第4話 宿題



警報音が鳴り響く中、新たな光景が目の前に広がった。まるで巨大なモニターのように、ダンジョン全体のマップが空中に展開される。


「一階から順に異常が発生しています」アリアが真剣な表情で説明を始めた。「どうやら先ほどの処理が、他のフロアに予期せぬ影響を及ぼしているようです」


マップ上で赤く点滅する地点が次々と増えていく。まるでウイルスが広がっていくような光景だった。


「各フロアの状況を教えてください!」駆け寄ってきた冒険者ギルドの代表が声を上げる。


「一階では扉の開閉機構が暴走し、部屋が次々と入れ替わっています」アリアが報告する。「二階ではモンスターの強さがランダムに変化。ゴブリンが突如ドラゴン級の強さになったり、逆にドラゴンが子猫程度の強さになったりと...」


「面白いじゃないか」思わず呟いてしまう。プログラマーとしての好奇心が刺激された。「これは単なるバグじゃない。誰かが意図的にシステムを」


その言葉が終わらないうちに、空間全体が大きく揺れ始めた。


「これは!」アリアの声が震える。「コアシステムが不安定になっています!」


冒険者たちの間から悲鳴が上がる。だが、その混乱の中で、俺の頭の中はむしろ冴え渡っていた。


「アリア、各フロアの異常の発生パターンを分析して」


「はい!」彼女の前に次々とデータが浮かび上がる。「一階から順に、約30秒間隔で異常が発生。しかも、その形式が...まるでテストパターンのようです」


「やっぱりな」確信が深まる。「これは誰かが意図的にシステムの限界を試している。まるで...」


「まるで?」アリアが不安そうに問いかける。


「まるで、俺が研究室でやっていたストレステストと同じような手法だ」


その瞬間、空間全体に響き渡る声が聞こえた。低く歪んだ、しかし何処か懐かしさを感じる声。


『突然の着任、お疲れ様です。新ダンジョンマスター殿』


「この声は!」


『そう、私です。あなたの前任者です』声には明らかな皮肉が含まれていた。『せっかく来てくれたのですから、私の置いた「宿題」を楽しんでいってください』


声が消えると同時に、新たな警告が次々と浮かび上がる。今度は今までとは比べものにならないほどの規模で、システムが異常な動きを始めていた。


アリアの表情が強ばる。「これは...まさか」

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