第8話 もしかして

 小町は初詣には行く気がないらしい。

 去年は二人で行ったけど、かなり混んでいたから今年はいいや、って。こういうのは真っ先に行きたがると思っていたが、そうでもないらしい。


 来週からまたバイトで、もしかしたら当分会えなくなるかもしれないらしい。

 なんのためにバイトをしてるかは、やはり教えてくれない。こっちから聞いたわけじゃないが、何か大事な理由だったら言ってくれてもいいのに。

 むしろ、大事だからこそ心配かけまいと言えないのか? それとも、バイト自体がヤバい系のやつとか? ……いや、詮索しすぎか。

 どっちにしろ、探るような真似はしないけど、少しは考えるべきだろう。何か力になれるようなことがあれば、手伝いたし。

 

 小町が帰って、今は一人。暗くなった外を見ながら、少し考える。


 よく、できている。

 大晦日も今日も、前のように話せている。つい先週にあったことが夢みたいだけど、でもやっぱり夢じゃないんだろう。

 不確かな喪失感がある。同じはずなのに、変わってしまったような。

 それは、私が卑屈に考えているからでも、小町の何気ない所作から感じているわけでもなく、全部がガラッと変わってしまったような、根本的なものの気がする。

 


 ……もしかして。

 何かが一歩でも違っていたら、私と小町の関係は変わっていたんだろうか。

 言葉によっては、タイミングによっては、シュチュエーションによっては。「ちょっと待ってね」も言わずに、抱きしめてくれたりしたのだろうか。


 そんなこと考えても無駄なのに、それでも思ってしまうのは、なぜなんだ。

 踏ん切りがついたなんて、いくら言葉にしても、嘘でしかないんだ。まだ思うところはあるし、想うところならもっとある。気持ち悪いほど現実味を帯びた妄想は、しかし私に現実を見せてくれる。

 これは嘘なのだと。私の勝手な妄想なのだと。


 まるで本当にあったみたいな妄想だから、たまに記憶とごっちゃになるけど、やっぱりそれは私の経験じゃない。

 撮った写真も、記した予定も、使った預金通帳の額も、細部までこだわった私の妄想とは全て違うのだから。

 


 これは妄想だ。妄想なんだ。


 私と小町が、付き合っていたはずがない。

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