第3話『お姉さんと愚痴りたい』

 荒廃こうはいした世界──。

 食べ物も飲み物もない。

 人間たちは欲求を満たすことができず、息絶いきたえるしかなかった。

 今や、地上を支配しているのはモンスターたちであった。

 モンスターの一人であるミイラちゃんは、人間たちを根絶やしにして仲間にしようと目論もくろんでいた。

 だが──彼女らには誤算ごさんがあった。

 人間には食欲しょくよく睡眠欲すいみんよくなど以外にも欲求というものが存在していたのだ。

 ミイラちゃんたちがセクシーすぎるゆえに、人間たちは生への執着しゅうちゃくを断つことができなかったのである。


 そうともしらないミイラちゃんはご立腹りっぷくであった。

「……ったく、なんなのよー。私の担当たち、なかなか死んでくれないんだけどー」

「こっちもそうよ。困ったものよね」

 ミイラちゃんが愚痴ぐちった相手——こちらもミイラである。ミイラちゃんよりも少しお姉さんに見える彼女も、困ったようにほおに手を当てている。

「約束の日までにはどうにかできると良いのだけれど……」

「どうかしらね」と、ミイラちゃんはいききながら手を振った。

「意外とあんな感じで、最後まで生き長らえているんじゃないかな」

「えー、それは困るわ……」

 ミイラのお姉さんの表情がくもる。

 その時であった——。


──ドォゴオオオンッ!


 爆発音がしたかと思えば建物全体がれた。

「なにごと!?」

 おどろいたようにミイラのお姉さんが声を上げる。

敵襲てきしゅうかな? ちょっと様子を見てくるわ」

 あわてたミイラのお姉さんとは違って、落ち着いた様子のミイラちゃんが立ち上がる。

「大丈夫? 一人で……?」

 ミイラのお姉さんが心配したように言うと、ミイラちゃんは笑みを浮かべた。

「もちろんだよ。私に任せて!」

 いさましく言って、ミイラちゃんは走り出したのだった。

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