第2話 SSSスキル

 ミカはアルテの戦いに、見入っていた。

 ザルサのモンスタークラスは、最高の一個下。

 あの巨体だと、最高位のSSSに届くほどの強さだろう。


 そうなれば王都の騎士団ですら、数人では勝てない。

 だというのに。か細そうな少年が、一人でザルサを圧倒している。

 アルテが放った一撃で、ザルサの腕に傷がつく。


 ザルサに休む隙を与えず、アルテは連撃を繰り出した。

 剣は硬い骨を切り裂き、ザルサにダメージを与えていく。

 

「凄い……。あの人……。何者なの?」


 ザルサは怒りの咆哮を上げた。

 両手を広げて、アルテを潰そうと接近する。

 駆け出した足がすぐ止まる。目の前にいたはずのアルテが、姿を消している。


「ヘイ! 俺はこっちだぜ!」


 アルテはザルサの足元に居た。足払いを行い、ザルサを転倒させる。

 彼は即座に両手を広げた。抱きかかええる様に、腕を閉じる。

 すると青い鎖が出現して、ザルサの四肢を拘束した。


 アルテは洞窟の天井まで飛び上がり。

 落下の勢いを乗せて、ザルサの腹部を攻撃した。

 鎖の拘束は固く、ザルサの動きを完全に封じている。


「へ! 今のは効いただろ?」


 アルテは吐血するザルサから離れた。

 鎖が消滅して、モンスターが立ち上がる。

 再び咆哮を上げながら、口を大きく開けた。


 黒い光がザルサの口元に集まっていく。

 集合した光球は人の二倍ほどの大きさに、膨れた。

 ザルサは口を閉じて、黒い光弾をアルテに飛ばす。


 ――危ない! あの一撃は、私の鎧を……。

 ミカは咄嗟に忠告しようとした。


「少しは楽しませてくれるじゃないか!」


 彼女が言葉を発する前に。アルテが片手で、球体を受け止めた。

 周囲に石が飛ぶほどの、衝撃波が発生する。

 受け止めた彼は、髪が乱れた以外に、変化はない。


 アルテは腕を振って、光弾を跳ね返した。

 ザルサも戻って来るとは、予想していなかったのだろう。

 全く対応できず、光弾に直撃。そのまま壁に叩きつけられる。


「もう一つ、おまけ!」


 アルテは両手を広げて、胸を張った。

 すると彼の背後に、青色の分身が現れた。

 彼が腕を前に突き出すと、分身はザルサに向かって突進する。


 ザルサは体当たりの追撃を受け、ぐったりと倒れた。

 何とか立ち上がろうとするが、体に力が入っていない。


「さぁて。そろそろ決めるか」


 アルテは剣を掲げて、頭上で回した。

 軌道に沿って、虹色の縁が頭上に描かれる。

 彼は円の中心に刃先を突き刺した。剣が同様に虹色の光を帯びる。


 アルテは光る剣を、前に突き出した。

 剣の先から虹色の光線が放射。 ザルサの体を貫いた。

 アルテは剣を持ち上げた。光線が光る刃の様に。ザルサを斬り刻む。


 真っ二つにされたザルサは、その場で爆発を上げた。

 ミカは爆発の煙の中で、二つの光が見えた。

 紫の光は、まるで蛇の目の様に煙から飛び出す。


「寄生モンスター、スネーク!?」


 スネーク。他のモンスターに寄生して、意のままに操るモンスターだ。

 ランクはSSS級。モンスターを更に強くして、縄張りを奪い取る。

 スネークは最後の抵抗として、本体を飛び出させた。


 アルテに噛みつこうと、牙の生えた口を開く。

 スネークは猛毒も持っている。ここで噛まれたら、命はないだろう。


「おっと! 残念だったな!」


 アルテは剣を投げつけて、迫るスネークへ攻撃。

 剣は回転しながら、スネークの胴体を切り裂いていく。

 その牙はアルテに届くことなく、体を爆散させた。


 体内の猛毒が周囲に飛び散りそうになるが。

 それより前にアルテが、青い光を周囲に放った。

 猛毒を中和して、周囲の自然を守った。


「我ながら最高の、戦いだったな」


 アルテはニヤニヤしながら、親指を突き立てた。

 ――この人は強い。恐らくあの人よりも……。

 もし彼の強さがあれば、自分の問題を解決できるかもしれない……。


「アルテさん!」


 ミカは耐えきれなくなり、アルテに声をかけた。

 彼は肩をはね上げながら、背後を振り向く。


「すいません……。つい盗み見をしちゃいました」

「いや。俺も迂闊だったよ」


 アルテは両手を広げながら、溜息を吐いた。

 その後人差し指を口元に持って行く。


「このことは内密にな。あまり目立ちたくないもんでね」

「良いですけど……。これだけの強さがあるなら、衛兵をやれば……」

「俺は剣で壊すより。作る方が好きなのさ」


 アルテは焦る様子を見せず、軽口を叩き続ける。

 開拓者なのだから、噂が広まればまた違う集落に向かえば良い。

 そんな風に、割り切っているのだろう。


 彼の気持ちを尊重したいが。あれだけの力を使わないのは勿体ない。

 ミカは何とか、いい方法がないものかと考えた。


「悪いね! 俺は社会に染まるのは、性に合わないもんで。村人Aで居たいのさ」


 アルテはジャンプして、ミカが隠れていた岩山に飛び乗った。


「静かに、自由に、奔放に。それが俺なのさ」


 ――このままでは、この人は去ってしまう。

 また村に向かうのも、不自然だ。

 ミカは彼をなんとしても、引き留めたかった。


「でも、困っているなら。こっそり助けることは、出来るかもな」

「え……?」


 アルテは鳩を召喚した。鳩は手紙を加えながら、ミカに飛び乗る。


「何か困ったことがあれば、そいつに書けば駆け付けるぜ」

「良いんですか?」

「まあ。乗りかかった船とやらだ。仕事の成果は保証するぜ!」


 先ほどの戦いぶりを見たら分かる。自分を治療したのも、やはり彼だ。

 彼は無限の可能性を持っている。


「あの。アルテさんは、物作りが好きなんですよね?」

「ああ! 鍛冶や畑仕事。大工なんかも好物さ!」

「詳しく話せないんですけど。私、ここよりもっと辺境の土地に飛ばされるんです」


 アルテの事をまだ信用したわけじゃない。

 だけど、嘘もつきたくないし、彼に一緒に来て欲しい気持ちもある。


「事実上の島流し。それを取り消すために、私は功を求めたのです」

「それで死にかけたら、意味ないよ。命は大事にな」

「でもアルテさんとなら、立派な村を作れそうな気がするんです。」


 ミカは貴族の出身だった。王都騎士団は殆どそうだ。

 彼女には領土を持つ、権利があったのだが。

 それを利用して、辺境の地に飛ばされそうになった。


「へえ。零から村づくりか。中々楽しそうだけど……」


 アルテは岩山から飛び降りて、ミカに振り向いた。


「君は、そのためにいくら出せる?」

「私の全財産を。必要なら借金をしてでも」

「いいね! いくら急でも、本気のお願いは断れないんだ!」


 アルテはミカに近づき、肩に手を置いた。

 優しいほほ笑みを見せながら、ピースをする。


「んじゃあ、時期が決まったら鳩を飛ばしてくれよ。飛んでいくからさ」

「はい! あ! 依頼料は?」

「ん? ああ。ノーセンキュー。君の覚悟を見たかっただけさ」


 アルテはミカの背中方向に歩き始めた。

 彼はいつも余裕そうな笑みを浮かべている。


「またな!」


 その一言を告げると、アルテは風の様に去った。

 洞窟は一瞬で静かになる。ミカは、彼がザルサを倒した箇所をジッと見つめた。

 ――自由奔放な人生を望んでいるだけで。悪い人じゃない。


 絶望の淵にあった、ミカの心に僅かな希望が出来た。

 騎士として、貴族として。

 これからアルテと、二人三脚で動く事となる。


「アルテさんか……。まるで風の様な人だったな」


 つかみどころがなく。予測不可能で。

 でも心地よさをもたらしてくれる存在だ。


「あ。ちなみに、今後"さん"付けはなしで」

「うわぁ! 戻ってきたぁ!」


 アルテはその一言を告げるために、引き返した。

 その後また風の様に去っていくのだった。

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