第5話
その頃のこと、遠く離れた男爵家では思いもよらない出来事が起きていた。
アンジェリカの妹――フランチェスカが、聖女としての力を失っていたのだ。
アンジェリカが目覚めてから数週間後、フランチェスカの身体に異変が起き始めた。
聖女としての力がアンジェリカを主と認め、移行したのだ。
その結果……フランチェスカは急激に体型が崩れてしまった。
実は彼女は力を体型維持に使っていたのだ。
フランチェスカは過去に何度も姉を見下し、そして軽蔑してきた。
その態度を、アンジェリカは黙って受け入れてきた。
だが今、その妹が何も出来ずに苦しんでいる姿をもし見たなら、一体どのような感情を抱いたことだろう。
それは突然だった。
アンジェリカが目覚めた日、本来のフランチェスカの体型に、身に着けていたドレスが耐えきれなくなった瞬間が訪れた。
そのドレスの内側から、パンッ! と音を立てて破れる音が聞こえた。
それは、彼女の身体が以前のようには収まらなくなった証拠だった。
「う…ううっ!」
突然の事にフランチェスカは必死に涙をこらえながらも、手を広げてそのドレスを必死に直そうとする。
だが、その姿を見ていたのはひとりの令息――アレクシウスだった。
彼は以前からフランチェスカに言い寄られており、共にお茶を飲む機会が何度かあった。今回もそうで、男爵家へと呼ばれていたのだ。
フランチェスカは隠していたが、その食生活は贅沢でアンバランス。ただ好きな物ばかりを何年も取り続けていた。
そのツケが、まさに今やってきたのだ。
「ふ、フランチェスカ? ……まさか、急にこんな姿を見せられるなんて」
「ぅ……うぁあああああんっ!!!」
アレクシウスの驚く姿を捉えたフランチェスカは、その顔を急激に赤らめ、そして動揺しながらその場で気を失ってしまった。
結局、この事が原因でアレクシウスには引かれてしまい、その恋は無惨に終わる。
フランチェスカは後に、聖女としての力を失ったことで次第に自分の失態を感じ取るようになった。
それは決して姉に対する申し訳なさからでは無く、これまでの自分の位置が揺らぐことへの恐れからだった。
◇◇◇
ある日、ライオネールと私は城の庭園を散歩していた。
婚約者である以上、私たちの未来について話すことは少なくなかった。
しかし、その日はまた少し違った気持ちで語り合っていた。
「アンジェリカ。あなたがここに来てからの私は、これまでの人生よりも毎日が充実している」
ライオネールは柔らかな笑顔を浮かべながら私に言った。
「あなたがいてくれることで、この城も、そしてこの領地も、もっと温かい場所になると思う。いや、なるだろう。これは確信だ」
私はそれを聞いて、深く頷いた。
「私も、ここに来て本当に良かったと思います。今なら心からそう思えます」
「ならば、あなたのその気持ち……私がこれからも守り続けよう」
私たちはお互いに微笑み合い、手を握り合った。
未来に向かって少しずつ歩みを進める二人の姿が見えた。これは確信だ。
どんな困難が待ち受けていようとも、今をお互いに支え合える。
そして共に歩んでいくことが出来る。
家族との今まで関係。それは決して忘れることは出来ないだろう。
けれど私は自分の力を信じて、これからの人生に前を向いて進むことを決めていた。
家族に縛られることなく、みんなと共に自分自身の幸せを大切にしたい。
今なら心からそう思える。
私は、首から下げたペンダントをぎゅっと握りしめた。
家族から出来損ない扱いを受けてきた私は、溺愛される妹の身代わりとして嫁がされる。けれど歓迎されて幸せを掴みました こまの ととと @nanashio
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