聖なる王
王の
しかし、人は有限なり。
約束された幸福すら、耐えることはできなかった。
人々は、堕落したのだ。
いくら満たされても、求める心は消えず、繁栄の中にいても、
人々は、不平不満のはけ口を神々に求め、神殿に供物を捧げ、すがり願った。
それでも飽き足らず、人々は、祭壇に上等な家畜を捧げ、自分の願いが
そして、恐ろしいことに、人々は、人間を捧げるようになった。
世の荒廃を嘆いていた王は、これを知ると怒り悲しみ、生贄を禁ずるお
本来、供物とは、神々の恵みに対する礼として捧げるもの。
しかし、人々は王に
王は、言った。
「ならば、私を捧げよう」
王は、
人々は、驚き
しかし、欲望に勝てず、王を捧げることにした。
人々は、王を神殿に連れて行き、祭壇の前で、他の
その時、人々は、はじめて
そして、気づいた。
自分たちが享受してきた恵みに、自分たちが応えることのなかった愛に。
我々は、
「愚かな者は失うことでしか、恵みに気づくことはできない。王は、自ら犠牲になることで、人々にそれを教えたのだ」
ルキウスは、語り終えると、ニュムペが持ってきた水差しから、器に水を
ニュムペは、退屈そうにあくびをしている。
それを見たレナトスは、不思議に思った。
(
「このように、王は、命をもって、皆に気づかせた。
「ニュムペは、どう思った?私は、素晴らしい話だと思うけれど」
「どうって、なんか重いし、しっくり来ないな~」
レナトスは、
「これだよ」
ニュムペが、レナトスから受け取った革製の手帳を開くと、宝石で装飾された紋章と、アマゾーン国とは違った
「これが、王だ。あれから、皆の心を救ったゆえに聖なる王、“
「我々は、皆、聖王を敬愛している。王国では、我が子に聖王の名前を付ける者も多い。レナトス、君も、王の名を
レナトスは、しっかりと
「レナトスって、王様と同じ名前なんだね」
ニュムペは、革製の身分証を見ていると、聖王の周りから放射状に光が伸びていて、首からは、赤い血が流れ落ち、それが文字を書いているのに気づいた。
ニュムペが目を
「あ゙ーー!知ってる!アマゾーン国では、大地の女神と人間の
「そういう言い伝えも、聞いたことがある」
「
「私は、こっちの方が、好きだな~」
アマゾーンの世界では、男性の王が、自ら大地の女神と婚姻を結び、災いを
「王様は、今でも女神と暮らしているんだよ」
「と、言う訳で、王国では神々よりも重きを置かれる聖王への冒涜は、
「しかし、ルキウス。
「私は、すべてを悟り、自ら王国を出てアマゾーン国へと向かった。私は、聖王を愛しているが、運命の女神に身を委ねようとも思ったのだ。私の話はここまでだ」
やがて、日が沈みきった頃、街外れの小屋には
「ルキウス、これ…いつも食べてるんですか?」
「ニュムペ特製の、干した魚のスープだ。少々生臭いが、慣れれば
「ルキウスは、何も食べてないじゃない。それに、おいしいよ、レナトスも食べなよ」
ふたりは、当然のようにスープを口に運んでいる。レナトスは、スープの匂いを嗅いで顔をしかめると、
「日持ちするし、お値段もいいし、家計の味方なのよね」
「本当に、悟りきっているのですね…」
レナトスが、
「さて、どうしたものか…」
さすがのルキウスも、困っていた。
小さな小屋には、ベッドが
「今まで、どうしていたんですか?」
「私は、
部屋の上部の空間から、ニュムペが顔を出した。
「しかし、ニュムペの、寝る場所を奪う訳には…」
「? お客様を、
「…なんだか、すみません……」
「
ルキウスとレナトスは、足と頭を
「
じゃあ、おやすみ~。
そう言って、ニュムペは、顔を引っ込めると、
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