にか人が?」
な………………。おれはその言葉を聞いて衝撃を受けた。なにが衝撃かってこの美少女、声まですごい可愛いんだけど。まだ、美少女力が上がるのか。このままだと、スカウターが壊れるぞ。
……い、いかん、落ち着け、おれ。とりあえず、状況を説明しよう。
「えーと、その魔物はおれが倒しました。見た感じ、あなた達が危険だったので」
「な、なにも見えなかったがそうなのか……?」
「……周りに他の人はいませんし、そうなんでしょうね。……あの、助けてくれてありがとうございました」
そう言って、美少女は頭を下げる。礼儀まで正しいのか、この子は。
「いえいえ、別に大したことはしてないので。ところで、あなた達はこんなところでなにを?」
「ああ、実はこの子が王都にある魔法学院を受験するんだ。それで、俺は父親としてこの子を護衛しつつ、王都まで連れて行くところだったんだ」
な………………。おれはその言葉を聞いて衝撃を受けた。おい、マジかよ。この人モブAの男なんかじゃないぞ。この美少女の父親ということはつまり、おれの未来のお義父様じゃないか!
これは態度に気を付けないといけないなと考えていると、お義父様がその場に座り込み左肩を押さえた。
「……くっ、まいったな。さっきの魔物にやられたようだ」
「お父さん、大丈夫!?」
「ああ、幸い大した傷じゃない。けど、カナイ村から出てきていきなりこれじゃ、無事に王都まで行けるかどうか……」
どうやら、お義父様とおれのメインヒロインのピンチのようだ。ならば、当然ここは未来の義理の息子であり夫でもある、このおれの出番だな。
「……あの、良かったらおれが娘さんと一緒に王都まで行きましょうか? 実はおれも同じ理由で王都に行く途中だったので」
「おお、そうなのか! あんな魔物を一瞬で三体同時に倒すなんて君はかなり強いんだろうし、是非とも頼むよ。 ……ああ、でも、お礼しようにもお金がないし……」
「いえ、お礼なんていいですよ。気にしないでください。……あ、きみのほうもそれで大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です。すいません、ありがとうございます」
うーん、おれのことをあっさり信用してくれるのはいいんだが、もう少し人のことは疑ったほうがいいと思うんだけどなあ。
さっき、村から出てきたって言ってたし、田舎の人は家の鍵を掛けないって話を聞いたことがあるから、警戒心が薄いのかもしれない。
「じゃあ、俺はカナイ村に帰るよ。すまないが、娘を頼む」
「一人で大丈夫ですか? 怪我をしてますし、おれがその村まで送りましょうか?」
おれは回復魔法も使えるが、どうしようか? 風魔法しか使えないということにしているから、安易には使えないのだが。
そう思っていると、おれがなにか言う前に、幸いお義父様が回復魔法を使わなくても問題ないと判断できる発言をしてくれた。
「いや、カナイ村はすぐそこだから大丈夫だ。それに、俺の嫁さんは回復魔法が使えるからな。この怪我も家に戻ればすぐ治るよ」
お義父様はおれにそう言ったあと、娘さんに「気を付けてな」など、いくつかの言葉を交わして去って行った。
「さて、じゃあ行くか。えーっと、そういえば、自己紹介してなかったな。おれはレイン・バーンズアークだ」
「そういえば、そうでしたね。わたしはリミア・アトレーヌと言います」
「じゃあ、よろしくな。アトレーヌさん」
「リミアでいいですよ。カナイ村ではみんなにそう呼ばれてましたから。わたしのほうはレインさんでいいですか?」
「ああ、好きに呼んでくれて構わない」
「分かりました。では、これからよろしくお願いします、レインさん」
そう言って微笑んだリミアの表情は、まるで太陽の光のように眩しくてきれいだった。
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