第4輪 それは子犬の愛
ねえ、キスしようよ。香りを交わしたい
——オレンジ
紅茶保守党のオレさまはコーヒー労働党党首の例の女とは違い、
紅茶の飲み方にこだわりがある。先にコールド・ミルクをカップに入れてから、
別のカップで仕立てておいたダージリンティーをそそぐのだ。愛らしい一杯を飲みながら、
夕日が色を塗るパリの街をながめる。整理された石造りの建物群とエッフェル塔が
よく見える。フランス支部内の休憩室でくつろぐ精霊たちは異なる言語でいろんな話題に
花を咲かせていた、多種多様な香りと共に。
誰に子どもがいるとか、ヴィンテージのケータイが壊れてショックだとか、
くだらない四文ゴシップ(:三文のフランス語訳)、
しまいには休憩室にまで仕事の話を持ちこんでウンザリ顔をされてるやつもいる。
「あのケータイ、アトランティス時代のモデルなのに。もう災害!」
「ええ⁉︎ カモミールさんって子持ちだったの⁉︎」
「ダメダメ、私のは沈静型の香りだから、催眠系の魔法のほうが相性が良いのよ」
「チャイナに行っチャイナ!」
「実はオーキド博士の新しいUFO、研究予算で買ったってウワサだよ」
「ありえない!」
「ここだけの話なんだけど、先日また彼女に脅されて。
パリ市内で電波障害を起こしてくれって……」
「まさかあなた……それで、どうしたの?」
「ジャポンではもう働きたくないでござる。誰が至上主義者かわからなくて銀狐殿はご乱心。
疑心暗鬼になった彼の圧迫にみんな悩まされているのでござる!」
「マスター・サカキよりはマシな生態系よ。けど、どっちも*人間と悪魔ね」
*(:目糞鼻糞。似たもの同士を意味するイディオム)
根を張り巡らせて聴いてみたけど、全部どうでも良い話だった。役に立ちそうもない。
一時間前に終わった事情聴取は半日かかった。オレはどうしてラベンダーがサンタを拷問
しようとしたことを言わなかったんだろう? 現場の住所から支援対象の人間を割り出せば、ラベンダーの担当だということはすぐわかる。下手な嘘はバレる。だから途中まで本当のことを話した——先日何者かに襲われた。そいつは評議員しか知りえない精油計画を知っていた
から連合内に裏切り者がいるのは明らかで、そのため支部内でミーティングをするのは危険
だと判断してそこを訪れた。だけど跡をつけられて襲撃された。犯人は茶髪の白人に変身
していて、霊視でも本当の姿はわからなかった。捕まえようとしたけど逃げられてしまった。ラベンダーは犯人を追いかけてどこかへ消えた。無事だと良いんだけど——こんな内容で
通した。なかなか信憑性があると自信があったんだけど、相手は五千年近く生きている神
だった。事情聴取を担当した植物はオレのことを疑った。
だから情熱を見せたんだ——
捜査に協力させてくれ、犯人は獣クサかった! 動物霊にちがいない!
あいつは人間と植物が仲良くすることを許さない差別主義者だ!
——って。彼は「なんでもかんでも動物を疑うのはよくない」って食いついてきたから話題を変えるチャンスだった。オレは計画を話した——内心ウンザリする彼の表情を楽しみながら。「確かにそうだ。でも、オレたちに反感を覚えているヤツらは多い。ヤツらは
フラワルド(:植物界)に負けただけでなく、人間にも負けているんだ。パリの市内を見ろ、犬、猫、鳥、自分たちの種族が3次元で奴隷や愛玩具になっているのが気に食わない、だから植物界を挑発し続けて——」「あー、待って待って、とりあえず落ち着こうか」「話の芽を
摘むな、犯人が花たちを殺し続けて民衆の反動物感情が爆発、戦争になったらアンタ、
責任取れんのか? オレは匂いを覚えているけど、アンタは犯人の匂いを嗅いだか? Er? 捜査に協力させてくれ、オレなら捕まえられる」
捜査官の匂いも心も読めなかったけど、その表情、
彼が迷惑がっているのは一目瞭然だった[一刻も早く終わらせたい‼︎]。
その後も熱心に! 捜査に協力したいって強く感情的に! 頼みこんだ。思いついたことを即興で伝えたんだ。でも彼は酷いことに打ち切ろうとするんだ。「待て、お願いだ、
ホワイトボードとペンを持って来てくれ、アイディアを書くから」
そのとき、若い捜査官が扉を開けて告げた。「目撃情報がありました、近隣に住む精霊
から。ワニが走って逃げるのを見たとのことです」ベテランの捜査官は嬉しそうにオレを部屋から追い出した。地球に住んでいる精霊で、こんなに幸せそうな表情を作るやつには
会ったことがない。彼は捜査官失格だ。
まあ、あのサンタが真実を打ち明ければウソが全部バレちゃうんだけどな。
その時にはオレのキャリアも沼に沈むことになる、ラベンダーをかばったばっかりに。共犯者になっちまった。いや待てよ——彼女は植物に恨みのあるテロリストのサンタで、植物界を
陥れようとしている——と言えば、もっともらしいじゃないか。少なくともどちらが
正しいかは、みんなわからないはずだ。そんなことを考える自分に嫌気が差すね。
さて、これからどうするか。手元のマグを揺らしながら考える。
まずはジジイに相談しないといけない。
ラベンダーとはいろいろあった。嫌いな部分だってそりゃあるし、支援対象がちがうことで衝突したことも山のように。でも、総合的には彼女が好きだ、やっぱり。
1666年のロンドン大火で前のオレンジの精霊はペストに殺されたそうだ。ジジイとは旧知の仲だったらしい。それでオレが生まれた。けれど弱っていて、すぐにも死んでしまいそう
だった。その頃のことはあまり覚えていないんだけど、ラベンダーが保護してくれたんだ。
オレが生まれて初めて嗅いだ香りは彼女のアロマだ。西暦が始まってから彼女は人間界各地を転々として活躍した。同時に差別発言で*BBCに叩かれることも頻繁にある。能力がある分問題もある花だ。とにかく目が離せない、気になるんだ。あいつの動画はよく見るし、
学生時代にバンドで歌っていた曲もオレのプレイリストに入っている。過去にはヒドい喧嘩をたくさんした。でも、つい皮肉だって言っちまうけど、精油計画をいっしょにできると知ってオレは内心では大よろこびだったんだ。
*(*BBC: Botanical Broadcasting Corporation. 植物界の公共放送局)
どうやって『真の薫香』に伝えたら良い? 正直に話すか、嘘を言うか。もし嘘を言うならどんな風に? 彼はラベンダーの退職のこと、すでに知ってる? そもそも彼女、退職届を
ちゃんと出した? あの性格なら黙って辞めそうだ。考えがまとまらず、いつまでも悩んでいることに腹が立って送ったメッセージは曖昧な花言葉。「香りはどう?(:How are you?)」
これは怒られる。連合のビッグ・ボスもとい植物界最高意志決定機関『日の昇る評議会』の
議長に送るメールではない——とつぜん鳴った着信音に体が跳ね上がった。電話だ。パニックになってすぐさま応答してしまい後悔した。
「Oui, I am Le Orange(:オレさまこそがオレンジだ)」慌てたせいで変な言葉遣いに
なった。ミント(:クール)じゃない。「Aher, speaking!(:あー、もしもし!)」
「フム。この匂いは悩んでおるな?」
「は、はは。感じないだろ?」
「さしずめラベンダーだな?」
「電波ではヒトの心も香りも読むことはできない」図星だったが必死でゴマかした。
「そう思った時点で何事もできなくなるものだ」高齢者の言うことはわからない。
携帯越しにヒトの心や香りなんて読めないだろ。
「的を得ないな。なぜ電話してきた?」
「お主が助けを望んでいるからだ。言えることなら話すが良い」
「(チッ)……ラベンダーは難しい木だ。ヒトを試すし、素直だけど、ストレート過ぎる、
思ったことをすぐ口にするんだ。上手くいかないとわかった瞬間に怒るし、まるで子ども
みたいだ。一生懸命で根は良いやつだけど、彼女と行く方向が正しいかは、
しょうじき不安だ」
「それで、お主はどうしたいのだ?」
「彼女といっしょに人間界に精油を普及したい。同時に、
もし人間界で現在の文明史上最大の戦争が起こるなら、阻止したい」
「なら、するが良い」
「どうやって?」
「Use your loaf(:頭を使え)」
これには笑ってしまう。どうしてそんなスラング知ってるの? だってあなたはこの地球を代表する神なのに。天の川銀河から認められた地球の管理者だ。
「May the Tree be with you(:木をつけよ)」通話は切られた。わずか1分程度の会話で彼は若い芽に勇気を与えたのだ。早めにベッドへと向かう、自分のやりたいことをやるために。
考えるには夢の中がイチバンだ
次の日。小鳥たちが夜明けの合唱をするより早く起きたオレは、歯磨きもせずに支部内の
図書館へ直行する。エアリスを活用した。ラベンダーが辞表を出したという情報は今のところない、探して見つかるものでもないが。次いで、人間側の協力者を探すためにいくつかの
キーワード——〝精油〟、〝化粧〟、〝香料〟、〝香水〟、〝アロマ〟、〝業者〟で検索。
検索エンジンが教えてくれた候補者をリスト・アップし終えるには数時間ほどかかった。
よし、あとは会いに行くだけ。ここからが問題だ。
候補者はいくつかの国にいたけど、まず初めにイングランドは削除しなければ
ならなかった。これは痛手だ。期待できる優秀な香料業者がいたが、どうしてもラベンダーとこのプロジェクトを実行したいんだ。大英帝国は彼女が嫌がる。次にジャパンの上にも線を
引いてリストから消去。あそこは衛生環境がフランスより良いから支援において緊急性が
ない。そもそもラベンダーがジャポンに行きたがらないから意味がない。留学時代に嫌な経験でもしたんだろう。それか、嫌いなヒトでもいるのかも。
となると、やはりフランスだ。人間界において強い影響力を持つこの国の衛生環境を
良くすることこそ、すべての社会問題解決のスタートラインだ。
*すべての社会問題はフランスに通ず。
*(ちょっと言ってみたかっただけだ。〝All roads lead to Rome〟にかけている)
人間たちはフランスの文化に憧れを持っているから、ここで成功すれば各国へ普及するのはかんたんだ。加えてオレとラベンダーはフランスでの支援経歴がある。この国と国民性を十分に理解している。このプロジェクトはオレが欠けても彼女が欠けてもダメなんだ。なんだか
本音を正当化しているだけのように感じた。とにかく彼らに会いに行こう。しかし例の
テロリストは悩みの種だ。支部にあるポータルを使うのは避けるべきだ。支部内では変身が
禁止されており、他人になることは物理的に不可能だ。この姿でポータルに入れば行き先が
バレる。仕方なく歩いて向かったのはパリの一角にあるフロールのカフェ。トイレの扉を
開けて中へ。
次に扉が開いた時——
ロンドンの東の終わりに潜む強力な悪魔、肉屋のトムが現れた、片手に包丁を携えて。
扉の向こうは悪名高い大悪魔たちの連合帝国ワンダー・ブリテンの次元と繋がっていたのだ。トレード・マークのボサボサの髪に鼻がねじ曲がりそうになるイースト・エンドの醜悪な匂いを引き連れて、彼は光の都パリに降臨した。酒グセが悪いトムの赤い顔はいつもよりもっと
赤かった。機嫌が良かったからだ。イースト・エンドの劣悪な環境から出て光の街パリへ
侵略、いや、観光に来ることができるなんて嬉しくないわけがない。おっと、包丁
しまわねェと。しかしすぐに絶望の津波に襲われた。パリの公衆トイレの少なさときたら! これだったらイースト・エンドと同じか、向こうのほうがもう少しマシかもしれない。不安な時にその大きなお腹をさするのはトムの癖だった。どこへ行っても人間だらけ。壮大に退屈な人間展覧会に飽きたトムは、人気の少ない郊外が良いと考えた。自然を満喫するために鉄道の切符を買った——フリをした。彼の姿は3次元の人間たちには見えないが、
ゴースト(:労働者階級の霊を指す侮蔑的なスラング。
若者たちは何かカッコイイと感じて自称する傾向にある)たちには視ることが
できる。切符を買わずにそのまま列車に乗りこめば怪しまれてしまう。だから人間らしく
振る舞う必要があった。もしその金で奥さんと息子を潤すことができたとしたら、彼は父親として再評価されただろう。Alas! 現実にはそんなことは起こり得ない。
こうしてオレはパリ——
しばしば人間界の全てがそこにあると勘違いされる変な都
——を後にした。
耳障りではあるものの、車輪が鉄道と擦れる時代遅れな音と不快な振動には味わい深いものがある。これこそアンティーク。ラベンダーなら耐えられず車掌を殺してしまうだろう、
確信している。かくしてトムの旅は始まった。
この男のステータス、考えたくはないが頭に浮かんじまった。
名前:トム・バトラー
通り名:闇のミートバイヤー。何の肉を売っているかは本人もよくわかっていない
所属:連合帝国ワンダー・ブリテン、〝東の終わり〟と呼ばれる地域
階級:中級レベルのジン。出自は不明
アクセント:コックニーの中にいくらか上流階級の発音が混ざっている
得意魔法:なし。肉弾戦特化
親友:屋根裏に住み着いたネズミのアンと肉ぎり包丁のミカエル
家庭状況:離婚寸前
嗜好:酒、タバコ、女、ギャンブル、そして過去に流通していたコインを集めること。
妻からは批判されるが、少なくとも彼はいつかどこかで
何かの役に立つと思っている。それが何かは彼自身、今もわからない
彼は精霊に生まれ変わってもゴーストだな。
いっぽうオレはフルーツクラスに生まれて幸せだ、
精霊社会が階級社会であることには思うところもあるが。
息抜きはこれでおしまい。これからのことを考えないと
それから地球が数回転した頃。パリの郊外。地下に建設された石造りの細長いドーム状の
空間には多くの樽が寝かされていた。カビ臭い空気に囲まれ昼間から薔薇色のワインを飲んでいるむさ苦しい格好の男たち——彼らの人生も薔薇色だとは思わない——その中には橙色の髪の少年もいた。いつもならオレはシャルトリューズとか蜂蜜酒を愛飲するんだけど、ワインも悪くない。結果から言うと、ひとりめのデュポンは大ハズレだった。農家からラベンダーの
種族や他のハーブを仕入れて精製する仕事をしていたんだけど、どうも軌道に乗らなかった
らしい。連合のデータベースの情報だと、確かに上手く行っていると記述があった。情報が
更新されていなかったようだ。ワイナリー事業に転換して成功をおさめた42歳の彼は、髪の毛の少なくなった頭に手をやり仲間たちと大笑いしている。本当に楽しそうに見えた。
ペパー・ミント、ピーター、パディントン、それに魚のゴッティ——ロンドンの愉快な仲間たちを思い出したこともあって、オレもとなりで笑った。
「ワッハッハ! イギリスのヤツらに輸出すりゃこんなに金が手に入るんだ!
草なんか買ったところで何になる? やっぱり酒だ、飲め飲め!」
[あっはっは!]
「ギャハハハ!」
「ワハハ!」
「ヒューヒュー! ワインっ腹だぜ!」
「黙れ‼︎」投げつけた霊体のグラスは樽にぶつかり砕けた。驚くことに音は奇跡的に次元を
超えて3次元に響き渡った。男たちは冷や水をかけられたように静まりかえった。
「おい、落とすなよ、せっかくのワインがもったいねェ」デュポンは従業員たちを見たが、
グラスを持っていない者はいなかった。「今の音はなんだ?」誰もが怪訝に顔を見合わせた。「何が割れた?」皆の表情は冷めたものだった。
次は大丈夫だ。自信を持て! オレは自分を奮い立たせた。
その後どうなったと思う? ふたりめは大成功だったさ! Er? なんだその目は?
わかったよ、正直に白状すりゃいいんだろ、失敗の連続だった。
それで南仏へ行ったんだ。*プロヴァンス地方と言やぁバカンスとラベンダー栽培で有名だ。なんてったってあそこは地中海性気候だからな。
*(プロヴァンスについてもっと詳しく教えてほしいって?
Ah じゃあ自分で調べるんだな。
聞けばヒトがなんでも教えてくれると思ったら大まちがいだ。おまえのためにならない。
オレさまも早いとこ物語を先へ進めたいしな。加えて尺という大人の都合もある。
でもそれだと「描写をサボりたいだけでしょ」なんて
思う単細胞で失礼な輩もいるかもしれないから、ちょっとだけ教えてやろう。
ん? さっきからそこで手を挙げている君はなんだ? 質問?
脚注がいっぱいあって物語を早く読みたいのに読めないだって?
スキップすりゃ良いだろそんなの! なんのための脚注だと思ってんだ?
まったく、これだから人間は! それで、話をもどすぞ。
プロヴァンスではその気候から地の利を活かし、ブドウやオリーブを始めとした
農業と酪農が盛んに行われている。ミント(:素晴らしい)、自然と調和した暮らしだ。
じつはフランスで最初にワインが作られた地域もここなんだ。
場所がイマイチ想像できないって?
西はローヌ川、北はアルプス、東はイタリア国境に面している。さあイメージできたな?
できないならもっと地理の知識を頭に叩きこんだほうが良いな。
昔は一時期、カルタゴに支配されちまったが、
のちに晴れて(?)ローマ帝国の属州になったんだ。
17世紀には
ラベンダー(:lavender, not Lavender. 固有名詞ではなく普通名詞)が
ペストや結核なんかの伝染病に有効だと人間たちは知って
——まあ、精霊たちががんばって耳元で叫んで教えたんだけど——
製薬業と香料業が発展。ラベンダーを使った香水は瞬く間に大人気となった。
農民たちはその花のことを〝青い黄金〟と呼んだ。
ただ刈り取るだけで大金が手に入るからな。
貧乏人にとっては救世主ってわけだ。
したがって、ラベンダーはやっぱり適任者なんだ。
彼女が精油計画を任された理由はそこにあるとオレは考えている。香水は服飾文化と強く
結びついている。どちらも彼女の得意分野だ。オレだけでは精油計画はできない。
彼女の力が必要だ!)
オレは強く確信した。ここでなら有望な人材とめぐり会えるだろう。農家は収穫だけでは
なく精製も行っていると聞く。クリスタル・クリアな青い空。存在感のある巨大な雲。その下で育つ彼女の紫色の花たち。芳香を聞く—— Très bien(:トレビアン)。小さな黄色い点が彼女たちの上を忙しなく行ったり来たりしている。蜜を集めている蜂だ。紫の穂をつけた花
たちは本人とはちがって縦にお行儀よく列を作り、行を成している。もしこれが講義の最後に提出するリポートなら素晴らしい文量。3次元の花たちはこんなに礼儀正しく並んでいるのにどうして上の次元だとああなっちゃうんだろう? あいつ、人間みたいに頭おかしいよな。
イカれてる。ヤツがほかの花だったらなぁ。ノージンジャー、それが家族ってやつだ。
正午。畑では小休憩を終えた農民たちが作業していた。精油を伝統的な民間療法や香水に
使うだけでなく、もし医療にも活用できれば衛生環境が向上する。文化は華開き、経済面に
おいてもさらなる期待ができる。土壌は整っている。あとは育てる、社会全体に普及させれば良いだけだ——それがむずかしいんだけど。オレが求める人間は鋭い霊感を持っている
だけじゃあ足りない。栽培と精製の技術、それにビジネスの才能がないとダメだ。オレは
持ち前の情報収集能力を使って人と人を繋ぐことに長けちゃあいるが、本人の努力が0なら
オレの支援力を掛け算しても0のままだ。そいつの能力は高けりゃ高いほど良い。
面接みたいだ。彼女も面接前はどんなやつが来るか、不安に思ったりしたのかな。才能のあるやつを見落としちまって変なやつを採用したら災害だ。オレも気をつけないと。どうやって
そいつを試せば良い? 悩みの種だ。レニーみたいに会話ができるなら直接訊けるんだが——志望動機や将来像を。オレって迷惑な*ゴーストだな。
*(ゴースト:霊。労働者階級の精霊という意味。
汚い言葉じゃないけど、
フルーツクラスやアッパーフラワークラスの精霊たちはあまり使いたがらない。
若い芽たちはカッコイイという意味の形容詞として、または名詞として好んで使うが、
もちろん学校の先生からは注意される。
でも、言語学的にはまだ汚い言葉じゃない。辞書にもそのことは書いてある。
ピーターを始め、ロンドンに住んでいる精霊たちの多くが自分のことを精霊ではなく
霊と呼ぶことに誇りを持っている。
いっぽうで家が滅茶苦茶ミントなペパーは、霊という言葉を聞くと顔をしかめる。
オレはというと、
うぇッ、人間に囲まれた気分だ。だってオレは上流階級の精霊だから、
ペパーは「おまえは精霊派だよね?」と目で訊いてくるし、
対してピーターは「もちろん自分のことを霊と言うよな?」と
コックニー・ライミング・スラングで暗に訊いてくる。
階級社会は植物界の嫌なところのひとつだ——Eから始まる国みたいに)
落ちてあったそこらの石を集めて、ただ積み重ねたような農民たちの家は原始的であるのに趣きがあった。風情がある。信じられないことだが、テクノロジーが使われていないんだ。
今の植物界では見られない造りだ。家の周りを歩いて観察する。そのおとぎ話のような美しい光景は、オレさまにネイティブ・アメリカンを思い起こさせた。精霊たちは彼らのことを
こう呼ぶ。〝3次元の精霊たち〟と。人間とは決して呼ばない。
4年前、アメリカ合衆国に行って反対運動に参加した時のこと——ともだちにはナイショで——を思い出す。アメリカ政府の【ホピ族強制移住計画】を阻止するために。訴えるヒトビトは植物が多かったけど、動物、人魚、天使、いろんな世界から精霊たちは抗議に来ていた。
あの幾数万の声はどれだけの人間たちの耳に届いただろうか。わからない。寄宿学校への
強制入学はまだ始まったばかりだ。今後数百年は続くと言われている。天然資源のために彼らは先祖代々の愛する土地を追われ、自分たちのアイデンティティである言語すら
捨てさせられるのだ。カナダでもそうだ。先住民族たちは代々自然と調和して暮らしてきた。精霊たちの声を聞きやすいと言うことはつまり、アイディアを得やすい。彼らの言語と知識の枝には植物たちに関するサイエンスがたわわに実っている。しかし政府は非常識の一言で彼らの科学を一蹴、否定するのだ。彼らの暮らし方には学ぶべきところがたくさんあるのに。
ある白人の輩はファースト・ネーションの畑を見て馬鹿にして言うんだ。「彼らは作物の
育て方を知らないんだ!」って。先住民たちは畑に色々な作物を植えていたんだ。その白人にとって、それは農業とは呼べなかった。彼にとって栽培とは、一種類の作物をひとつの畑で
きちんと整理して育てることだった。ヨーロッパの研究者たちはムカつくぜ、植物や動物たちを機械だと思ってる、生きているにもかかわらず。オレたちだって嫌いなヤツもいりゃ、
とうぜん好きなやつだっている。全員ではないけれど、3次元の精霊たちは私たち花のことをよく理解していた。だからこそ、ある数種類の花たちを植えていたんだ。そのグループは彼らにこう呼ばれている:〝Three sisters〟と。コーン、カボチャ、ビーンズをいっしょに
植えると、個別で植えた時よりも多く実るんだ。そのことを白人連中は知らなかったけど、
ネイティブたちは経験を通してきちんと知っていた。
相手が人であれヒトであれ、先入観で判断してはいけない。おまえの持っている経験が
いつも正しいとは限らない。経験は信じると同時に疑わないといけない。
将来の人間たちがそのことに気づいてくれたら、それだけでオレは十分に幸せだ。
そしてそれはオレたち精霊にも言える。農民たちの家を見ていると、感じるんだ。
人間たちから学ぶことがあるはずだ、何か大切なことが。でも、
それに気づけない神たちは信じられないほど多い。ラベンダーもそのうちのひとりだ。
あの反対運動で会った植物至上主義者たちの論はこうだ。「ここ最近の悪魔たちの
テクノロジーは恐ろしいスピードで進化している。いずれニンゲンたちは精霊界に
侵攻してくる! 植民地にされるぞ‼︎ ネイティブ・アメリカンを忘れるな!
アトランティスを忘れるな! やられる前にニンゲンを根絶やしにしなければならない‼︎
向こうが来る前に、*こっちが先に3次元へ侵攻するんだ」
[あんな国でもオレの故郷なんだ。がんばって支援するから滅ぼさないでくれ]。
そう言いたかったけど、あまりの勢いに怖気づいた。今では自分の意見をはっきり主張する
べきだったと後悔している。出会った至上主義者たちはみんな愛想がよかった。彼らと世間話をするのは無理だと思っていたけど、彼らは他の精霊たちと同じようにユーモアがあって、
いろんな経験を持っているから話していて楽しい。でも会話のなかである時、どのような話題であっても、まるでそれが決まり事であるかのようにこう付け加えるんだ。「——ところで、ニンゲンは根絶やしにされなければならない」、「ええ、今日は天気が良いですね——
さて、ニンゲンは滅ぼされなければいけません」、「君、教会で働いているのか、それは大変だ。人類はお願い事ばかりするクセに、こっちがいくら頼んでも聞く耳すら持たないから——それはそうと、人類は地球から追放しなければならない」。
彼らはまるで共和政ローマの政治家大カトであるかのようだ。
いや、彼が彼らに影響されたと考えるのが自然だ。憎しみの根は深い。
*(次元間移動技術開発競争。
人間たちがこちらへ来るか、精霊界の危ないヤツらが3次元に行くかの
テクノロジー開発競争。オレは9割、そんなことは不可能だと考えている。
現実を見ろ、無理に決まってる!
だけど動物界が真剣に夢の技術の開発に取り組んでいるから、
仕方なくアロマ連合も熱心に研究を進めている。
大総統府に勝手なことをされたら困るんだ、
地球を導く the First Government としての立場がない。
グランド・マスターである『真の薫香』は「同時に技術を放棄するべき」と
訴え続けているが、
ルーチカ大総統は「アロマ連合は信用できない。我々が止めても彼らは秘密裏に研究を
続ける。地球の代表世界であることを武器に、傲慢な植物霊たちは
権力を乱用し続ける。我々には3次元で奴隷にされている市民たちを
救う責務がある。これは解放戦争だ。
そして野蛮な移民者たち(:人間たち)に、
文明の在り方を教えてやらねばならない」と強く主張しているんだ。
彼の言うことは真っ赤な嘘だとみんなわかっている。
本音は動物界の領域を拡大したいだけ。
弱肉強食主義の動物界は先の大戦で人魚界にもサンタ界にも裏切られて必死なんだ。
ルーチカ大総統の思想は弱肉強食主義の栄光に囚われている。
植物界の街のどこかに彼のポスターが貼られると、たちまち
〝ニンゲンに捕まっちまえ〟とか〝動物園にブチ込まれろ〟といった悪口が落書きされる。
香り文よりもスプレーなどで実際に描かれることが多い。
映像を見た動物たちが理解できるからだ。
なんだか人間が来そうな気がする——イディオムだ。
つまり、嫌な予感がする)
思慮にふけっている時間はない。早いとこパートナーを見つけて精油計画の実行プランを
ラベンダーにプレゼンテーションしないと。居場所はわからないけど、呼び寄せるアイディアならある。でもそれはあまりやりたくない、最後の手段だ。退職したら、もう二度と会えなくなるかもしれない。急がなければ。紫色の畑を歩くと、頭の中に女神のようなヒトが現れた気がした。赤い長髪で白い服を着ている。キトンのような一枚布ではなく、金星のヒトが着る現代的な服に似ている。その高貴な香りはオレを解放してくれた——このサード・プラネット(:発展途上惑星)で生きることのストレスから。「摘んでも良いかしら?」畑でラベンダーたちのご機嫌を慎重にうかがう若い女性に話しかけた。来る日も来る日も……
プロヴァンスに来てから一週間が経った。コミュニケーションが取れる農民はいなかった。どれだけ話しかけても無反応、さみしいぜ。英語だったから無視されたと思い、試しに
フランス語で話しかけてみたがそれもダメ。「キラkリア℉*4♫★@|∂♂III川🐟 ⇔⁉︎」
クマ語でも無駄だった。それもそのはず、フランスは多言語国家だ。この国の言葉は標準語とされるパリ語だけではないのだ。ここではオック語——プロヴァンス語とも呼ばれる——が
話されているけれど、しかし住民たちの言葉を理解することと相手がわかる言葉で話しかける
ことは、ケーキを食べるみたいにかんたんだった——*エアリスの瞬間翻訳機能により。
*(種を明かすと、瞬間翻訳機能を使っていた。
君たちには、ちょっとだけ見栄を張っていたんだ。
この機能に頼らなければ、数千年から数万年生きている精霊たちと
コミュニケーションを取るなんてことは不可能だ。
界際情勢に関わる仕事は時間が勝負なんだ。
じっさい、ラベンダーのフランス語はオレからするとかなり適当だ。
現代フランス語をオレは話すが、ラベンダーは歴史上のいろんなフランス語で話すんだ。
今では女性名詞とされているものをかつての男性名詞として扱ったり、
数詞の数え方、前置詞が新旧——今までのものとラテン語のもの——混ざってるんだ。
ただ簡潔に、自分がパンを食べるヒトであることを相手に伝える時、
オレは Je mange du pain と言うけど、ラベンダーは mangie pain と言う。わかるか?
冠詞がないんだ。それに語順も本当に自由。だから日常生活レベル以上の会話をする時は
エアリスの瞬間翻訳機能を駆使したり、彼女の香りと心の両方をリーディングして自分の
理解を補足しているんだ。彼女の頭、どうなってるんだろう?
でもこれは古い精霊にありがちの現象なんだ。文法が整理されていないということは、
彼女のフランス語こそ正真正銘だと言うことができる。
今の時代に人間がしゃべっているのは偽物じゃないけど、
現代用にローカライズされたマイナスワンさ。
ワインをイギリス人が好む味に変えちゃったみたいな。それが現代フランス語。
オレから言わせれば、相手の知らねェ単語と活用は話すな、
ひとつの会話のなかで同じ単語を使うときは時代が異なる活用をするな、
とにかく現代に合わせろ! って感じなんだが
「翻訳機能があるんだから良いでしょ」と返される。確かにその通りなんだけど、
何か腑に落ちない。キラいだ、年寄りなんか)
言語のバリアはない。じゃあ何がオレの頭をパイナップルにしているかというと、霊感のある人間がいないことが問題なんだ。数千人以上も農民がいるんだから、誰かひとりぐらい
いるだろうと一帯の家家をまわったが成果なし。教会にいる神父なら流石に霊感があるだろうと思い話しかけた。「おい、オレが見えるか?」無視された。なんだか、人間と
コミュニケーションを取れると思っているオレのほうが狂ってるみたいだ。
どうしてナポレオンはオレと話せたんだ? あいつはきっとおかしな部類なんだろう。
ノージンジャー。理想にこだわるのはやめよう。精油や香水事業の関係者をパートナーに
するのはあきらめて、霊能力の高い人間を探そう。職種も経験も問わない。完璧かな?
すると自ずと道は決まってくる。オレは情報収集のために教会へ向かった。地元にある
小ぢんまりした簡素な造りの教会では*天使のコスプレをした3輪の植物霊たちが
働いていた。エアリスで事務作業をしたり、お祈りに来た地元民の心を読んで悩み事の統計を取っている。ヨーロッパから天使たちがいなくなって数世紀。本物がいなくなったことに人間たちが気づく日は、今後も来ないだろう。
退屈そうに会衆席にすわる偽物の天使は眠そうで、あくびを隠そうともしなかった。「Bonjour ! 良いアロマですね」オレはお得意の爽やかなスマイルで決めた。
威圧感を与えないように斜めに構えた、手を背もたれにやって。
「Bonjour, あなたのも」大人の姿の彼女は疲弊した笑みを浮かべる。教会で働く精霊たちは、だいたいこんな感じだ。相手がほおを出すので戸惑いつつもビズをする。「何かお手伝い
できることは?」
「アロマ連合のナイトだ」オレは手のひらから宙に
青色の紋章 Life of Flower を浮かばせる。
「会話ができる人間を探している。心当たりは?」
彼女は大笑いした。緑色の髪の上に浮かぶ輪っかと翼の羽根が小刻みに震える。「ジャポンに行くべきね。ここで数十年働いてるけど、そんな人は見たことないわ。せいぜい夢の中で
アイディアを受け取ることができるぐらいよ」
「この国じゃないとダメなんだ。頼む、詳しいヒトはいないか?」
「そうね~、会話はできないけど、私たちの姿が視える人なら聞いたことがあった気がする」オレはアクセント・オタクじゃないが
——アクセントにうるさいと周りから言われていても——
この女の話し方は根に触る。「うーん、思い出すから待ってね。
あれ~、どこだったっけえ~?」
もしペパーが聞いたら維管束が怒りでハチ切れるぞ。あいつなら祖父のハーデスに頼み込んで、このギャルを地球から追放だ。ロンドンの問題児ピーターがここにいたなら、とっくに魔法をブッ放して病院送りにしてる頃だ。もっとも当のウサギ本人と仲間たちも*ブタ箱送りに
されまいと必死に逃げる羽目になるのだが。ん? これはじっさいの話だな。
そういえば昔そんなことがあったぞ。当時の怒りがこみ上げてきた。あいつ!
*(ブタ箱:刑務所のこと。差別的な言葉のため使わないほうがよい。
もし使えば、動物霊の権利を守る団体のブタたちは彼ら自身の怒りで身を焦がされ、
美味しいポークソテーが完成することになる。召し上がれ)
「コッツウォルズ、インドの!」
「イングランドな」決めたぞ。
「そうそれ、なんかあ、イングランドにいる推理好きの神父が
話せたと思うんだよね、たぶん」
オレが冥王に頼む。この銀河から永久追放だ。
「もういい、他を当たる」きびすを返す。訊く精霊をまちがえたと後悔した。あの匂いは
けっこう遊んでいる。それもやったばかりだ。マジメな植物じゃない。他の偽天使も
似たようなもんだろう。フランスに花はいないのか? その女性の銅像が申し訳なさそうに
視界のすみに入る。「メアリー、謝らないでくれ。精霊にもいろんなやつがいる。
オレのほうこそ申し訳ないよ。だから今度、連合の相談ボックスに
教会への苦情のメールを入れておく。それで許してくれ」
決して返事をしない相手に心のなかで話しかけるなんて、どうやら疲れているらしい。教会の扉を開けて外へ出ようとしたとき、背後から呼び止められた。
「オレンジ、ドンレミへ行って。ジャンヌが通っていた教会にならいるかもしれない」
「Have we met before? Call me by holy name(:今日が初対面だろ、礼名で呼べよ)」
扉は閉められた。腐ったリンゴのような不快な匂いを残して。
*(【天使界総動員ストライキ】。暗黒時代の【魔女狩り】は人間たちが思う以上に天使界の
怒りを買った。事態は深刻だった。天使たちは文字通り全員がストライキを起こし、地球
のソーラーシステムから離脱すると発表。植物界と動物界の間を取り持つ彼らの離脱は、
全非物質界に【第二次地球大混乱時代】の再来を予感させた。全世界の抗議と批判を
受けても世界長ミカエルの決意は固かった。そこでアロマ連合は天使たちにアジアを提供
することで、彼らを地球にとどまらせることになんとか成功した。今やジャパンは天使界
のファースト・カントリーになっている。神社や寺では天使たちが日本人の価値観や夢を
破壊しないように、いるとされている神や仏に変身して働いている。ちなみに中国には
ひとりもいない。あの国は動物界のカラーが強い。いっぽうヨーロッパでは、しわ寄せに
植物や動物の精霊たちが天使のコスプレをして教会で働いている。Ridiculous!!
読者諸君の夢を壊すようで悪いが、
まあ、言ってみりゃテーマパークの着ぐるみと同じだ、ぜんぶ偽物なんだ。
世の中そうやって上手いことまわってる。おい、これはオレと君との秘密だからな。
自分が事実を知ったからって、熱心な宗教家に教えてやる必要はない。だって信仰は
自由なんだから。絶対にやめろ、バチカンがパニックになる。警告はしたぞ)
プロヴァンスからポータルで経由地のパリ支部へいったん引き返し、またポータルを通ってドンレミへ。もとの少年姿で。係員に挨拶し光の輪の中へ。入る直前で立ち止まる——同時に振り向きまぶたを瞬いた。頭の中でシャッター音が鳴る。ポータル・ステーションには
7人ほどの精霊がいた。自動販売機で飲み物を買う男性、ソファで会話している女性たち、
アロハ・シャツの日焼けした男性、太った青スーツの男、それに異星のヒト? ——頭に枝を思わせる2本の角を生やしていて銀色の肌が光を反射している。彼(彼女?)は白いフリルのついた服を着ていて、性別はわからないな。それから睡眠不足で目の下に窪みを作った緑髪の男性。そして、上半身が裸の中年男性……彼はなぜ裸なんだ?「Oi ここはアロマ連合だぞ! 勘弁してくれ!」ドンレミ村のポータルから出た時そう叫んだ。そしてこうも。「That is a Midlife Crisis?!(:あれが中年の危機なのか⁉︎)」あんなのが同じ花の精霊だなんて思いたくないよ。まるで人間の仕草だ。とにかく、午前霊時(:ghosthora)のポータル・ステーションは空いていた。人間たちは非物質界の住人たちは深夜にこそ活発に行動するものだと思って
いるが、それは完全なステレオタイプ。あいつらが勝手な行動をしないよう、オレたち精霊はあいつらに合わせて行動する必要がある。だから人類の文化を理解し尊重することは業務上
とても大切なことだ。基本的に、深夜に活発に行動するのは犯罪者か、パーティ好きの一般霊か、暇なゴーストか、あるいは地球のために世紀中仕事に追われている悲しい精霊たちだけだ
——待て……つまり、大体みんなだな。とにかく、深夜は人通りが少なくなるから都合が良かった。候補者を絞れる。写真の彼らこそテロリストや内通者の候補だ。ポータルを使えば襲撃者たちに行き先を教えることになる。
追いかけられるリスクは承知の上だ。しかし、相手の正体がわからないから怖さに拍車が
かかる。だったら、いっそのこと跡を追わせて返り討ちにしたほうがラヴリーだ。支部の通路やホールですれ違いざまに挨拶を交わしたりビズをしたみんなが敵に見える。味方を疑わないといけない罪悪感で自分が嫌になる。人類のせいで植物界は分断されている。頭に来るぜ。
どうして花同士で戦わなきゃいけないんだ? だけど、ラベンダーにアロマ連合を抜けられるのは襲撃者たちに再び命を狙われるより、遥かに恐ろしい。オレがアロマ連合のナイトに
なったのは、彼女がいたからだ。もちろん地球を良い星にしたいとか、もっと発展させたい、戦争のない安全な星にしたいとか、この組織で働く理由はいくつもある。でも、
彼女が遠いところに行ってしまったら根源的な理由を失ってしまう気がするんだ。テロリストたちも確かに怖いけれど、急がなければいけない。人間界の乗り物でドンレミに行くには時間がかかり過ぎる。鳥に変身する手もあったが、みんなが変身する動物だ。ほかの動物より注意
して霊視されてしまうし狙撃されやすい。それに変身している間は魔法が使いにくいから瞬時に対処できない。したがって、ポータルを使うことは悪い道ではない。
やってきた場所は予想どおり質素な村だった。良くも悪くも退屈なところだ。
娯楽施設なんて何もない。道端に置かれた看板には〝ジャンヌ・ダルク誕生の地〟と書かれている。多くの道はパリとは違い石で舗装されておらず、春の陽気に包まれた草花が青春を謳歌している。田舎万歳! 吸い殻を道端に捨てる人間も今のところは見かけない。
地方であるにもかかわらず、すべてが畑になっていない——人口が少ないから拡大したくてもできないだけかもしれないが——森と共存している点が素晴らしい。何もかもが魔界パリとは
違う。この村全体に敬虔さがただよっているのだ。いったい何が人々に、そのような
仕草をさせるのであろうか。他の地方の村々とも空気がちがうのだ。
事前にネッコ(:インターネット)で調べたサン・レミ教会の前に立つと、自分まで敬虔な気持ちにさせられた。オレにはこれといった信仰はない。非物質界では〝神〟という言葉は
ふたつの意味を持っている。教会や神社、お寺で働くための資格を持っている精霊を指すか、
偉大な精霊への敬称として用いられる。前者の意味でならオレは神ではない。
資格を持っていないから。後者に該当する花たちは、地球を平和へと導いた愛する師匠の
『真の薫香』や『黄金のリンゴ』がそうだ。ラベンダーを神と呼ぶヒトもひょっとしたらいるかもしれない。特に『黄金のリンゴ』は真の神だ、文字通り。草創紀に登場する神で、植物界を創り、その草創期に活躍したと考えられている。彼は今でもどこかで生きていて、植物たちを見守っているらしい。その割には、オレは彼を見たというヒトに出会ったことがない。
やっぱり、いないんじゃないかな、誰かが作ったおとぎ話で。まあ、信じる気持ちが大切だ。オレにはそれが欠けているのかもしれない。そんなことを考えるなんて、この教会は信仰心のうすいヒトを活性化させるエネルギーを持っているのかもな——人、精霊問わず。
凸の字建築のその教会は角の外壁の石が欠けているのが目立った。そろそろ改修が必要
なのは一目瞭然。でも*『虹上の旗女』が通っていたという歴史的価値を考慮すると、しないほうがかえって箔が付くだろう、観光客にとっては。木製の扉の片方を押したけど、ビクともしなかった。あれ? 造りからは想像できないほど重たい、鉄のようだ。それ、もう一回
踏ん張って力を入れてみるけど、やっぱりダメだ。こうなれば《地獄の業火》でドアを
爆破しようかと思ったけど、そんなことすれば、もちろんネッコで叩かれちまう。
それに何より、この村の人間たちに迷惑をかけたくない。次元構造は川と同じだ。
上流が汚染されたら下流も同じ目に遭うように、下の次元に位置する人間界にもいつか影響が現れる。フランス政府はケチだから、
税金をこんな辺境の教会なんかのために使ってはくれないってオレは思うぜ。
そんなわけだから——
身なりを整えて紳士的に数歩下がると、
丁寧に勢いよく扉に突撃した。
*(『虹上の旗女』:『the Flag Girl on the Rainbow』。ジャンヌ・ダルクの礼名。
植物界と動物界の代理戦争である忌まわしき【百年戦争】解決に向けて、
彼女はあの世界長ミカエルから礼名を授かった。
このような名誉を受けた人間は他にいない。
天使界のワールド・プレジデントが人間に礼名を与えたことに、
動物界大総統府は非難轟々だったらしい、ジジイの回顧録によればな)
扉が開くと同時に——「Aïe !!?(:痛ッ⁉︎)」かん高い声が聞こえた、
扉に嫌な衝撃が走った後に。自分の頭の中がオレンジ色に染まる。どうやら、
やっちまったぜ! 向こう側に誰かいたみたいだ。凄まじい速度で扉に襲われた精霊は床に
倒れている。*其れは霊体から金色のまばゆいオーラを放っており、オレの目をくらませた。誰かはわからないけど本物の天使だ。なぜヨーロッパにいるんだ?「Aïe, Aïe, Aïe !!!」顔を
押さえて痛い痛いと泣いている。界際問題だ、同盟世界の精霊に怪我を負わせちまった!
*(其れ:指示代名詞。性別が不明な精霊のために用いられる)
*なんとかゴマすって機嫌を直さないと。
またどんな災難が植物界に降りかかるか、わかったもんじゃない。
*(「ヒトを突き飛ばしておいてなんだその言い草は」だって?
わかったよ、損得勘定しないで素直に謝ればいいんだろ、ちぇっ)
*「ちょっと急いでたもんでさ、悪かったよ、大丈夫?」
*(ほらよ、これで良いだろ?)
「ちょっとあなた——オレンジ⁉︎ 何してるの⁉︎」
「ラベンダー?」オレは床に倒れている天使に手を貸した。「なぜここに? 本物の天使かと
思ってビックリしたぞ」
その天使はラベンダーがよく好んで変身する姿だった。オレは目を凝らし、霊視の度数を
高めた。完璧な変身だ。いつ見ても、とても植物には視えない。天使が植物に変身することは比較的かんたんだと言えるけど、彼らに変身できる精霊はほとんどいない。なぜなら天使たちのほうが優れた遺伝子を持つ上位種族だから——とは言ってもそれはあくまで強さの一つ
という話だ。彼らは確かに強力な魔法を使うけれど、霊体的にはドラゴンたちのほうが
もっとパワフルだし、狡猾さでは植物至上主義者たちのほうが何十枚も上手だ。
香りをもつ植物霊や、それぞれの個性を生かして戦う動物霊、赤い服しか持ってないヤツら、失敬、サンタたちには天使たちにはない長所がある。仮に天使に変身できたとしても、霊視の上手いやつが見ればどこかに必ずボロが出る。本物と見分けがつかない変身ができる彼女は
天才だ。
オレの身長より頭二つ分高い17歳ぐらいの天使は叫んだ。
「謝りなさいよ!」
「ごめんなさい」なぜだか背筋がしゃんとした。くやしい。
金のかかっていない貧相な——もとい質素で謙虚な祭壇の前にふたりの精霊が出現した、
やはり天使のコスプレ姿で。騒ぎを聞きつけたようだ。偽天使たちの視線を感じた彼女は
「来て」オレの手を引いて無理に外へと連れ出した。ずっと引っ張って行く。
「どこまで行くの?
なぁ、まだか?
もう良いんじゃない?
そろそろ……
まるでピクニックだね。歌でも歌う?」
返事は一向になかった。表情は見えない。見るのも怖い。
教会から数百メートル離れると、 「どうやって
やっとオレたちは わたしの居場所を特定したの?
道の真ん中で向き直った。 匂いも消したし、エアリスの電源も切っていたのに」
「はっはっは! オレさまの鼻を甘く見るな、おまえの行き先なんか全部お見通しだ」白を
切ることにした。そのほうがこのエラそうな小娘のおもしろい反応が見れそうだ。正直に白状すると、彼女に思いがけず会えてテンションが上がっていたのだ。「そうかんたんに穏やかな余生が送れると思うなよ、地球中のテロリストがおまえを待ってるぞ」
ファッション雑誌の表紙を飾っていそうな丸顔の娘は醜悪に顔をゆがめた。「ストーカー、
犬みたい」
その言葉は心に深く突き刺さった。胸が痛い。心が傷つく。これは葉っぱ一枚取られた。
必死で言葉を紡ぐ。「Well, とにかく見つけたぞ。本当に退職するつもりじゃないよな?」
「さあね。こんな未来のない星なんか見捨てて、天の川銀河一周の旅に出かけようかしら」
態度が木に喰わない。ドンレミ・ギャルは金色の髪を指でいじくりながら、
生意気に気取ってる。
「オレだったらシュガーAに行く」
「じゃあいっしょに来る? 以前あそこに住んでるヒトに会ったことがある」
「ウソだろ⁉︎ うらやましい! どうだった?」
「其れは言ったの——地球は生態系が繁栄していて、自然と調和した暮らしを営む
ヒューマノイドがいて素晴らしい星だよね——って幻想を抱いていたから、真実を
教えてあげたわ、やさしくね——テロリストで溢れていて、みんなニンゲンを嫌悪してるよ。休日は家族みんなでニンゲンを差別しまくるんだ——って」
「Stupid(:馬鹿か)」これには苦笑せざるを得ない。「誤解されるだろ」
「間違ったこと言ったかしら?」彼女はクラブで笑いのためにバレバレのハッタリ——みんながわかってる——をわざとかますみたいに、調子の良い自信満々の表情を作る。顔には、疑う余地は微塵もなく〝わたしは正しい〟と書いてある。
「What the Earth are you saying?!(:何糞ッタレなこと言ってんだ⁉︎)」その様子があまりにも可笑しく、オレは吹き出した。Exactly, exactement, 何を隠そうここは地獄の代名詞、
地球だ。
「ところで、精油計画の調子はどう?」とつじょ変身を解いて真剣な顔で聞いてくる。
ラベンダーって、どうして天使に変身するのが大好きなんだろう?
だって、花風の中に流れる藤色の髪、こんなにきれいなのに。
「*二酸化炭素出すなよ」ため息をついた。あーあ、楽しい会話が終了だよ、もう!
*(二酸化炭素を出すな:植物界のさいきんのスラング。
ある記事によると、地球人類第7文明期の初期からその登場が確認されている。
だれかに良い雰囲気をブチ壊された時や、作業を邪魔されたときに使う)
「ゴマ貸さないで」
「絶好調だよ、もちろん」
腰をかがめてオレの首元に顔を近づけてくる彼女。
薄い紫色の髪がオレの手に触れる。「匂いには出ていない。でも嘘クサい」
「そうやってヒトを疑うところが、あなたの悪い癖だ」
「知ってる? 批判的であることは、作業効率向上と物事を見極めるためには欠かせないわ」
「Well well, weeeeeel(:おやおやまあまあ)」
「おい、真剣に答えろ」
良いだろう、ぶつかってやる。おたがいの香りが張り詰めた。「ラベンダー。わたしは
きちんと自分の業務をこなしている、誰かさんとはちがってな——自分の思い通りにならず
親に叱られるのが怖くて逃げた」
「去年、人類は飛行機による英仏海峡の横断に成功した。わかる? この意味が」息を荒げ、身振り手振りで政治家のように演説する。「次の戦争が世界中の国々を巻きこんだ人間界大戦なら、空から弾丸、爆弾、ミサイルが*レグザゴンヌに降ってくる。人間界が滅んでくれる
なら幸せ。でもレグザゴンヌを焼け野原にしようと言うのなら、わたしは手段は選ばない」
*(レグザゴンヌ:フランス本土はその形が六角形に見えることから、そう呼ばれている。
彼女はフランスのことをいつもレグザゴンヌと呼ぶ)
「この国を愛しているんだね?」
「ちがう!
自分が支援したものを犬のエサみたいに滅茶苦茶にされるのは
我慢ならないだけ‼︎」
「一緒に木を植えよう、ラベンダー」鉛、プルトニウム。人間たちの欲望によって禍々しく
濁った真冬の心を溶かす黄金のアロマの燦めき。今、雲雲の切れ間から光が手を差しのべる。「君が協力してくれたら花にミツバチ、百花繚乱。精神性の高い民族は戦争を起こさない傾向にある。これが教育が重要視される理由だ。これが文化レベルの向上が欠かせない理由だ。
そして両者を叶えるためには助けられたはずの死亡者数を0にする必要がある。特に乳幼児、人間界のこれからを作っていく野郎どもの!」その光は、海面上昇によって、地球人類が
生み出したありとあらゆる汚染物質を吸収した海と土壌に、浄化をもたらすんだ。「だから
精油を普及しよう。困難なプロジェクトだが、オレたちなら人間界を変えられる。
ナポレオン・ボナパルトを支援したこの『天界の果実』と、大ペストを倒した『洗い草』ならできる! あなたは神だぞ——この野蛮な星に【バレンタインデー】を作った‼︎ マジカル・0を目指そう」地球の青い瞳はまっすぐに、彼女のその藤色の目を見据える。「手を取って
くれ。クレッセント(:三日月地帯)のラベンダー」彼女が手を動かした。自分の胸の鼓動が耳の奥で聞こえる。お互いの領有権を主張する陸と海のように、期待と恐怖がせめぎ合う。
言いたい言葉はすべて伝えた、頼む…………。彼女は握る直前で静かに手を止める。
「あなた、もしかしてわたしのことを上に報告してないの?」
「あなたは有能な存在だ。少なくともぼくはそう思ってる。このまま旅行に行かせて他の星に取られてしまうのは地球の損失だ」
「Mint,エクセロン(:良くやった)」
「それで、答えは?」
「無理、絶対に」彼女はオレから下がり、距離を取る。「わたしがする仕事じゃない、
畑違いよ。上層部にはわたしが精油計画に所属して働いていると通し続けて。
わたしはわたしで動く」
「勝手すぎる、どっちもやれば良いだろ!」
「それに、たかだか二百年ぽっちの青い草じゃ足手まといよ」
「草はテメェだろ、雑草の分際で生きがってんじゃねェよ!」
「口の利き方に気をつけなさい!」
「もう一度、船から海に突き落としてやる」こんなこと言うためにここに来たんじゃない。
でもオレは最後まで言い切った、慣性の法則に従い。「*【ロゼッタストーン獲得競争】で
あの石をフランスではなく英国が手に入れることができたのは、オレがおまえとの駆け引きに勝ったからだ! オレはフルーツだ、もうおまえより強い、ひとりでもやれる」
*(長い話だ。それはまたの機会に)
「もう全部どうにでもなれば良い‼︎」
やっちまった。維管束をブチ切られたラベンダーは顔をリンゴみたいに真っ赤にしちまって砂をつかんでオレに投げた後どこかへ行っちまった。過去の話をするべきではなかった。
呆然とひとり立ちすくむ、後悔と一緒に。どうして、どうしていつもこうなんだ。仲が良い時は同じ枝に止まる鳥たちみたいに本当に仲が良いんだ。なのに、喧嘩してる場合じゃない時におたがい怒りの油田に火がつく——無礼な人間たちに踏まれたみたいに。 こういう時、ジジイならどうした? 『黄金のリンゴ』なら? なんでも持ってる冥界のプリンス・ペパーなら? どうやって説得するんだ? どんな風に自分の怒りと向き合うんだ? 上手く立ち回れる彼らが羨ましい。すると、天の声が聞こえてきた。「原発、汚染、温暖化、大気汚染、海洋汚染、生物濃縮、生物・樹木権利の樹立、核戦争、人種差別の解決、全部精油でなんとかできるか、お手並み拝見‼︎」
こんなに嫌な皮肉は、未だかつて聞いたことがなかった。どこにいるんだ……? 彼女、ご立腹だぞ——産んだ子どもたちを悪魔(:人間)らに誘拐された動物たちのように。肺が自分の嫌な匂いで満たされてようやく、不快な匂いを出していることに気づく。どうしてオレたちっていつもこうなんだ。とんだお笑い草だ。視線を感じて見やると、遠く離れた家の物陰から偽物の天使たちが様子をうかがっていた。こちらが気づいた瞬間——彼らはそそくさといなくなる。人間たちにコケにされている気がしてならない。気まずいな、
教会に戻って彼らのコネクションに頼るのは流石に気が引ける。*植木鉢だ。
*(植木鉢:四面楚歌、袋小路。成す術がない、あるいは身動きが取れない状況で使われる)
きっと、どこかで至上主義者が様子を窺っているはず。おまえたちの望み通り、精油計画は丸潰れだ! 喜べ‼︎ 人間たちみたいにふんぞり返っていれば良い! 蒔いた種を刈り取る日は必ず来るからな‼︎ 最後に笑うのは勝者じゃない、オレさまだ
開花
農民たちとの打ち合わせは苦戦を強いられた。傲慢な奴らだ、以前より高い値段を提示してくるなんて! 道端に生えてるただの草が、なぜそんなに高くなる⁉︎ こんなところで経費が高く付くなんて、ますます兄たちの思い通りではないか。社長の座を渡してなるものか、一番優秀なのはこの僕だ! 朝一番の列車でリヨンへ帰るぞ。民宿へ向かう途中、不思議な香りを聞いた。仕事上、あらゆる香料の匂いを知っている。でも、これが一体何であるか、わからない。とても懐かしい、けれど何だかわからない、よく知っているはずなのに、思い出せない。どこかで嗅いだことがある。どうだって良い、最優先は明日に備えて寝ることだ、しかし頭から離れない。今ここで探さなかったら、一生後悔する気がして。もし新しい香料ならば、敵対企業が見つける前に先に手に入れなければ。この香り、どこから漂って来るのか。しかし脚は自ずとそちらへ動いた。まるで意志を持っているかのように。太陽色に燃ゆるオレンジの髪。なぜ僕は、この色に惹かれるのだろうか。
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