3 闘技場、最初の試合、ざまぁ

闘技場の観客席は、熱狂的な歓声と喧騒で満ちていた。

俺は仮面をつけたまま、控室の片隅で目を閉じていた。


黒炎の霊刃が鞘の中で微かに脈動する。


俺の緊張を感じ取ったのか、神威が念話で語りかけてきた。

「大丈夫か?」


「むしろ久々に心が躍ってる。」

俺は立ち上がり、控室の扉を押し開けた。


試合場の明かりが視界を埋め尽くす。

砂塵が舞い上がる中、相手の姿が見えた。


相手は大柄な男で、筋肉の塊のような体格をしている。

両手には巨大な戦槌を握りしめ、その表情には迷いがない。


「仮面野郎、楽しませてくれるんだろうな。」

観客席から笑いが漏れる。


だが、俺は黙ったまま剣の柄に手を置いた。



「準備はいいか!開始!」


試合が始まる合図と同時に、相手が突進してくる。


戦槌が風を切り、俺の頭上を襲う。

だが、その動きは大きすぎた。


俺は素早く横に回り込み、黒炎の霊刃を引き抜く。


相手の腕を狙い、一閃。

だが、奴もただの大男ではない。


「おっと、速いな。」

戦槌を巧みに振り回し、俺の刃を弾き返す。


砂塵が再び舞い上がり、観客たちは歓声を上げる。


神威が笑う。

「お主、この程度で油断するなよ。」


「わかってる。」

俺は再び相手との距離を詰める。

足元に魔力を込め、加速する。


自分の背後に

閃光魔法を放ち視覚を奪う


次の瞬間黒炎の霊刃が

赤黒い光を放つ


相手が戦槌を振り下ろす前に

その防御の隙間を狙い

刃が脇腹を貫いた


「ぐあっ!」

男は苦悶の声を上げ、膝をつく。

俺はその場に立ち尽くし、剣を構えたまま動かない。


「勝者、仮面の戦士!」


観客席から歓声が湧き上がる。

俺は剣を収めると、その場を静かに後にした。


控室に戻ると、神威がぼそりと呟いた。

「悪くない初戦だったな。」


「まだまだだ。もっと強いやつがいるはずだろ。」




闘技場の喧騒が薄れた頃、俺は仮面を付けたまま静かに観客席を抜け出そうとしていた。


黒炎の霊刃は鞘に収められたまま——だが、周囲の空気は薄く張り詰めていた。


「おい、仮面野郎!」

荒々しい声が後ろから飛んできた。

振り返ると、五人の男たちが鼻息荒く詰め寄ってくる。


俺を追放したギルドのメンバーたち。


見覚えがあった。

何度かギルドで顔を合わせたことがある連中で、特に話した覚えはないが…追放の時に石を投げつけてきた奴が混ざっていた。


「お前のせいで大損だ!」

「試合ぶち壊しやがって!」

怒声が次々と飛び交う。俺は彼らを一瞥したが、何も答えず歩き続けた。

すると、一番体格のいい男が前に出て、俺の胸倉を掴む。


「聞いてんのかよ!俺たちは全財産賭けたんだ!責任取れ!」


こいつら…どうやら、自分たちの愚かさを俺のせいにしているらしい。


「少し遊んでやれば気も済むだろう。」

神威の冷ややかな声が頭に響く。


俺はそれに答えることもなく、ただ胸倉を掴む手をじっと見た。


「何とか言えよ!」

男が拳を振り上げた。その瞬間——


「遅い」

俺の声が低く響いた

同時に

胸倉を掴んでいた男の巨体が

宙を舞う


体をひねりながら

手首を払うだけで

吹き飛んだ


相手の重心や力を利用する。


「う…がっ!」

苦痛の声が漏れる。残りの四人がその場に硬直した。


「てめえ!調子に乗りやがって!」

怒りに駆られた一人が剣を抜き、突進してきた。


俺に石を投げてきた奴だ。

剣筋があまりにも単純。


俺はその場で

体を半歩引き

剣を軽く払う

剣が宙を舞い

奴の懐がガラ空きになる


一瞬の間に拳を叩き込むと

奴の胸板が

凹むような

鈍い音が響く


次の瞬間には地面に転がっていた。

呻き声を上げる暇さえ与えない。



残り三人——動けない仲間を見ながら後ずさりしている。

目には恐怖が浮かんでいる。


「まだやるか?」

俺は静かに問いかけた。

言葉以上に、仮面越しの視線が彼らを射抜いている。


「ひ、引け!」

一人が叫び声を上げると、三人は慌ててその場から逃げ出した。

二人は動けないまま転がっている。


俺は黒炎の霊刃の重さを確かめながら歩き出した。


闘技場を後にする俺の背中を追う者は、誰一人としていなかった。



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