第5話 罠


「前任者が仕掛けた罠」その言葉の意味を理解した時、システム全体が大きく揺れ始めた。


「各フロアの状況を報告してください!」


アリアの呼びかけに応じて、次々と報告が入る。


「一階の迷路が変形、冒険者たちが出口を見失っています!」

「二階のモンスターが暴走!制御不能です!」

「三階の重力制御が完全に崩壊!冒険者たちが宙を舞っています!」


その時、俺の目に異変が映った。ダンジョンの深部に、普段は見えないはずの光が点滅している。


「アリア、あの光の正体は?」


「解析中です」彼女の手元に青い光の画面が広がる。「これは...まさか。ダンジョンの最深部に隠されたバックドアプログラムです」


「バックドア?」ギルドマスターが眉をひそめる。「それは何です?」


「簡単に言えば、システムに仕掛けられた秘密の入り口です」答えながら、俺の中で状況が整理されていく。「前任者は自分が去った後でも、システムを操作できるように細工を施していたんですね」


アリアが青ざめた顔で付け加える。「しかも、このバックドアは時限式です。あと10分以内に止めなければ、ダンジョン全体が完全にクラッシュします」


冒険者たちの間から動揺の声が上がる。このままダンジョンが崩壊すれば、中にいる全ての人々が危険に晒される。


「対策は?」ギルドマスターが切迫した様子で問いかける。


「はい」アリアが答える。「理論上は可能です。ですが...」


「ですが?」


「バックドアを無効化するには、最深部で直接プログラムを書き換える必要があります。しかし今の状態では、そこまでの経路が」


その時、俺は気づいた。画面に映る異常な数値の中に、ある規則性が見えたのだ。


「これは...」思わず声が漏れる。「完全に無秩序な暴走じゃない。前任者の暴走プログラムにも、一定のパターンがある」


「どういうことですか?」


「このシステムの設計思想...俺が研究室で作ったものと同じだ。だとしたら」キーボードを打つように、空中で指を動かす。「異常値の中にも、必ず安定した潜在パスが存在するはずだ」


突如、空間に青い光の帯が浮かび上がる。まるで地図に道筋を描くように、光は深部へと伸びていく。

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