女王の国




女王は、慈悲深い人物だった。なので、つねに慈悲深いことを考えている。



女王は兵を向け、アマゾーン国と、デメトリア王国を併合へいごうした。


この国は、昔から、王につかえる者と、神官の間で争いが絶えなかった。


そして、アマゾーン国の、周辺の国々とも争い、出しき合っていた。



こういう国は、私がおさめ、管理してやった方がよい。その方が、この国と、周辺の国々にとってもさいわいであろう。



女王は、そう判断して、アマゾーン国による支配という名の“救済”が始まった。






デメトリア王国は、歴史があり、素晴らしい文化を持っている。


我がアマゾーン国とも、起源ルーツを同じくする、昔からの姉妹しまいなのだ。



同じ神々をあがめ、大地の女神と、人間の男王だんおうが結ばれる神話がある。



しかし、その昔、デメトリアは、男王だけを神格化して、女神や他の神々をすみに追いやった。


それは、男性の神官による権力の独占と、偏狭へんきょうな、信仰心のためだった。



そのため、この国とは、長い間、たもとかち、秘密裏に書簡を交わし、情報を探る以外は、距離を置きながらも、それでも暖かく見守ってきた。




デメトリア王国は、アマゾーン国とちがい、昔から、男の王がいて、祭祀さいしを男の神官がつかさどるが、それも、男性が希少になってからは、ただの形にぎない。実務的な事は、すべて女の親類や部下が行っている。



この国も、アマゾーン国ほどではないが、男児の出生が少なく、国の維持に苦労しているにもかかわらず、愚かにも争いをやめず、国は疲弊していた。



この国では、戦闘や過酷な労働を男性が担い、犠牲者は後を絶たない。





女王がそう思うのも、訳があった。





アマゾーン国の人々は、神々からの恩寵おんちょうである“男性”を守り、育て、やしなってきた。



そして、たがいの家同士で、契約を交わして、希少な男性を皆で共有して、大切に世話をしていたのだ。



そんな彼女たちにとって、デメトリア王国や周辺の国々のあり方は、男性に対する冒涜ぼうとくであり、虐待そのものであった。





アマゾーン国は、長い間、この国に対して働きかけてきた。


争いをやめ、男がやっていたことを女がにない、男に負担をかけ犠牲にする、これまでのやり方をあらためるよう、何度も書簡しょかんを送り伝えていた。



しかし、この国は、それをかたくなにこばみ、男性を利用し、粗末にあつかうことをやめなかった。





女王は、この国の男性のために心を痛め、怒り、みずからの手で救うことにした。




そのために、聖域せいいきすら、おかして進軍したのだ。




一つは、作戦のため、神殿の丘を通過した事と、一つは、異国の者とはいえ、戦いで男性をあやめたことである。




これらのつぐないは、今後こんごこの国の世話をすることでたそうと、女王は考えている。




そのためには、まず、デメトリアの各地に“監督”を派遣し、地域を治め、神職は、アマゾーン国の巫女が、神官にわり、神々と女神を信仰し、王を敬愛する、本来のあり方に戻した。・・・・・・・・・・



王は、男性が希少になる前から、この国では鎮座ちんざするのみで、統治は実質、王の妻や、親類が行っていたので、支配者がアマゾーンに替わろうとも、支障は無く、この国はとても良く治まった。






女王が次に取りかかったのは、自国の取り締まり・・・・・である。




国内では、おのれの欲望のために、男性の売買が行われていた。



手口てぐちは、保護施設を隠れみのにしたものだった。



まず、不届き者達は、身寄りの無い男性を、拉致同然の扱いで、アマゾーン国各地にある男性保護施設に送り、しばらく寝かせてから、裏で手を引く商人に売り渡す。施設の関係者は、男性が通常と違い、麻袋に詰められているのを不審に思い、不届き者に理由を聞いても、男が暴れた・・・から。と答えるため、不届き者の言葉を信じてしまう。



それから、儀式としょうしていちを開き、公衆の面前で、堂々どうどうと売り飛ばす。



これには、街の有力者もからんでいた。いつしか街は、男性の売り買いが当たり前になってしまい、施設の関係者の他、街の人々も、疑問や違和感を覚えながらも、目を背けて黙認するようになり、街への疑惑や、良からぬ噂がひとり歩きして、国中くにじゅうに広まっていたのだった。



女王は、外交に尽力する間に、自国の管理が手薄になっていたことを深く反省し、すみやかに対処した。




女王は、関係者を全員あぶり出して、男性たちの救済をするとともに、売買に関わった者には、しかるべき処置をした。




本来、男性に対する、敬意と感謝をもって行われるべき、神聖な婚姻の儀式が、人身売買の口実にされ、蔓延はびこっていたことと、それを一市民の直訴じきそによってはじめて把握するに至ったことは、男性の庇護者を自称し、誇るアマゾーン国の女王にとって、恥ずべきことであった。




女王は、自らの汚名をすすぎ、償うために、被害者である二人ふたりの男性を自分の宮殿に呼び寄せた。




デメトリア、今となっては、アマゾーン国の一都市出身の彼らを、もてなし、尽くすことで、わずかでも、慰めになれば幸いだと。



それから、この件の貢献者にもむくいねば。と、女王は、思案するのだった。







あれから、レナトスたちは、アマゾーンの女王が住む、広大な宮殿で、何不自由なく暮らしている。



女王の計らいで、彼らは、詩作をしながら自由気ままに過ごしていた。




レナトスの心は、晴れやかだった。




デメトリアは、アマゾーン国との併合と、彼女たちの統治で内部闘争は無くなり、調査と、巫女による解釈によって、ルキウスの罪は晴れた。



ルキウスは、故郷に帰ることもできたが、彼は、神官の職はもう存在せず、帰る理由も無い。それに自分は、詩人として、ここで詩を作りたい。と言って、新たな詩を書き始めた。



レナトスも、家族のことが気にならないと言えば嘘になるが、もともと、早くから父と、二人の兄を亡くし、気丈でたくましい母が領地を治め、そんな母の代わりに自分を育ててくれた、しっかり者の優しい姉が、母の跡を継いで家の名と領地を守っているので、自分が帰らなくても、当分は、宮殿ここで詩を詠むのも悪くはないと思っていた。





ちょうどその頃、アマゾーン国と、デメトリア王国は、正式に併合した。


ふたつの国は、ひとつになり、名は女王国アマゾニアに改められた。





ニュムペは、街の飛脚から、国直属の配送係に任命された。


もっと広い範囲を、国の重要な使命を帯びて走ることになる。




ニュムペは、自慢の足が認められた。と、自信満々で実家に凱旋・・したが、兄のニコロから、そんな広いとこ、馬を使うに決まってるだろう!と一喝されて、あわてて、ガイアに馬を習いに行ったという。




上達を祈る。




ガイアは、女王直属の騎馬部隊に取り立てられたが、自分は、あくまで街を守るのが使命だと、断ったそうだ。実にガイアらしいと思う。


今、ガイアは、女王から、責任者に任命された、街を治めている。街が二度と悪いことに染まらないように、守っているという。



どこまでもガイアは、ガイアなのだ。




別れの時、レナトスとルキウスは、ニュムペとガイアから、文通を申し込まれたので、彼らは、手紙をやりとりして、彼女たちの状況をよく知っていた。




ニュムペによれば、ルキウスの詩は、国じゅうで大はやりだそうだ。




最初は、女王の働きかけもあり、宮廷詩人・・・・の作品として、もてはやされたが、そのうち、大勢の人に読まれることで、彼の詩が持つ、魅力や奥深さを理解する人が現れ、確実に増えていった。



今では、女王陛下も、彼のファンなのだ。




かく言う私も、早く本を完成させて、陛下に献上し、世に広めたいと思う。



そうすれば、故郷に錦を飾る…もとい、アマゾニアが平定されてから間もない各地域に、アマゾーンに関する情報を伝える役目を果たすだろう。



アマゾーンたちの影響は、周辺の国々までおよんでいる。



これからも、アマゾーンと、女戦士アマゾネスの世界は、広がっていくだろう。





この本が、女王国アマゾニアの繁栄に貢献することを願って、私は、筆を置く。






神暦1321年年3月25日



レナトス・アトランティウス









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アマゾーン国探訪記 始祖鳥 @shisotyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ