第7話 今度

 地獄のクリスマスから、更に復帰の大晦日を経て、元旦。 

 一月一日、正午。正月のお笑い特番を見ながらコタツに入る女子大生が二人。


「お笑いってあんまり見ないけど、マジマジ見ると面白いね。なんか、みんなトーク力すごくて」

「お笑いはマジマジ見るもんじゃないよ。気の抜けた人間が一番ツボりやすいんだから、こっちもその姿勢で臨まないと」

「だからって、それは少しやりすぎじゃない?」


 パジャマのポンチョを羽織って、ミカンを貪りながら、ほっぺとテーブルを一体化させようとしている私。

 それに比べて小町は、私の部屋に来るだけなのに立派な外行きの服で、クリスマスの時の残ったケーキを消費すべく最後の一切れをフォークで口に運び、背筋を伸ばしてテレビを見ている。

 お互い寝て何時間も経っていないというのに、なんだろう、この差は。


「ふっ、ふふっ」

「そんな面白い?」

「ちょっと待ってね。……あ、この人! 右のとこに映ってる人がね、さっきからすごい面白いの」

「へぇ」


 お笑いか。今どき娯楽映像なんて他にいくらでもあるし、ぶっちゃけると興味はない。面白ければ笑うけど、笑いたくても見たいとは思わない。

 私とは感性が違うようで、小町はさっきから何度もクスクス笑っているが、私はミカンに夢中だ。


「それにしても、オコタいいねぇ。ぬくい〜眠くなる〜」

「実家で捨てるって言うから貰ったんだ。今まで忘れてて、昨日になってやっと出したんだけど。この部屋じゃちょっと狭かったかな」


 ベッドの脇に座って足を伸ばせば、後少しでテレビ台に爪先が着く。それくらいの距離のため、コタツを置くのはギリギリだった。

 ベッドの位置をずらして、テレビ台もずらして、そして何より一人用のコタツだったからこそ、設置することができたのだ。

 二人で入る分には小さいけど、足を畳めば入らないこともない。

 

「実はね、私オコタ初めてなの。実家だと、床暖とエアコンを使い分けて暖めてたから。でもオコタには負けるなぁ」

「それね。でも、抜けられなくなるって難点もありまして。こちらのコタツちゃん、怠惰にしていると春まで片付けられなくなったりするんです」

「えー、嘘だー」


 本当なんだよなぁ。

 まだ寒いからって出しっぱなしにしてると、仕舞うタイミングを失って気づいた時には卒業シーズン……なんてことも多々。ちなみに実家での体験談だ。

 

「だから、すぐ仕舞う予定だよ。お正月だし雰囲気作れるかと思って出しただけだからね。それと、やっぱり狭いし」

「仕方ないね。片付ける時は言ってね、今度は手伝うから」

「うん、ありがとう」


 ……あれ? 

 今度は? 出す時だって手伝ってくれたのに?


 小町が、私が剥いてテーブルに置いていたミカンの一欠片を、ひょいと取って口に入れた。


「酸っぱくて美味しいねー!」


 ケーキは食べ終えていた。

 急にミカンを食べ始めたのは、口寂しくなったからだろう。それか、甘かったから酸味を求めたか。


 口走ったから話題を変えようとなんて、していないはずだ。


「これは酸っぱすぎると思うけど」

「でも、これくらいの方が丁度よくない? なんか、ザ柑橘系って感じ」

「そうかな」

「そうだよ」


 いつもの小町だ。抜けていそうで、だけどしっかりしていて、でもやっぱり天然な、いつもの小町。

 さっきのだって、何も意図していなかったはずだ。

 きっと、クリスマスのことを引きずって、まだちょっと敏感になっているんだ。そうに違いない。

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