第4話 ようこそ冒険者の街へ〜野望を胸に〜

「ようやくだ。ようやく見えてきたぞ」


 あれからどれだけ歩いてきただろうか。正直全く覚えてない。そこまで長くなかったような気もするけど体感じゃ1ヶ月くらい歩いてる気分だった。全く景色は変わらず同じような道をただひたすら歩くだけ。


 そしてようやくその景色に変化が訪れた。


「デッカいなぁ……」


 少し離れた場所からでもよく分かる。目の前に聳える巨大な城の立派さが。城があるって事はこの先に町があるって事だ。

 正直体力もギリギリ。ここまで来れたのが奇跡だって言われても不思議じゃない。


「じゃっ、もうちょっと頑張るか」


 俺は最後の力を振り絞って城を目印に前へと進んだ。


 そして、


「…あれが町に繋がる門だな」


 見たところ門番的な人はいなそうだけど……。


 俺は恐る恐る前へ進み集団に紛れて門を通ろうとする。


 どうかトラブルに巻き込まれませんように……。


「ちょっと待った!」


「うぇっ!」


 あと一歩って所でどこからか現れた鎧を着た兵士らしき男に声をかけられた。


「な、何でしょうか……」


 ヤバい。もしも通行料がかかるとか言われたらどうしよう。この国の通貨も分からないし、代わりになりそうな金目なものもない。

 ……って、何でこの人の言ってる事が分かるんだ?日本語でも無ければ英語でも無い。なのに言ってる事は分かるし自然と俺も喋れてる。


 まぁ、何でもありの異世界だしな。俺ももっと異世界の常識にに慣れなきゃな。


「アンタ随分見ない格好してるな。旅人か何かかい?」


「え、ええ。まぁそんな所です」


 なんだ、スーツが珍しくて声をかけてきただけか。


「やっぱりな。そうだと思ったぜ。じゃあこの町は初めてだな」


「ええ」


「そうか!旅人だったら一度はこの町に来なきゃな!ようこそ冒険者の街アヴェントゥーラへ!!」


「どうも…」


 それにしても随分陽気なおじさんだな。


「アヴェントゥーラはどんな旅人でも歓迎する。とにかく楽しんでけ!」


「あ、はい」


「そうだ、お前名前は!?」


「あ、えっと」


 異世界だもんな。ここは下の名前だけでいいか。


「ユウジロウです」


「へぇー面白い名前してんなユウジロウ!気に入った!」


 それ褒めてんのか?ま、いいや。


「あの、失礼ですがアナタはこの町の兵士か何かですか?」


「いやこの街に兵士はいない。いるのは逞しく生きる冒険者だけだ!当然俺もその内の一人。自己紹介が遅れたな俺の名はバンドルフ。よろしくなユウジロウ」


「よ、よろしくお願いします」


「そうだ。ユウジロウはこの町に何し来たんだ?」


「えっと、まぁ、行き当たりばったりっていうか、まだ特に決まってなくて」


「そりゃあいい。何も決まって無いってことは何でも決められるってことだからな!色々とやってみればいいさ!」


 この人見た目はちょっと強面だけど話して分かった。

 結構優しい人だ。


「やること決まってないなら冒険者にでもなったらどうだ?。特にこの町は冒険者に対しての待遇がいいからな」


「いや、俺に冒険者なんて無理ですよ」


 そりゃあ俺も男の子だ。せっかく異世界に来たんだから冒険はしてみたい。

 だけど俺の能力じゃな……。


「おいおい、もしかしてお前冒険者をちょっと勘違いしてないか?」


「え?」


「冒険者ってのは何もモンスターだけと戦う職業じゃないんだぞ。文字通り冒険をすれば何でもいいんだ。その自由さこそが冒険者なんだよ」


「何でもいい…」


「そうだ!何でもいいんだ!やりたいと思った事をやればそれが冒険者なんだ。そんな冒険者達を応援してくれるのがこの街なんだ!」


 今のバンドルフさんの俺の何かに踏ん切りがついた気がした。


「あの、それって例えばまだこの世界じゃ誰もやってない事をやってのけたら、それも冒険ですか?」


「誰もやってない事やってのけるか、それは正しく冒険じゃないか!冒険と言わず何と言う!」


 俺がこの世界に来た理由。もしかしてだけど分かったかもしれない。


 実は日本にいた頃から思っていたことがある。


「この世で初めて揚げ物を作った人って天才じゃね?」って。


 だってそうだろ。どんな食材でも油で揚げるだけであんなに美味くなるんだぞ。最強だろ!

 決めた。異世界には絶対存在しない、俺の愛する揚げ物をこの世界に広める。いずれは揚げ物による世界征服。

 揚げ物ならそれだって夢じゃない。それが俺の一番やりたいこと。


 これは俺なりの冒険だ!


「いいねユウジロウ。さては何か思いついたな?会った時と違っていい顔をするようになった!」


「ふふっ分かります?」


「当然だ。今のお前の顔は何かに挑む冒険者の顔そのものだからな!」


 まさか35過ぎたオッサンにこんな素晴らしい夢が出来るとはな、日本にいた頃は思いもしなかった。

 そんな気持ちを思い出させてくれたバンドルフさんには感謝だな。


「俺、この街でやれるだけやってみようと思います。自分の好きをこの世界に広めるために」


「その意気だ!よし俺はお前を気に入った。これ貰っとけ」


 渡された麻袋には数枚の貨幣が入っていた。


「えっ、いや貰えませんよ!」


 この金貨がいくら位の価値があるかは分からないけど、流石にあってばかりの人からお金を貰うのはちょっとな…


「いいから貰える物は貰っておけ。どうせ手持ちもないんだろ?」


「それはそうですけど…」


「大丈夫だ。見ての通り大した金額じゃない」


「いや、それでも」


「じゃあこうしよう。お前が俺の思うような奴だったらいずれ二人でこうやって話す時が来る筈だ。その時に今渡した金貨を倍にして返してくれ」


「それって俺で賭けをするってことですか」


「そうだ。お前が上手くやれば俺の金は倍になって返ってくる。それがダメなら単純に俺の見る目が無かったって事だ」


 この人色々な意味で只者じゃ無い。見た目はちょっと怖いけどそれ以上に人としての器のデカさが違う。そう思い知らされた。


 だったら俺も。


「分かりました。それなら2倍なんてケチなこと言わないで10倍にして必ず返してみせますよ!」


 世界を支配しようとしてるんだ。こんなことでチマチマしてられるか!


「ほぉー随分強気に出たなユウジロウ。いいだろう!その賭け乗った!」


 こうして俺は夢という名の野望を胸に異世界生活を本格的に始める事となった。

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