第5話『日焼けで失敗! ムラムラボディ』

 人間の男たちから注目を浴びていることに気付いていないミイラちゃんは、目の前のオークに集中していた。

「他人の縄張なわばりに入り込んで、好き放題にやって、生きて帰れると思わないでよね!」

 ミイラちゃんは相当そうとう苛立いらだっている様子で、語気が強まっていた。

「……ふん!」

 オークが鼻を鳴らして一蹴いっしゅうする。

「ずいぶんと人間くさい場所があると思って来てみれば、なるほどね……。人間ごときの生命いのちうばえずにいる小娘風情ふぜいがよく言うわ!」

 生き生きとしている人間の男たちのさまを見て、あきれたようにオークは言う。

「……ど、努力はしてるんだからね!」

 その件に関しては、未だに生命を奪えていないことは事実なので反論の余地はなかった。言い返せない分、声量で勝るようにミイラちゃんは虚勢きょせいを張った。

「……っていうか、私のことはどうでもいいのよ。あんた何者よ!」

「俺様はヒサロオーク!」

 クルクルとオークは棍棒こんぼうを回してポーズを決めた。

「さっきから聞いてりゃ、小娘。お前、生意気だぞ。上位モンスター様に対する敬意けいいというものが感じられない」

「そりゃあ、ただの爆破犯に対して尊敬そんけいも何もないもの」

「失礼だぞ!」

 ブフーッツ! と、オークは鼻息を荒げた。

「お前もまとめて、痛み付けてやる。今日から俺が主人様になってやるよ。ご主人様と呼べやぁああぁああ!」

 理不尽な雄叫おたけびを上げたかと思えば、先に仕掛けたのはオークであった。

 巨体の割に軽やかな身のこなしで、一気にミイラちゃんとの距離をめてきた。間合いに入ったところで、オークは下から棍棒を振り上げた。


 顎先あごさき向けて飛んできた棍棒の一撃を、ミイラちゃんは体を後ろにることで回避かいひする。


「……ぬんっ!」

 オークは前傾ぜんけいになって振り上げた棍棒の勢いを殺すと、次の動作で前に振り下ろした。


 ミイラちゃんは足を広げながらゆっくりと後転し、それから逃れる。


 床に振り下ろされた棍棒が地面に接触すると爆発が起こったが──すでにオークから距離を取っていたミイラちゃんには届かない。


「おおぉおおっ!」

 ギャラリーの男たちから歓声が上がる。

 後転して逃れたミイラちゃんの足の間に、絶対領域ぜったいりょういきとも言われる股下またしたが見えそうになったからである。

 爆発に巻き込まれて生死せいしさかい彷徨さまよっていた男も生き返り──ミイラちゃんの華麗かれいな動きに魅入みいっていた。


「甘いわっ!」

 オークは叫び、リーチのある棍棒を前へと突き出した。伸びた棍棒の先がミイラちゃんに触れたかと思えば──ドオォオオンッと爆発が起こる。

 壁や床の破片が周囲に広がり、黒煙こくえんが上がった。


 人間の男たちはシュンッとなった。もうミイラちゃんの勇姿ゆうしおがめられなくなるのかと、えてシュンとなっていた。


「……良くもやってくれたわね!」

──ところが、煙の中からミイラちゃんの声が聞こえたので男たちはハッとなる。


 煙が消えて、中から姿を現したミイラちゃんは──肌がこんがりと焼けて褐色かっしょくになっていた。しかも、それだけではない──。

「おおっ!」

 男たちは歓声を上げた。

 こんがりと焼けたミイラちゃんの肌のところどころが、白いままであった。胸の谷間や鎖骨さこつ、太ももなど──包帯を巻いていた箇所の肌が白く残っていて、色気をかもし出していた。そのお姿に、男たちの鼻の下は伸びた。

「いけぇええええ!」

「もっとやれええぇ!」

 どちらに対する応援かも分からない声が、建物の中に響き渡ったものである。


「俺様の爆撃を受けてなおも、心折れずに刃向かうというのか……。大人おとなしく、ご主人様って呼べよぉおおお!」

 駄々だだっ子の如くオークは叫ぶと、棍棒を振り上げながらミイラちゃんに突進とっしんをした。


 身構えたミイラちゃんは突進して来るオークに向かって──真っ直ぐに、手を伸ばしたのであった。

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