第1話 騎士少女との出会い

 自分は二度と目覚めないと思っていた。重症なのは自覚していた。

 せめて近くの村に、危機を知らせようと、向かったまでだ。

 開拓地に腕の良い医者など、居るはずがない。


 だから命は諦めたつもりだった。

 だが王都騎士、ミカ・プッカは意識を取り戻した。

 意識が覚醒すると同時に、自分に何が起きたのか不思議に思う。


 痛感がない。体が嘘のように軽い。

 天国にでも来たのかと、疑いたくなるほど快調だ。

 ミカの嗅覚を、美味しそうな匂いが刺激する。


「お姫様のお目覚めか? おっと、守る側だったな」


 軽妙な口調で、匂いの方から声が聞こえる。

 ミカは瞳を開けて、周囲の様子を調べる。

 木製の家だ。古いタイプで、隙間風が通っている。


 恐らく簡易的に作られた住居なのだろう。

 この手の住居に住むのは、基本開拓士だ。

 ここは天国じゃない。実感しながら、ミカは声の方を向く。


「ここは地獄よりマシな場所さ。あ、俺はアルテね」

「ミカ。王都騎士、ミカ・プッカよ」


 アルテと名乗る青年は、シチューを作っているようだ。

 食器に注ぐと、そっとミカに差し出した。


「また倒れられたらたまんないからな。栄養整えて置け」

「ありがとう……」


 青年は笑みを崩さずに、鍋の元に戻った。

 シチューを食べると、ミカは驚いた。

 熱加減が丁度良いのだ。料理の設備が整っているとは思えない。


 焚火の様に火を焚いて、その上に鍋を乗っけただけだ。

 この難しい調整をするなど。思ったより器用な人だと思った。


「それで。アンタ何故あんなところに倒れていたわけだ?」

「そうだ……! SS級巨大モンスター。通称ザルサが……!」


 慌てて立ち上がろうとするミカを、アルテが手で止めた。


「怪我は治っているが、病み上がりだ。精神の方は万全じゃないだろ?」

「傷……。そう言えば、なんで私は助かったの?」


 ミカは時間を確認した。まだ正午。

 自分が倒れた早朝から、半日も経過していない。

 どうやって自分は助かり、傷口が塞がったのだろうか?


「貴方が、私を治療してくれたの?」

「いや。知り合いの闇医者に頼んでやった。治療方法は企業秘密だと」


 アルテは自分の分のシチューを入れながら答えた。

 確かに治癒魔法を使えば、傷は塞がるが。

 このレベルは大賢者でも難しいだろう。


 こんな土地に、凄腕の医者がいたとは驚きだ。

 王都に連れて行きたい所だが、闇医者は表を嫌う。


「お味の方は? 肉は初めての具材だから、自信がない」

「え? うん、美味しいよ。鹿肉に近い味かな?」


 肉を持っているという事は、狩りが出来るのだろう。

 ザルサの一件も気になるが、ミカは目の前の青年に興味を持った。


「アルテ。貴方は一体何者なの?」

「俺か? ただの村人Aだよ。何の権限もないしな」


 ただの村人が、闇医者と繋がっているはずがない。

 薄っすらとだが、ミカには誰かに背負われた記憶がある。

 その背中、彼のものと同じな気がした。


「少し休んだら、村を出た方が良い。ここは厄介ごとを嫌うからな」


 アルテはドアを開けて、隙間から外を見つめている。


「王都の騎士となれ合うと、何が起きるか分かったものじゃない」

「そうはいかないの。私にも任務があるから」

「その任務は、死にかけの命を捨てるほど、価値があるのか?」


 軽口のような言い回しだが、アルテは自分を心配してくれている。

 確かに先ほど死にかけたばかりだ。

 この任務に危険があるのは、明らかだ。


「あるわ。ザルサは危険なモンスターよ。辺境の地とは言え、放置できない」

「なら戦力を整えてから、再チャレンジだな。今戦えば、即死だぜ」


 確かにアルテの言う通り。本来なら王都に戻るべきだ。

 現状の戦力で勝てないのは、実証済み。


「ダメ。二体ものザルサ。しかも片方はとんでもなく巨大なのよ」

「なに? 二体だと?」


 アルテは何故か、数が気になったようだ。


「ええ。一体なら私でも倒せるけど。二体目が増援に来て、あのザマよ」


 まさかの事態に、判断を誤ったのもある。

 あそこは無理にでも、撤退をするべきだった。


「そのモンスターの特徴は? 住処とか、食料とか?」

「な、なんなの? なんでそんなこと聞くの?」

「一応、村人に注意してやろうと思ってね」


 理にかなった回答だったが、ミカは釈然としない。

 

「ザルサは、深い森や洞窟に居るわ。鉄などの鉱石が主な食材よ」

「なら巣は鉱山か……。確か最近見つかって、鉄が掘られ始めたな」

「なるほど。それで森まで出てきた訳ね」


 ザルサは肉食でもある。肉より鉱石を好むが。

 食料が無くなれば、動物を食べて生きる。

 モンスターは生態系を壊しかねない存在だ。


「まあ、注意すれば大丈夫だろ。みんなには暫く、森や鉱山に近づくなと言うよ」


 アルテは玄関の扉を開けた。


「君は一度、王都に帰った方が良いよ。命は大事にな」


 アルテは外に出た。村人に忠告しに行くのだろう。

 一人になったミカは、この後どうすべきか迷う。

 彼の言う通り、一度王都に戻った方が良いかもしれない。


 すぐに首を振って、その考えをかき消す。

 ここで帰ったら負け犬だ。家の名誉にかけて、それは出来ない。

 せめて一匹でも倒せれば……。自分が諦めなかった事を知られれば……。


 シチューを食べ終えた後、ミカは鎧を装備した。

 先ほどの戦いで痛んではいるが、まだ着られる。

 剣を片手に外に出る。村人は騎士を良く思っていないようなので。


 こっそりと村の外へ出た。アルテの話を思い出す。

 この近くに鉱山があるようだ。間違いなくザルサはそこにいる。

 SS級モンスターを倒せれば、みんな自分を認めてくれる。


「最近鉄が見つかったらしいから……」


 ミカは街道から外れた道を通った。

 この付近で山は一カ所だ。村から一番近い所を掘ったに違いない。

 最短経路で山に近づき、洞窟を発見する。


 残していた松明を灯しながら、洞窟の中へ入る。

 最近出来たばかりの、大きな足音がある。


「足跡が一つ?」


 数が気になりながらも、ミカは洞窟を進んだ。

 暗い。松明がなければ、先が全く見えないだろう。

 こんな中、ザルサと戦って勝てるのだろうか?


 不安に思いながらも足跡を辿る。

 近くで足音が聞こえてきた。慌ててミカは隠れる。

 モンスターの足音じゃない。靴が地面を叩く音だ。


 村人はアルテに注意されて、鉱山に近づかないはずだ。

 一体誰が? 松明の光がバレないように、様子を伺う。


「さてと。俺が洞窟に住むとしたら、どうやったら以上に気付くかな?」

「えっ!?」


 小声で驚き声を出すミカ。足跡の主は、先ほど会話した青年だった。

 彼は村人に、忠告しにいったはず。何故ここに?


「まず強い光が見えたら、怪しむかな?」


 アルテは手に光源を発生させた。

 眩い光があっという間に、洞窟を照らしていく。


「バカ……! そんなことしたら……!」


 ミカの予感は的中した。洞窟の奥から、振動するほどの足音が。

 全長十メートルはある、巨大な猿が現れる。

 ザルサと呼ばれるモンスター。その中でも平均サイズを超えている。


「で、余裕綽々なイケメン村人を見つけて、追い出そうとするわけだ」


 ザルサは侵入者に、容赦のない鉄拳を食らわせる。


「危ない……!」


 ミカは慌てて飛び出そうとした。隠れたせいで、距離があり過ぎる。

 間に合わない……! ミカが目を瞑りそうになった時。

 鈍い音が洞窟を振動させる。ザルサが悲鳴を上げながら、手を引っ込めた。


「え!?」


 ミカは驚きを隠せない。アルテは軽く片手を振っただけで、攻撃を弾いた。

 自分の鎧をも傷つける一撃を、一本の腕で止めたのだ。


「でも思ったより強そうで、返り討ちになるわけだ!」


 アルテは捉えきれない速さで、ザルサに近づいた。

 左手に剣が握られており。ザルサの体を切り裂いていく。


「こっちは準備運動万端だぜ!」

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