第7輪 若木の至り。恋と正義はいつも盲目

 Apple......OH MY APPLE!!!

 WHAT THE NINNGAIN!!!???

 ……この報道は何?

 なぜ皇子が……グレムリンにいるの⁉︎

 あのハリネズミ…………嘘でしょ‼︎

 なぜ会談しているの? 誰か知ってる?

 誰も事情を把握してないの⁉︎

 皇子は私を転生させる気ね。

 陛下はこのことを知ってる? とにかく情報を集めて、早く‼︎

 もう電話が来た……あなた、出なさい。

 私も陛下と話したくない……死にたい。

 Allô ? Oui,oui.え? ニューズですか?


          ——冥界 ブラックハウス報道官

ルネ=モーリス・ガトフォセの日記より抜粋


1910年7月31日


我が家に新しい家族が増えた。彼の名前はオレンジ Le Orange. でもフランス語でオレンジは女性名詞だ。定冠詞に La を使うことに慣れている僕としては、とても違和感を感じる。誰かと会話している時、オレンジという言葉に La を使うと本人は男性だから Le を使いたくなるし、しかしだからと言って Le を使うと笑われる、言葉のミスを指摘されて。一方で、当の

本人からはアカデミー・フランセーズに知り合いはいないかと、しつこく問い詰められる。

辞書の編纂に関わっている人物にアプローチして、どうしても自分の名前を男性名詞に変え

たいらしい。気持ちはとても理解できる。僕だって自分の名前に女の子の名前を付けられたら

凄く嫌だ。学生時代、女の子の名前の男の子がいて、彼はよくからかわれていた。「いつか

男性名詞になるよ」と励ますと、彼は言うんだ。「それはただの手始めだ。次はドイツ語、

その次はスペイン語、ポルトガル語、イタリア語、全ての言語でオレさまの名前を男性名詞にする。時間はいくらでもある、絶対に変えて見せる。ただ、おまえに成功を伝えられないのが気掛かりだ」果てしない野望だ。死ぬまでに彼が達成するところを何とか見れないものだろうか。無理だと思うけど、もしかすると、彼なら本当に成し遂げるかもしれない。楽しみだ。

その根性、いつの日か彼は本当に地球を変えるぞ。


空っぽのポケットほど、人生を冒険的にするものはない。

僕には心がなかった、ずっと探してた、君がくれた。
















1911年4月16日


我が家にオレンジのともだちが訪ねてきた。信じられないことに彼らはウサギとクマと魚だ。なのにもかかわらず、言葉を話すんだ。とてつもなく変だ。この星は広い。楽しそうに会話

していたな、オレンジ……あんな表情や仕草をするんだな。何を話していたかは、ほとんど

わからなかった。


「あの時はニンジンが煮えたかと思ったぜ、ウサギ恐竜を噛む!」

「ノージンジャー、あれはしょうがない、植木鉢だったんだ! しかしペパー、

 やつもけっこう根に持つタイプだよな。統計的に、あと十年は口を聞いてくれない」

「全くだよ、仲が良いのか悪いのか、みんなしてぼくの尻尾を掴むんだから」

〝〝〝〝HAHAHAHAHA‼︎‼︎‼︎〟〟〟〟

「Hey lads, 普通に会話できないの? 私、魚なのに溺死しそう! アハハ!」


東ロンドンの労働者階級の英語だったから内容はさっぱり、ほとんど聞き取ることが

できなかった。だけど、これだけはハッキリしている。あの眼差しや表情、彼らは

僕を差別している、特にあの気性の荒い早口のウサギ。


「Oi ninngain, used ya loaf. Bat my China plate is beaver cheep as ya.

 I can't Adam-and-Eve it. Be Jesus, innit?」

(:おいニンゲン、頭を使ったみてェだな。けどよ、俺のダチは決して

         てめェとは釣り合わねェ。信じらんねェよ、イエスでも賭けてんだろ?)


言った瞬間あのオレンジが顔面を引っ叩いたぐらいだから……

大変に汚いことを言っていたに違いない。


「このウサギ、オーストラリア送りにしてやる‼︎ 人間に喰われちまえ‼︎」

「おう、やってみろ、*【第二次ラビット・コンクエスト】を起こしてやる、オースティンが

 やったみたいにな‼︎」

「何⁉︎ 言って良いことと悪いことがあるだろ‼︎」

「そうだよな、ごめんな、悪かったよ——おまえは絶対『黄金のリンゴ』にはなれねェ」

「⁉︎ このニンゲン‼︎ オラ・ケ・オン——」

「「「《3.11》は止めろ‼︎」」」


*(【ウサギ征服】。人類の返済できない歴史の一つ。語るに語れず、推して知るべし)


以前オレンジが話してくれたことがある。精霊界には人間に関するイディオムや熟語が

たくさんあって、例えそのフレーズを知らなかったとしても、ニュアンスは通じるらしい。

なぜなら全部ネガティブな意味だから。不愉快だと怒ったら、フランス語や英語にも植物や

動物を使った差別の表現は多くあると切り返され、それ以上は何も言うことができなかった。なんだろう、この複雑な気持ちは……。しょうがないだろ、慣用表現なんだから。とにかく、ウサギと魚の肉、しばらくの間は食べられそうにない。あの怖いウサギのせいで昨晩は

マドレーヌのように泣いた。もし夢に出て来たら……。当分の間はゴキブリを持つことになりそうだ、憂鬱。黒人とアジア人の感情が身に染みた。彼らは毎日ゴキブリを持っているんだ、白人からの差別のせいで。




























1912年12月12日


オレンジのおかげで我が社の製品は飛ぶように売れまくり! やったあ! 兄たちの悔しがる顔と来たら、それはもう‼︎ 香料の仕入れ先の農家との契約、物流ルートの確保、新しい香水の開発、健康食品、僕はエリートだぞ、研究主任万歳! 民よ、褒めろ、讃えろ、敬え! 

人生は愛という蜜を持つ花だ。ああ、君には何と感謝したら良いか、オレンジ。

本当に感謝している。百万回の感謝。君は酔っぱらった時いつも、自分のことを悪く言う。

確かに君はリンゴじゃないし、リンゴにもなれない。けど、けれど、最高の友だ。


今のままで良い、そのままの君が一番輝いている


オレンジなのに〝メロンを持っている〟(:うぬぼれている)けど。それに〝サラダで話す〟(:誇張する)のも悪いところだ。だけど、僕にも悪いところはある。再会した初日にやめろと言われたけど、実はまだ隠れてタバコを吸っている。これだけは如何ともし難い。タバコはフラワルド史上最悪の犯罪者だと教えてもらったし、3次元でタバコを吸えば本体を強化してしまうことも理解している。だから決意した、明日から禁煙しよう。今日のうちに買い溜め

しておいたタバコを全部吸っておくんだ。彼の友として恥じない人間になるために。




















1913年8月24日


光陰矢の如し。彼と再会してから、もう3年が過ぎ去った。仕事も私生活も絶好調、結婚式も終え、今が人生の最高潮のように思う。しかし、ここ数ヶ月のオレンジは月にいるみたい

だった、どうも心ここに在らずでいる。心配して聞いても、うんともすんとも、煮え切らない返事ばかり。灰汁が抜けない。かと思えば次の週にはライオンを食べたみたいに元気に行動

していた。その地球色の青い瞳は海が太陽の光を反射するが如き輝きに満ち溢れ、まるで何か意を決したようだった。香りを聴いても、いつもの絢爛豪華なアロマに戻っていた。彼が元気になってくれたなら、僕はそれだけで幸せだ。でも……雲行きが怪しい、自然ではないように思う。なぜかはわからないが、根拠はないが……。思い過ごしだと良い。



僕は祈る——喜びとは


          苦悩の大木に宿る果実であること

    彼の努力が実を結びますように





























































































件名:精油計画定期報告書 西暦1914年5月27日

添付ファイル(領収書)


精油計画進捗


これまでの報告書で挙げた数々の作戦が功を奏し、現時点でガトフォセ社の売上はすでに前年比を40%上回っており、業績はすこぶる芳しい。方針として、今後5年から10年は国内での企業地盤を固め、各地域に根回しする。一方、香料市場はフランス国内ではまだ飽和しない見通しだが、将来を見据えて草草に、今後数年を目処にエジプトやモロッコ、アフリカなど、フランスと繋がりの深い国々と良好な貿易関係を築く準備に入る。各国の物流支援チームと

連携して人間界のロジスティクスを整えつつ、1924年までに香料市場における輸出入の

規模をレベル2から3に発展させる。







対テロ対策


プロジェクト開始時にチームを襲ったテロリストの再襲撃はない。今後もない見通しだ。根拠は精油計画と未だ続く【サンタ界侵略戦争】の継続時期が重なることに起因する。仮に襲撃犯たちの狙いが地球人類根絶であるならば、このプロジェクトを犬のディナーみたいに滅茶苦茶にしても効果は大して得られない。彼らにとって重大な意味があること、それは動物界大総統府に加担してサンタ界を焼け野原にし、サンタたちを根絶やしにすることにある。なぜなら、クリスマスを廃止にすれば人類は未来に対応できなくなるからだ。従って、引き続き警戒が

必要ではあるものの、このチームがテロリストに襲われる可能性はかなり低い。










個人評価


ラベンダー:とても良い

ファッション業界の動向・市場調査・マーケティングを担当。需要を創り、時代と社会情勢に根付いた香水 L'avion と Le Voyage D'oubli を開発。その他リヨンの自殺霊を2件取り締まり治安維持に貢献。差別発言の指摘があり、争いの種を蒔かないためにも今後は自身の言動に

注意を払う。


オレンジ:極めて優秀

被支援者であるルネ=モーリス・ガトフォセに多くのアイディアを落としている、彼が新しい

分子、薬効を発見できるように。また、細心の注意を払い被支援者と密なコミュニケーションを取っているため、彼は非物質界の事情を全く知らない。それに加えて、精油蒸留法の提案・修正・改善・フィードバック、テロ対策としてリヨン地元住民霊への指導と注意喚起、サンタ界への支援物資の呼びかけを実施。中でも称賛に値すべき点は、アロマ連合ロンドン支部

〝アイルランド自治法案可決のための緊急会議〟における有意義な発言である。

ウィンストン・チャーチルの支援者と舌戦を繰り広げた。上司として芳しく思うのは、

彼の人生は薔薇色。


なお、領収書については添付ファイルを参考されたし。


          精油計画主任『洗い草』
















 精油計画の開始から四年の歳月が流れた。

 善きものも悪しきものも万物は全て、自然が与えてくれた薔薇の小道を通っている。

 それらは必要な時に起こるべくして起こっている。

 この地球が再び楽園の地とならんために……。


 そう考えるのは流石に無理があった。西暦1910年の【サンタ界侵略戦争】勃発以来、

ハーデス世界長は戦争初年度は週に平均49時間、これまでのトータルだと17時間、

ルーチカ世界長と電話している。この事実を知った時、大草原不可避だった。

まるで親友か恋人だ。ルーチカ世界長は齢十万年以上とも言われており、今いる精霊たちの

中では高齢に当たる。対してハーデス世界長は数万歳。その若さから彼はルーチカ大総統の

ヤングケアラーだと揶揄されている。確かに、侵略の正当性を力説する頑固で偏見まみれの

お年寄りの主張に我慢して耳を傾ける姿はそうとしか見えない。彼は大総統府からの要望と

植物界を主とした緑側からの要望を双方に伝える役目を担っている。

【地球大混乱時代】の再来を断固阻止するために、両者の対立をこれ以上深めないために

——もちろん両者の間に一方的に亀裂を入れているのは動物園のほうなんだけど——

間に立ってそれぞれの要求を整理してくれる冥界は非物質界に欠かせない存在だ。冥府の公式アカウントで、懸魂に働くハーデス陛下をドキュメンタリー形式で一定期間毎にまとめた動画があるんだが、見ていると痺れる。He is mintly fantastic and magnificent.

冥土の土産に教えてやるが(:For your information)、彼は人間界の司祭たちですら、その立場を放棄して喜んで裁かれに来る程に格好良い。この動画、政治的な意図があるものだと

理解していても、彼には素晴らしく好感が持てる(何と言っても親友のおじいさんだ、会って話したこともあるし、お茶目な冗談で笑わせてもくれた。嫌いにはなれない)。だけど大変に

真面目な動画なのに、あの極悪ハリネズミから電話が掛かってくると「また電話だ!」

どうしても笑ってしまう。誰もが戦争を止めようと全身全霊を尽くしているのに電話のシーンは茶番劇! それで陛下は、ブラックハウスの階段を必死で駆け上がり執務室に戻るんだ。


「陛下、園長から電話です」

「Oui,oui,oui‼︎ 向かってる!」

「プルート」

「ハリー? やあ」

「霊道回廊の件だが……」

「……爆弾? 住民を避難させると約束したはずだ。なぜ次元爆弾を設置してるんだ?

ハリー、君は……チッ、説明してくれ、頼む。……軍が勝手に? 君は大総統だろう?

待て、まだ話は終わっていない、切らないでくれ、このままに。そうだ、

伝えたいことがある、オリバーが——アロマ連合が合意したんだ、

えーと、あれだ……ハリー? ハリー!」

 豪華絢爛たる執務室。三つ頭の黒犬と閣僚たちが静かに成り行きを見守る中、その世界長の机——〝絶対者〟と呼ばれる——に飾られた今は亡き『征服の草』の写真を視界に入れながら電話越しに駆け引きする陛下の表情は暗黒大陸そのものだ。ロンドンの天気より変化が早い。冥界には季節はないが、陛下の顔には四季がある。「以前の彼とは違う。別の動物になって

しまったようだ。考えが化石になっている。私の知るジュラシック(:ジュラ紀、全盛期)の彼はもういない、退化している」サンタ界を侵略し、ドードー、ワニ、チーター、トラ、

ゴリラ、ナウマンゾウ、サメ、その他にも天文学的数字の種族、住民たちを密猟し続ける卑劣な動物園園長の13枚舌のせいで、彼は心労が絶えない。好感度と支持率は上昇する一方で、【サンタ界侵攻】に付随する〝冥界霊も死ぬ〟激務に倒れないか、世界中から心配の声が

上がっている。驚くことに時々、ジジイとペパー——まだ根に持ってるんだ、相変わらずオレをブロックしている。キスしたら許してくれるだろうか——が映像に出てくるんだ、これには草が生える、地球って狭いな。彼は皇子だから当然と言えばそうだ、元気らしい。

ハーデス陛下はまるでお父さんに見える。ハリネズミのシーンではかまってちゃん気取りの

高齢者の相手で疲弊、ペパーが登場する場面では息子に癒される——まあ実際は

孫なんだけど。とにかくオレが言いたいのは、電話会談後のハーデス陛下の様子を見ると、

状況は伐採のように絶望的だ——机に肘を突き、組んだ両手を眉間に当て、痛恨の一撃でも

食らってしまったかのように。手の施しようがない、と言いたげな悲愴を肩で匂わせる。あのヒトのあんな姿を見たら、もう打つ手は残されていないように思えてならない。あんな表情、【天使界総動員ストライキ】以来だ。もちろん、すること為すこと何もかもが完璧だと

思われる彼でさえ批判はある。「外交にばかり木を使い、本来の仕事である輪廻転生が疎かになっている」、「はい、小倉さん。いまサンタ界では〝ハーデスする〟という言葉が流行しています。先程ご覧いただいた現地からの映像の通り〝非常に心配する素振りをみんなに見せるが、何もしないこと〟という意味で使われていて、実はこの言葉、動物界でも使われているんです。そちらでは〝理由もないのにしばしば電話する〟、という意味だそうです」、報道番組〝特ダネ!〟で行われた次期世界長有力候補者同士の議論では「あなたはエリート主義だから人間の気持ちがわからない、三次元で困窮している庶民一人ひとりにまで完璧でいることを求めている! 誰もがあなたのようではない!〝道を渡ればすぐ職は見つかる〟、〝努力が足りない〟だなんて良くもまあ——」、「事実を言ったまでだ、合理性のみが地球を最適化する。それに人間の気持ちぐらい理解している。フローラ(:植物界を意味する格式ばった言葉)の精霊たちが言うように、彼らは確かに野蛮だ——違う、聞いてくれ、そんなこと言ってない、勝手な解釈をしないで欲しい! Madame,マダム、私が言いたいのは——花たちに木を配るのは当然のことだ、彼らの種族は三次元で虐待されている!」、「あなたはIT星出身のプログラマーだから、何にでも論理をブチ込んでくるけど、人々の感情にもっと配慮するべきよ!」、「論点がズレてる、私のキャリアは議論とは関係ない、それに私の出身はこの星だ、

地球!」彼は冥界内で強く非難されている。頼む、あなたが選挙で負けたら地球は終わりだ。ルーチカと対話できる神がいなくなる。

『銀の狐』や『首領』と同木の『契約の矢じり』アカシア大使——霊戦を生き抜き、

策謀うずまく植物霊たちとの戦いで培った技能を動物界との交渉でも遺憾なく発揮している

連合の最古参の一輪。動物界首国ンゴロンゴロにある植物界大使館の長で、

黒人の姿でいることが多い——もルーチカと愛称で呼び合う仲だ。植物の中で最も信頼関係を築いた男ではあるが、やはりペパー・ミントのお祖父さんには及ばない。地政学上の問題だ、アカシア大使の実力不足ではなく。

 戦争初期、ビッグ・サンタの各世界でのリモート演説に魂を打たれ、緑側には一致団結の

香が漂った。しかし数々の支援も虚しく、最終的にサンタ界は次元の半分が動物界となり、

約半数近くの霊口が死亡、強制移住、または亡命したと言われている。正確な数は把握できていない、被害はもっと甚大かも。状況は刻一刻と変わり、攻勢は一進一退。

西暦1914年5月末——戦争はまだ終わっていないが、ビッグ・サンタは奪われた領界を

取り戻すことを一時的に諦め、過去4年間行われていなかったクリスマスを

今年から復活させる意向を示した。間に合うのか?

「密猟者たちがやって来て以来、我々の愛する世界は植木鉢となった。人参は煮え、

*〝南極に行くことを余儀なくされた〟精霊たちも多い。皆さん、受け入れ難い事実ですが、もはや我々サンタも、三次元の絶滅危惧種同様、*〝レッドリストに登録された〟のです。

侵略初期からサンタ界の良き友として支援してくれたAU(Aroma Union アロマ連合)並びに緑側諸界に、深く感謝の意を表します。そして、これまで魂を懸けて戦場で戦ってくれた友人たちに感謝します。私を信じてついて来てくれた友人たち、全員に! 状況は極めて困難だが我々はサンタだ。『黄金のリンゴ』が託してくれたものを未来へ渡す使命がある。

決して『悪の華』に負けてはならない。この星には紛争の種がばら蒔かれ悪が蔓延っている。

*〝前には人間、後ろにはハリネズミ〟。我々はいつまでも弱肉強食主義の檻に囚われた

動物園の連中だけを相手にしているわけにはいかない。なぜなら三次元には、動物界に負けず劣らず頑固で狡猾な人間たちがいるのだから。彼らは我々の手が届かないことを良いことに、やりたい放題している! *〝人間も隕石も待ってはくれない〟、待てと言われて待つ

人間はいない‼︎ 彼らを良き方向に導かなければ、この星は破滅だ。世界長として、

住民たち——密猟された、

住民たち——特に意味もなく殺された、

戦死した義勇兵たち——正義のために各世界から救援に駆け付けてくれた、

英霊たち——祖界とエコ主義を守るために転生した——

全ての神に、哀悼の誠を捧げる‼︎

奪われた領土、プレゼントを取り戻せていないことは、非常に心残りだ。しかし、しかし! 今年からクリスマスを復活させる! 絶対にクリスマスまでに戦争を終結させる! 

トナカイ族を始め、誘拐された方々をひとり残らず救出し、

私は、

再び皆で祝杯を挙げることを強く望んでいる! サンタ界に栄光あれ」

*(〝南極に行くことを余儀なくされる〟:

  3次元で絶滅の瀬戸際に立たされた種族の精霊たちが、使いたがるブラックな表現。

  元々はペンギンたちに使われていたのが、

  いつからか他の動物霊たちにも使われるようになった。

  意味としては博打に出る、絶体絶命の大ピンチ、路頭に迷う。

  類義語は植木鉢、ニンジンが煮える。

  もちろん南極に行ったからって状況が良くなることはない、むしろ絶滅を早めるだけだ。

  この慣用句は大変にブラックホールで、聞くものに哀れみの感情を植え付ける。

  お年寄りのブラックジョークと同じだ、言われても反応に困る。

  ともかく、オレがこのふざけたイディオムを使う木会は永遠にないだろう。。。)









*(〝レッドリストに登録される〟:絶体絶命、崖っぷち。

  類義語は植木鉢、ニンジンが煮える、南極に行くことを余儀なくされる。

  このフレーズを、まさかここで使うなんて! ビッグ・サンタの教養が垣間見えるな。

  マグマ色の伝統衣装に身を包んだ隻眼の軍神がこの常套句を言うと、効果は絶大、

  聞くものに危機感を感じさせる。悲しいかな、

  この星には地球の出来事に無関心なヒトたちが信じられない程たくさんいる。

  演説を聴けば、彼が木を引こうと努力している様子が伝わる。

  植物たちに、かなり木を使った言い草だということも)











*(特種な時事ネタばかりで読むのに疲れただろうから、紅茶を飲んで休憩しよう。

  ブルーライト! 眼が乾燥してるぞ、ストレッチもしたほうが良いな。ほら、君の食事、

  大切な栄養素が欠けてるぞ! 

  さて、このセリフ、正確には〝前には人間、後ろには『ガソリンツリー』〟。

  植物界の熟語で、極めて難解な問題をふたつ抱えている様子、

  あるいは一難去ってまた一難の状況を言い表したフレーズだ。

  動物界にも実は似た表現があり、〝密猟者が去ると戦争になる〟。

  由来は、なんだったかな、たしか、3次元で家族も友達も全員が狩られて

  地獄を味わったヒトたちが、どういうわけか密猟者が去ったので喜んでいたら、

  戦争が始まって森ごとみんな焼かれてしまった、とか。動物霊の言いまわしは恐ろしい。

  それにしても、これほどまでに的確かつ絶妙で秀逸な表現を考えたヒトは天才だ。

  動物界には他にどんなものがあるんだ? いっちょ調べてみるか、どれどれ————


 〝泣きっ面にハチ〟、〝トリたちハチたち〟、〝前門の虎、後門の狼〟、

 〝これぞアナグマ〟、〝サル用のものを渡すな〟、〝ブタの耳を作っちゃった〟、

 〝泥の中にいるブタみたいに幸せ〟、〝馬の耳に念仏〟、〝ロバにスポンジケーキ〟、

 〝ブタに真珠〟、〝飛んでいるブタ〟、〝シルクハットを被ったブタ〟、

 〝ベジタリアンのライオン〟、〝羊の皮を着た狼〟、〝狼の皮を着た羊〟、

 〝狼でも司祭になれる〟、〝羊の復讐〟、〝狼の帰還〟、〝最後の羊〟、

 〝スコットランドで羊を追いかける〟、〝胃袋何個持ってるの?〟、

 〝ドードーを食べる〟、〝木を利用しろ〟、〝ピヨピヨしないで〟、

 〝冬にヨーグルトを食べようとする者は、ポケットに牛を入れていなければならない〟、 

 〝サルも木から落ちる〟、〝絹の服を着ていようと、サルはサル〟、〝魚を溺死させる〟、

 〝Mrフォックスに訊け〟、〝キツネはニワトリと結婚してはいけない〟、

 〝オーストラリアにウサギを放つ〟、〝偶蹄類を船に乗せる前に行き先の大陸を尋ねよ〟、

 〝コロンブスに動物を渡してはいけない〟、〝口の中に人間がいる〟、

 〝おまえの目、退化してるの?〟、〝ブタの背中に乗っている〟、

 〝ブタ、ブタ、またブタ〟


      何だこれ⁉︎ 差別の豪華キャスト、夢の共演! こんな映画、誰が観たいんだ⁉︎ 

  これだけの悪口があったら、差別用語のクロカンブッシュだって作れるぞ‼︎

  おっと、そろそろ時間だ、羊の群れをまとめよう——本題に戻ろう、とにかく、

  植物界のイディオムをサンタ界流にアレンジして使うなんて、

  ここにもビッグ・サンタの知性を感じる)


*(〝人間も隕石も待ってはくれない〟:文字通りの意。動物界の至る所で聞く黄金の格言)

 彼の演説には批判もある。ある心理学者によれば、ビッグ・サンタはこれほど多くの

イディオムやクリシェを一回の演説で使う神ではなかった。彼の過去の演説の語彙統計から、どうやら政治家というものは、衰弱するとふざけた表現や堅苦しい常套句、故事成語を

使いたくなるらしい。でも、不自然とは思わない、個人的な感想になるが。オレが彼でも、

きっと使っただろう。植物界の熟語を使うのは、植物界住民の木を引き同情を買うため。

動物由来の故事を引用するのは、サンタ界がグローバルだから。多種多様な種族の精霊に

共感してもらうこと、それが演説の目的だ。ところが、反動物感情が最大に強まった今、その

世界長の言動はサンタ界民たちの怒りを買っている。サンタ界で暮らす動物霊たちは動物界を憎むあまり、自分たちの種族を表現した慣用句、熟語、イディオムの使用を禁止し始めた。

過激なところでは動物語そのものを禁止、地球公用語である花語、天使語、レムリア語、神聖アトランティス語、古代アトランティス語、中期アトランティス語、現代アトランティス語、

ラテン語、英語、フランス語での会話を強制していると聞く。馬鹿げてる、本当に。だって、サンタたちがサンタ界の標準語であるトナカイ語を話さないのなら、彼らのアイデンティティはどうなる? 何が彼らのアイデンティティ? 動物を憎むあまり、自分たち自身も憎しみの対象になっているんだ。どこの世界に所属していようと、動物に生まれた自分の個性を憎み、恨み、嫌悪する。実際、ハリネズミの自殺者数が顕著に増加している。悲しい出来事は他にも山のように。肉食動物は特に差別の標的にされる傾向にある。その理由は、肉体面で強い力を持っているにもかかわらず、誰も針を持ったネズミと権力を倒せないからだ。ハリネズミに

踏みつけられる絵を世界中の壁という壁に描かれてしまう。嫌な星だ……本当に。

 今や【サンタ界侵攻】は対岸の戦争ではない。植物界にも飛び火している。動物界に

加担する植物至上主義者たちが新たな火種を生んでいるのだ。サンタたちは植物たちに不信感を抱いている。果たしてオレたちは敵なのか、味方なのか……。なぜ凶悪犯罪者たちを野放しにしているのか。事実として植物界は第一支援世界であるから、サンタたちも表立って非難はしない。けれどその一方で「〝二つ以上の国が戦争をすればフランスが得をする〟。植物界の仕草は味方そのものだが、本当は共倒れを狙っている」という根も葉もないウワサ話が水面下で実しやかに囁かれている。

 戦争は、直接関わっていないヒトにまでトラウマを植え付ける。

報道を見るもの、知るものにさえ。物理的にも、心理的にも。戦争とは無惨無慈悲なのだ。

相次ぐ動物軍の命令違反、しかしルーチカは決して止まらない。

彼自身、歯止めがかからなくなっている、この地球に比類なき動物園帝国を築くまで。

「アロマ連合諜報機関である〝御庭番〟や、連合一の戦闘集団——地球保安部〝ベジタブ〟を送りこんでルーチカを殺せば良い」と主張する植物たちも少なくないが、危ない海だ、どんなサメが出るか予測できない。確かに花冠『絞め殺す木』ガジュ丸と長官『独裁者』ポテト、

勇猛果敢な二輪のマスターなら不意を突けば暗殺できるかもしれないけれど、しくじったら

後がない。戦争は深刻化、【第二次地球大混乱時代】突入だ。ルーチカの牙城に部隊を送る、

それは彼に口実を与えることを意味する——【サンタ界侵攻】に植物界が介入した。

従って動物界は、エコ主義の根城アロマ連合にビームを発射することができる。






















































 そろそろ羊たちをまとめよう、本題に戻ると精油計画は薔薇色だ。なぜなら、オレが例の女の分まで働いているからだ。ただ嘘八千を並べただけではバレるから、ちゃんと自分の成果のいくつかを彼女がやったことにして報告書を提出している、マスター・ベルガモット宛へ。

領収書については、ロンドンのテムズ川より南に住んでいる悪い奴と取引して、悪事を見逃す代わりに偽造してもらっている。ほら、〝邪の道は人間〟って言うだろ? オレは紳士だから悪いことはあまり得意じゃない、そいつに頼ることにした。罪悪感はまったくない。だって、歴然たる事実として、そして自然界のあたりまえの認識として、人間——動物を虐めたり海を汚染したり山を焼いたり、マンモスたちを始めとした数多の生命を絶滅に追いやったり、

クリストファー・コロンブスや、トーマス・オースティンみたいに本来いない大陸にまで

偶蹄類やウサギを持ち込んで生態系を完膚なきまでに壊滅させた——より悪いヤツはいない。



 彼らに比べたら、オレは地球大学一の優等生だよ。



 ただ、より良い未来のために、ささやかな隠し事があるだけだ。

 結果良ければ全て良し、ラベンダーがチームに入れば良いのだ。


 悩みに悩んだ

 それは博打だ

 妥協もまた光


 状況? 何が状況だ

 オレが状況を作るのだ


 環境など何でもない

 環境とは、自分で作り出すものだ


 オリバナム

 ミカエル

 ハーデス

 ルーチカ

 ビッグ・サンタ


『真の薫香』

『没薬』

『征服の草』

『魔法の粉』

『癒すもの』

『銃火器』

『ガソリンツリー』


『黄金のリンゴ』、『真の薫香』、リンゴ、オリバナム、リンゴ、オリバナム

 リンゴリンゴリンゴ

 オリバナム

『黄金のリンゴ』、『愛するもの』、『悪の華』

『洗い草』


 ラベンダー。。。ラベンダー! ラベンダー‼︎


       結論


 結局、みんな好き勝手に行動している。

 だれかの行動で、同じ星の上、一蓮托生。

 だったら好きなやつといよう。

 それからはキノコの上を押したように、破竹の勢いだった。後は野となれ山となれ。


 オレはこの一年、スコットランドで羊を追いかけていたわけじゃない。草の根を分けてでもラベンダーの居所を探った。アロマ連合ではまだ働いていて、会議には出ているらしい。

木は引けたが、やりたくなかった手段でもある根も葉もないウワサ話だって流した——オレとラベンダーが結婚しているという。しかし、クジラが釣れることはなかった。

彼女は花だ、用心深い。なぜなら、いつの時代も摘もうとする輩がいるからだ。万事休す。

ところが張り巡らせた情報網の根に、あの堕天使の事務所の移転先の住所が。

天使は強い、それに弁護士ともなると頭も切れる、まともにやり合って勝てる相手じゃない。

ところがどっこい、バーで女を口説くことに成功して大歓喜のところを誘拐。

『黄金のリンゴ』がリンゴを落としてくれた。心を人間にして脅したら、

彼は正真正銘の魔法陣と《強制召喚》の正しい手順を無料で教えてくれた、親切に。オレが彼に具体的に何をしたか説明すると——作者の申し立てにより削除されました——また嘘である可能性も見越して、事が終わるまでは人間界の五つ星ホテル——ガトフォセ家の地下とも呼ばれている——で最高峰のサービスを心ゆくまで存分に堪能してもらおう——ひょっとしたら、それを幽閉や監禁と言う人もいるかもしれない。逃げられると界際問題に発展して色々と厄介なので、もちろん翼は切除した。これで魔法は使えない。準備は整った。今度こそリベンジ。怒りが花を強くする。できないことはない、木は熟した! 薔薇の女神は花笑んでいる‼︎









                ありがとう、ガトフォセ






                     

























































人間:自分勝手で視力の悪い動物。

趣味は無意識の自己正当化と征服して植民地を作ること。

耳は退化しているため、霊の声やクレームが彼らに聞こえることはない。

運さえ良ければ、たまに聞こえることもある。

目が悪いため、自分たちの奇妙な行いはほとんど見えていない。

しかし時期により視力が良くなることがあって、それは自分たちの権利が犯されている時。

なぜ植物や動物が権利を犯されている時に途端に目が悪くなるかは、まだわかっていない。

いったいどうしたらこんな動物になるのか、多くの精霊が進化の過程を研究しているが、

いまだ明らかにされておらず。大抵の人間は善悪優劣で世の中を分けられると思っている。

不満があるとすぐ社会のせいにするのはこのためである。

何千年何万年経とうが彼らが自分たちの社会システムに満足することは決してなく、

保護者と呼ばれる状態になるとさらに目が悪くなる。この段階になると目薬では治らない。

熱心な宗教家に非物質界の事実を教えると、ほとんどの場合カルチャーショックを受け、

霊の世界と歴史を批判し勝手な理想と夢を押しつけてくる。

理想のパリと現実のパリはちがうことを知らない、妄想の激しい宗教的な生物。

この星で彼らと関わって幸せに暮らすことができたなら、尊敬に値する精神力と称賛される。


  ——西暦1921年に植物界で発行された花語辞典幻の初版(著ダファディル)より抜粋

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