第5話 もうアラフォーなんだから仕方ない
バンドルフさんと別れた俺はひとまず空腹を満たすため露店街にやってきた。
焼き鳥みたいな串焼きや魚のようなモンスターを丸ごと串に刺した塩焼きなど、とにかく串に刺したものが多く目立っている。
「さて、どれにするかな〜?」
見た感じどれも不味くなさそうではあるのだが得体の知れない肉を食べることに気が引ける。
日本のように豚や鶏が無い代わりにあるのはモンスター肉。慣れない物を食べるのはいつだって勇気がいるものだ。
まぁ、この世界で生きるならそれにも慣れなきゃな。
「あの、おじさん」
「いらっしゃい!どれにする?」
「えっと、この串焼きを一本」
俺はこの中でも1番無難そうな鶏っぽい肉を使った串焼きを食べてみることにした。
「あいよ!100ゴールドね」
どうやらこの世界では単価や表記は違っても価値的には日本円とあまり変わらないようだ。日本のように紙幣がない代わりに金貨や銀貨でそのやり取りをしているといったところか。
俺はバンドルフさんから受け取ったお金から100ゴールドを取り出し店主に渡す。
「まいど!ありがとね」
「どうも」
100ゴールド。つまりに日本円でほぼ100円。肉も一つ一つ大きさがあるしこれで100円なら安いくらいだ。
それにしてもバンドルフさんから貰った資金。最初は金貨が多くて結構な額だと思ってたけど調べてみたら1000ゴールドしか入ってなかった。
つまりたったの千円だ。
別にバンドルフさんを悪くいうつもりは無いけれどもうちょっとくれても良かったんじゃないかと欲が出る。
大した額じゃないとは言ってたけど本当に大した額じゃなかった。
ケチなのかそれとも金がないのか、まぁどっちにせよ10倍でも10000ゴールド。正直返せそうな額で内心ホッとしたよ。
「さて、この世界に来て初めての食事だな。どうか腹だけは壊しませんように。いただきます!」
俺は思い切って肉に噛み付く。
「こ、これは!……」
か、硬い!何だこれは…本当に肉か?噛んでも噛んでも全く噛みきれないじゃないか。
でも肉質がというよりこれは単純に焼き過ぎだな。
「顎が外れそうだ…」
因みに肝心の味は、微妙だ。肉の硬さと違って不味い!と言い切れるほど不味くはない。けど美味しいもんでもない。食べれなくはないけど好んでは食べたくないそんな味だ。
極限状態に腹を空かせた状態でこれなんだから普通な時に食べたら…いや、これ以上考えるのはよそう。食欲が無くなるだけだ。
◇◇◇◇◇◇
「ご、ごちそうさまでした……」
何とか噛み砕いて時間をかけることで全て完食する事ができた。必要以上に顎を酷使したせいで満腹中枢だけが過激に刺激されている。無理矢理腹をいっぱいにされた気分だ。
それから一通り露店を巡ってみたが、どれも似たような物しか売っておらず店同士で客を奪い合ってる。そんな感じだった。
だけどちゃんと発見もあったし自信も付いた。
この世界で揚げ物は確実に売れる。
俺の推測通りこの世界に肉を揚げるって概念は存在しないらしい。
なんてつまらない世界なんだ。揚げ物が無い世界に価値はないというのに。
だから俺がこの世界を価値あるものにしてみせる。
揚げ物とはいわば合法の麻薬みたいなものだ。一度食べたら病みつきになって2度と食べずにはいられなくなる。ダイエット中でもコンビニ横にあるのを見かけたらついつい買ってしまう。
それこそが揚げ物の恐ろしい力なのだ。
つまり揚げ物は世界を支配できる力を持ってると言っても過言じゃないのだ。当然油を使いこなす俺にもな。
「ハハハハハハハ!!!」
オイルマスター。我ながら恐ろしい力を持ってしまったものだな。
「おじさん、何一人で笑ってるの?」
少年の声が聞こえて俺は我にかえる。
「あ、いや、」
ヤバい。純粋な少年の目が30過ぎのオッサンに突き刺さる。
「そうだ少年。冒険者になるためにはどうすればいいか知ってるかい?」
俺は何事も無かったように少年に尋ねた。
「おじさん冒険者になりたいの?」
「え、あ、うん…」
「僕と一緒だね!」
「そ、そうだね」
小学生にも満たさなそうな少年とオッサンの夢が一緒って本当にいいのだろうか。 少し自信が無くなってきた。
「それならこの先の冒険者ギルドに行ってみるといいよ!!僕も大人になったらそこで冒険者になるって決めてるんだ!」
冒険者ギルドね。如何にもって感じだな。てかそのまんま。
「ありがとう少年。行ってみるよ」
「うん。頑張ってねおじさん!!」
自分でも分かってはいるけれどそう何度もおじさんって言われるとちょっとショックだな。
「…30過ぎたらもうおじさん。それは異世界も日本も一緒かよ」
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