第3話 システム崩壊


空に浮かぶ金色の文字に、冒険者たちから驚きの声が上がった。


「す、凄い魔法だ!」

「これが伝説の言語魔術なのか!」

「光の文字が浮かんでる!」


だが、歓声に浸る暇はなかった。モンスター生成は停止したものの、三階の映像は新たな混乱を映し出していた。突然の魔法の影響で、今度は床や壁の物理法則が狂い始めていたのだ。


「アリア、三階の状況を詳しく報告してください」


「はい!」アリアは手元に浮かぶ光の画面に目を走らせながら答えた。「床の一部が不安定になり、重力の影響が局所的に変化しています。今のところ冒険者たちへの直接的な被害は出ていませんが...」


「私からも報告を!」ギルドからの連絡係らしき少女が駆け寄ってきた。「三階に取り残された冒険者たちは全員、東側の安全地帯まで避難できました。ですが、このままでは帰還ルートが」


その時だった。三階の天井から奇妙な音が響き始めた。まるでガラスがひび割れていくような音。


「これは...システムの整合性が崩れかけている」


プログラマーとしての経験が警告を発していた。このまま放置すれば、三階全体がクラッシュする可能性がある。即座に対策を講じなければ。


「アリア、三階の物理演算エンジンの設定値を確認して」


「通常値から大きく外れています。特に重力係数が不安定です」


冒険者たちの視線を感じながら、頭の中で解決策を組み立てていく。通常のプログラミングなら、テスト環境で何度も試行錯誤できる。だが今は、一発で決めなければならない。


「よし」決意を固めて声を上げる。「三階エリアの物理演算、デフォルト値に強制リセット。ただし、段階的に実行。移行時間は60秒」


再び空に浮かび上がる光の文字。今度は青く輝きながら、ゆっくりと周囲に波紋を広げていく。


「おおっ!床が元に戻っていく!」

「さすが新ダンジョンマスター様!」


歓声が上がる中、アリアが心配そうな表情で近づいてきた。


「今の対処は見事でした。ですが...」彼女は少し言葉を選ぶように間を置いた。「これはあくまで応急処置です。システムの根本的な問題は依然として残っています」


「ああ、分かってる」深いため息が漏れる。「これは氷山の一角なんだろう?」


アリアは静かに頷いた。「はい。実は私たちには、もっと深刻な問題が...」


その時、遠くで警報のような音が鳴り響いた。まるで、アリアの言葉を裏付けるかのように。

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