第6話『ミイラちゃんに蹴られたい』

 ミイラちゃんが伸ばした腕から包帯ほうたいが飛び出した。それは真っ直ぐに飛んでいって、オークの顔下半分に巻き付いた。

「……ん、ぐうっ……!」

 オークはうなったが、その声は包帯によってこもった声になる。

「……は、離しやがれ……!」

 オークは棍棒こんぼうを振るって暴れた。

 ミイラちゃんとは距離があり、その攻撃は届かない。

 闇雲やみくもに攻撃を繰り出している内に息が上がってしまい、オークはバテてきた。徐々じょじょにその動きはにぶくなってきた。

 すきありとばかりにミイラちゃんが腕を引くと、オークの巨体もそれに合わせて前に倒れ込んだ。


 向かってきたオークの体を、ミイラちゃんは軽々と蹴り上げた。

 すると──「おおっ!」と、男たちから歓声が上がる。

 またまたその絶対領域ぜったいりょういきが見えそうになったのだ。男たちは大興奮だいこうふんで、活気かっき付いていた。


 オークの体は天井に激突し、手から棍棒が落下した。

 ミイラちゃんが包帯を手繰たぐり寄せると──オークの体は床に落下した。

 気を失っているだろう力のないオークの体を容赦ようしゃなく蹴り飛ばし──吹き飛んだところを引き寄せ、さらに蹴りを入れる。その繰り返しだ。

 オークはサンドバッグ状態であった。

 ひどいことのようであるが——これは、しつけだ。このオークは領域を侵犯するという重罪を犯したのである。

 口元を覆われて酸欠さんけつ状態らしきオークは意識を失ったかすでに息絶えたか、抵抗することはなくピクリとも動かなくなった。

 オークの体をつるし上げ、まゆごとく包帯でグルグル巻きにしたところでようやくミイラちゃんの猛攻は止まった。

「私の包帯は重力を無にするの。あなたみたいな巨体には、相手が悪かったわね。……さようなら」

 めの言葉を口にしたミイラちゃんが包帯を引っ張ると、ぐるぐる巻きにされた包帯のかたまりが力なく床にゴトンと倒れたのであった。


 人間の男たちは息を飲んだ——。


——そんなミイラちゃんに蹴られたい。


 よこしま願望がんぼうを抱いた男たちから歓声が上がったのであった。

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