第3話 二本角の巨大兎

「まさか……」


 そのまさかだった。一緒に倒したと思っていた巨大な親玉がムクっと起き上がったのだ。


「ウソだろ!!」


 俺は咄嗟に機転を効かせて固まった油にもう一度火をつけた。

 するとたちまち油は激しく火を上げ燃え上がった。


「うわっ!!」


 どうやら一度固めた油は普通と違ってとても燃えやすくなっているらしい。

 だけどそんなことで感心してる場合じゃない!!


「コイツ全然効いてねぇ……」


 燃え盛る炎をものともせず親玉はこちらに近づいて来る。


「…もしかして怒ってる?」


「グァァァァァォッ!!!」


「ですよねーー!」


 そりゃそうだ。仲間を倒された挙句自分の体に火をつけられたんだ。怒るに決まってる。

 だけど、どうして他の奴には効いたのにコイツには効かないんだ?


「炎が弾かれてる…」


 流石は二本角。他の奴らとはとは格が違うってか。

 きっと奴の毛皮だけは炎に強い性質でも持ってるんだろうな。


「流石はなんでもありの異世界だ!」


「グァァァッ!!」


 奴はその巨体で空高く飛び上がり俺目掛けて落ちてくる。


「マジかよっ!…」


 なんとか間一髪それを避けることには成功したが、奴の重さで辺りの地面はひび割れその強烈さを表している。


「危ねぇ……あんなの喰らったらマジで終わりだぞ……」


 その時、俺の中で最悪なイメージが頭に過ぎる。まるで自分の未来を予告するように何度もその光景が頭の中で繰り返される。


「……ってバカぁ!!」


 何考えてんだ俺!


 まだ終わったと決まったわけじゃない。どうせ考えるなら好きな物を考えよう。頭の中好きな物でいっぱいにしてまずは落ち着くんだ。


 俺の好きな物といえば…あの時食べ損ねた唐揚げ!それにとんかつ。メンチカツもいいなぁエビフライも!だったらついでに天ぷらも追加だ!

 あ、そういえば天ぷらで思い出した。揚げ物大好きの俺だけどアイスクリームの天ぷらだけは食べた事ないんだよな〜〜。

 外は熱々中は冷え冷えっていう不思議な感覚が食べてみると意外と癖になるらしい。衣の僅かな塩味がアイスの甘さを更に引き立て絶妙なマリアージュを繰り広げるそうだ。噂だけど。


 機会が無くて食べれなかったけどどうせ死ぬなら一度くらい味わってみたかったものだ……。


 ん?、、熱々で冷え冷え。それと似たよう物をさっき見た気がする。

 外は炎で熱々なのに毛皮で守られた内側は熱が伝わらず冷え冷え…


「あっ!!」


 奴はアイスクリームの天ぷらと一緒なんだ!外側からじゃ熱が伝わらない。だけど内側からなら話は別なんじゃないか?

 俺は思いつきを形にすべく急いで行動に移った。


 まずは油を少し噴射してそれを直ぐに固める。固めた油を握りやすい大きさに丸める。

 そして俺はバッグから使いかけのタバコを一本取り出した。


「まさかこんな所でヘビースモーカーだったのが役に立つなんてな」


 異世界にこれと同じタバコがあるとは限らない。てことはこれで使っちまったたら暫くは禁煙か……。ま、そうでもしなきゃやめられねぇ。禁煙には丁度いい機会だ!


 俺はタバコにジッポライターで火をつけると、丸く固めた油に丁度いい長さになるように捩じ込む。


「出来たっ。名付けて時限型油球!!」


 俺の固めた油は普通よりとにかく燃えやすい。上手くいけばタバコについた火や燃殻だけで火がつく筈だ。


「後はこれを奴の口に放り込む!」


 俺はこう見えて小中高共に野球部だったんだ。まぁ、いつだって補欠だったのは…今日だけ忘れよう。


 上手くいかなきゃ死ぬだけだ。やってやる。


「俺の真の実力を見せてやる…飛んでけぇぇ!!」


 ぎこちないフォームで投げられた油球は見事一直線でモンスターの口に入っていった。


「よっしゃストライク!!」


「グァ?…」


 得体の知れない物が急に口は入った事でモンスターは戸惑いを見せる。

 そして次の瞬間、口の中で油球は炎を上げて爆発を起こした。


「グワァァァァァ!!!」


 炎は口の中から体内にまで燃え移り、モンスターは激しくもがき苦しむ。


「どうだ、逆アイスクリームの天ぷら作戦は!中は熱々外は冷え冷え。どうだ!たまったもんじゃないだろ!」


 暫くすると悶えるモンスターの声は大人しくなり地面に倒れた。


「…………」


 〈複数のモンスターの討伐を確認しました。これより経験値を精算します〉


 脳内で聞こえる聞きたかった言葉。俺はその瞬間心の底から叫んで喜んだ。


「やったーーー!!」


 やったぞ。こんな能力だけど何とかなった!俺は異世界で生き残ったんだ。

 こんなに嬉しいと思ったのは久々だ。揚げ物を食べるくらいしか嬉しいだなんて思えなかった俺だけど、こんな気持ちがまだ残ってたとはな。


 〈おめでとうございます。複数のモンスターの討伐によりスキルレベルが上がりました〉


「おっ、レベルアップ!」


 〈スキルレベルが上がった事により噴射する油とガスの射程距離が大きく伸びました〉


 それは嬉しいことなのか?……いや、一応スキルが強くなった事には変わりない。嬉しい事の筈だ。


 〈レベルアップにより新スキルを獲得しました〉


「それだそれ!それを待ってた!」


 望むのは分かりやすいくらいの攻撃能力!


 〈スキル【油炎】が使えるようになりました〉


「ゆ、油炎?ちなみに説明は?油炎の説明は言えん、な〜んてね」


 〈…………〉


 反応が無いダジャレほど寂しいものは無い。


 〈スキル【油炎】これにより噴射する油の温度を自在に操る事が可能です〉


「温度をコントロール出来るなんて料理する時には便利!って、これでどうしろと……」


 あ、だけど自在に温度を上げられるって事はもしかしたら。

 確か油の引火点は250℃でも発火点は335℃以上だった筈。それを越えれば油は火種が無くても勝手に発火する。

 ひとまず試しにやってみるか。


「……えっと、温度を340℃に設定」


 〈噴射する油の温度が340℃に設定されました〉


「よし。出来るだけ力を絞って少しだけ、」


 俺は蛇口をゆっくり開けるように少しずつ力を入れると、手から少量の油が炎を上げながら吹き出される。


「うおっ!」


 炎を纏った油は地面に落ち燃え移ろうとする。俺は慌てて左手からガスを噴射して油を固めて鎮火する。


「…一応実験は成功か。でも気をつけないとな。ちょっと間違ったら大惨事だ」


 でもこれで武器が出来たのは異世界で生きるにおいて大きい。

 最初は料理程度にしか役に立たないスキルだと思ってたけど、まさか知識でこうも役割が変わるとは。揚げ物が好きだからこそ習った火災防災教室の知識がこうじて役に立つなんてたまには勉強もしておくもんだな。


「それにしてもこれだけのウサギ達どうすっかなー……放置ってわけにもいかないだろうし、かと言って持ち運べる量でも無いしな〜」


 〈先程討伐したモンスターの中にパラレルモンスターの存在を確認しました〉


「パラレルモンスター?…それってあのデカいウサギの事か」


 〈パラレルモンスター討伐の成功により特殊スキル解放の条件が達成されました。それによりスキル【フリーズボックス】が使用可能になりました〉


「それってもしかして、異世界でよくある何でもしまえる便利な収納系スキルか?」


 〈【フリーズボックス】収納アイテムを任意で冷蔵、冷凍にして保存が可能。収納量はレベルアップによって拡張されます〉


「うん。冷蔵庫だな」


 だけどきっと異世界じゃ珍しい能力の筈。それに冷える事を忘れれば大抵な物をしまうことはできる筈だ。


「問題は量だな……果たしてこれだけのウサギ達をしまえるだけの広さがあるかどうか。ま、やってみれば分かるか」


 ウサギに手を触れると目の前からウサギが消え、ステータス欄にウサギの項目が増えたことを確認する。


「なるほど。このウサギの名前パックラビットで言うのか」


 収納した物は色々と確認ができるってことか。よし、この調子てしまえるだけでしまってみるか!

 次々とパックラビットに手を触れどんどんと収納していく。

 物の数分で小型なパックラビット達を全て収納する事が出来た。


「問題はこのデカウサギだな。果たしてしまえるか。よっと!」


 意を決して触れてみると簡単に収納できてしまう。


「おっ!」


 案外すんなりと行ったな。それにコイツの名前ギカントラビットって。そのまんまだし。

 だけど初期状態でも結構広いんだな。 


 〈【フリーズボックス】の容量が50%を超えました〉


 これで半分。広いか狭いかは別としても暫くは気にせず使えそうだ。


「一応収納してはみたけどこれ意味あんのかな……」


 群れで集まっていたパックラビット達は炎によって黒焦げ状態。もうちょっと火の加減が出来てれば食料としても使えたんたけど、流石にこれだけ真っ黒だとな…

 それにでっかい方は外側こそ真っ白で綺麗なまんまだけど内側は恐らく……これもきっと難しいだろうなぁ。

 あーあ、なんか複雑な気分だ。


「さてと、歩くか……」


 今は色々考えるより前に進むしかない。とにかく前へ。

 それが命を奪った者の責任だから。

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