麦とお米

 

 朝、俺は鏡を覗いた。映っているのは、髭が所々はえた、冴えない顔。

「へっ……なんて顔してるんだか」

 自嘲気味に笑って、思ったことを口にした所で、誰かが返事をすることなんてない。今日も仕事、明日も仕事。明後日も、その先も、ずっと働きづめだ。

 クソみたいな人生がこのまま続く。一生続く。

 頭が痛い不快感と、立ちくらみはするが、休むわけにはいかない。病気は気から、体調の悪さは精神の弱さ。なんて上司には散々言われたっけな。

 うちは、とんだブラック企業だ。そして俺は量産型の人間だ。

 仕方ねぇよな。

 溜息をつきつつ、今日も1人、俺は家を出た。

 人で溢れる駅構内が憂鬱だ。満員電車にはもう慣れたが。

 しかし今日はついていない。よく分からないが、どうやら電車が止まったらしい。

 あと一時間は動かないだろう。このまま足止めとなると厄介だが、しかたない。運転再開まで時間があるし、トイレへと向かうか。

 用を足した俺は手洗い場に立ち、誰も映らない鏡を覗いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

麦とお米 @mugitookome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る