第6話 課題



「見えた。ここだ」


空間に浮かぶ青い光の帯。その中に、微かだが確かな安定領域が見えている。研究室で幾度となく行った解析。その経験が、今この瞬間に活きていた。


「アリア、最深部までの経路を確保して」


「でも、それは!」アリアが声を上げる。「あまりにも危険です。一歩でも安定領域から外れれば、データ空間に飲み込まれてしまいます」


「他に選択肢はありますか?」


アリアは言葉に詰まり、ゆっくりと首を振った。


「ダンジョンマスター様」ギルドマスターが一歩前に進み出る。「私たちにできることはありませんか?」


その言葉に、閃きが走った。


「あります。冒険者の皆さんの力を貸してください。各フロアの要所に配置して、システムの暴走を抑える必要があります」


作戦の説明をしていく。普段は冒険者たちが使う魔法や技能。それらをシステムの安定化に利用するプランだ。彼らの力を借りることで、深部への潜入時間を稼ぐ。


「私が前任者の仕掛けたバックドアを無効化している間、システムの崩壊を食い止めていただけませんか」


冒険者たちは互いに顔を見合わせ、そして一斉に頷いた。


「任せてください!」

「私たちにできることなら!」

「ダンジョンは私たちの大切な場所です。守らせていただきます!」


「アリア、準備はいいですか?」


「はい」彼女は強い意志の光を瞳に宿していた。「最後まで、お供させていただきます」


深く息を吸い込み、決意を固める。プログラマーとして。そして新たなダンジョンマスターとして。


「では、作戦開始」


青い光の道を通って、最深部へと向かう。その道中、冒険者たちが次々と持ち場について、魔法や技能を駆使してシステムの安定化を図っていく。


まるでデジタルの海を泳ぐような感覚。意識を研ぎ澄まし、一歩一歩、慎重に進んでいく。


そして、ついに最深部へ。そこには巨大な扉が浮かんでいた。


「ここですか?」


「はい」アリアが答える。「バックドアプログラムの中枢です」


扉を開くと、そこには無数のデータが流れる空間が広がっていた。そして、その中心に。


『よく来ました』前任者の声が響く。『私の置いた最後の課題を、楽しんでいただけましたか?』

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