第10話 いつも以上のいつもの異常

 一月も半ば。

 小町とは、週に何度かしか会えていない。疲れてるだろうからって小町の部屋に行くのを遠慮してたのがバレたらしく、バイトが終わった夜中に何度か来てくれた。


 今日も、そうだった。

 ついさっき、お酒と軽食が入ったビニール袋を片手に小町がやって来た。


「ごめんね、いつも夜中になっちゃって」

「いいよ、別に」

「でもね。明日からバイトお休みだし学校もないから暇なんだぁ」

「そっか。なら……明日は一緒に過ごす?」


 まだ、早かったか? 

 意識しないようにしてきた。それまでは、当然のようにやっていたのだから、表面上だけでも取り繕おうって。

 だから、もう誘うこともできる。

 私から誘うのは、クリスマスのとき以来、初めてだったから、不安はあるけど。


「うん! もちろん!」


 ……よかった。

 小町のことだから、もし嫌だったとしても気を遣って拒絶しないんだろうが、この言葉が嘘じゃないことくらいはわかる。

 やっぱり、まだ変に意識してるのは私だけみたいだ。


「じゃあ予定決めよっか。行きたい場所とか、食べたいものとか、見たい景色とか、そういうのある?」

「ちょっと待ってね。……すぐには思いつかないなぁ。でも、明日のことだし、あんまり遠くに行くのはやめた方いいよね。それに、この季節だと肌寒いし、雪が降るかもしれないし、できれば近場でも外は避けたいかな」

「そうなると……だいぶ限られてくるね」

「うーん、いいところあるかなぁ?」


 チラチラこっちを見ながら、わざとらしく悩むフリをする小町。

 小町が私に言わせようとしていることは、きっと、私の思い上がりではないのだろう。

 

「……この部屋でいいの? いつもと変わんないけど」

「いいじゃん。前は毎日のように遊んでたのに、最近じゃ合わない日の方が多かったし。このままじゃ『いつも』って言えなくなっちゃうよ」


 それは、そうかもしれないけど。

 いくらなんでも、抵抗がなさすぎないか? 自分のことを好きって言った女を相手に、ここまで普段らしさを徹底できるものなのか? 

 自惚れではないけど、なんかこう、ちょっと見方が変わったり、するものなんじゃないのか?

 

「久しぶりにお泊まりしてもいい?」

「……まぁ、うん。小町がいいなら」

「やったぁ」


 二、三口しか飲んでいないのに、小町の顔は少し赤くなり始めている。

 私の方の缶は、ついさっき空っぽになった。話の内容が内容なので、飲まずにはいられなかった。

 互いに酔ってはいないが、普段との言動の差異はあるだろう。こんな簡単に話が進むのも、そのせいだ。


「そうだ。茉莉ちゃんが好きだって言ってたシリーズのゲームさ、この前に新作出してたじゃん? 私、ゲームのサブスクに入ってるから遊び放題なんだ。一緒にやろうよ」

「そうなんだ」


 好きなゲームのことなんか言ったっけ?

 

「それから、お菓子作りもしたいなぁ。茉莉ちゃん、自分のこと元ヤンだって言ってる割に可愛い趣味してるよね」

「別に、ちょっと不良だったってだけだよ。何を想像してるかわからないけど、殴り合いの喧嘩するような昭和チックなもんじゃない。まぁ、高校はよくサボってけど」


 元ヤンって話、いつしたっけ?


「クッキーとメロンパンとチーズタルトは、前に一緒に作ったよね。どうせやるなら強気にオシャレスイーツとか作っちゃう? あ、流行りは終わっちゃったけど、マリトッツォはどうかな? 食べてみたかったんだぁ」

「いいね。私も食べたことないや」


 チーズタルト、二人で作ったんだっけ?


「映画もいいよね。ゾンビ系のホラー、たまに見たくならない? 絶対に銃の方が強いのに、銃で戦わないキャラが格好良く見えるんだよね、あれ。やっぱロマンってやつかな」

「わかる。バットとか特にね」


 知らないフリことを主張しているかのように、私の思想と同じなのは、偶然?


「これだけやったら、どれくらい時間残ってるんだろうね。もしかしたら、全部やる前に夜になっちゃうかも。ぐうたら過ごすのって、予定決める時からワクワクするよね」

「……そうだね」


 ほろ酔いの頭が大量の違和感を見つけても、それはきっと、私と小町の話が噛み合っていないだけだ。


 小町が嘘をついているようには見えない。きっと私じゃない他の友達としたことだ。

 私に似たような妄想がある。きっと小町との日々を都合のいいように妄想化しただけだ。

 

 だから。この違和感は、ただの偶然だ。

 偶然が重なってしまっているだけなんだ。今までの違和感だって、そう。

 偶然的に、記憶違いか、思い違いか、勘違いか、間違いを、二人でしていただけなんだ。

 何も、おかしなことはない。

 

「明日、楽しみだね」

「うん!」


 おかしくなんか、ないはずだ。

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