第9話 サイド小町
今度は手伝う、なんて言っちゃって。
何してるんだろう、私は。
口を滑らせちゃいけないことを、気づいて欲しくてやってしまったのだ。
もし茉莉ちゃんが本当に思い出してしまったら、取り返しがつかないのに。……消えてしまうかもしれないのに。
茉莉ちゃん。私との記憶を思い出しても、あなたは一緒にいくれるの? 全部を思い出しても、私の前から消えずにいてくれるの?
もし、そうなら。
すぐにでも全てを話すよ。
今の茉莉ちゃんが知らない、一年半分の、幸せな思い出を。長い時間かけて噛み締めるように話すから、同じくらいの時間をかけて呑み込んでね。
二年生の夏から、三年生の冬の日まで。
思ったより短いね。もっと長い付き合いの気がするのは、その短い期間の中でもずっと一緒にいたからかな。
毎日、どっちかの部屋に泊まって、どっちかの料理を食べて、どっちも笑い合えるような話をして。思い出したらキリがないのに、全部思い出せるか不安だな。
あー、そうだ。
スマホに残ってるんだった。
何でもかんでも記念日だって言って、予定のメモに写真を貼って、忘れないようにしたんだっけ。まるでバカップルだね、間違ってないけどさ。
きっと。
何もしなくても、いつか思い出しちゃうんだよね。そうなったら、消えちゃうんだよね。
三回目は、ないんだよね。
後、どれくらい時間があるんだろう。
なんの前触れもなく、来週いきなり思い出しちゃったりするのかな? 意外と、大学卒業しても忘れたままだったりして。そうだといいな。
お正月が終わったら、また時間が取れなくなっちゃうんだ。クリスマスの時は、私のバイトのせいじゃなくて、避けられてたんだろうけど。
あなたとの時間のために、私の時間が減ってしまうのは、おかしな話だよね。
ごめんね。でも、これだけは譲れないんだ。
少なくとも、あなたがいる間は。
あなたとの思い出を、残しておきたいの。
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