第3話 拒否権は無いんですか?
「つぴくん。ちょっといいかな」
廊下を歩いていると後ろから担任の
なんだろう。楠木が僕へ声を掛けるなんて珍しいこともあるものだ。
だが、こうして楠木が話しかけてくるときは大体が面倒事だ。僕は警戒を強める。
「実は君に折り入って頼みがあるんだ。今から資料室に来てくれないかな?」
僕は壁掛けの時計を見る。あと数分で授業が始まる時間だった。こんな時間に頼み事なんてどうかしているのではないだろうか。早く教室に戻らなくては間に合わなくなってしまう。
「また後じゃ駄目ですか? もうすぐ授業が始まるんですけど――」
「今すぐがいいんだ。次の授業の先生には私から話をしておく。大丈夫。そんなに時間はかからないから」
楠木はどうしても僕に話したいことがあるようだった。僕がゴネれば、有耶無耶にして教室に戻ることも可能だろう。だが、僕も面倒事は早めに済ませておきたい。少し考えた後、僕は楠木へ了承の意を伝える。
◇
「来てくれてありがとうつぴくん。やはり君は――」
「……すみません、先生。時間も押しているので早く要件を教えてくれませんか?」
今思うと、クソガキだったと思うが、僕としては一刻も早く用事を済ませて教室に戻りたかった。楠木は説明すると言っていたが、きっと不手際でおかしなことになるだろうという悪い信頼があったからだ。
そうだねと楠木は言い、僕の目を見る。
「つぴくん。生徒会役員になってみないか?」
予想だにしなかった楠木の発言に、僕は瞳孔を大きく見開いて驚愕する。
「何故、僕なんですか? それなら溝野くんのほうが絶対に僕よりも適任のはずです」
楠木は静かに首を横に振る。
「溝野くんが問題を起こしたのは君も知っているだろう? 問題を――それも選挙期間中に起こした生徒を生徒会へ入れるのは難しいんだ。学年主任の先生もそう言っている」
「それなら僕以外の人でもいいんじゃないですか? いくらうちのクラスが荒れているからといって、委員長や副委員長――その他にも候補者はいると思いますよ?」
「君はクラスの中でも成績も悪くないし、素行も良い。それに溝野くんの応援演説までしてくれた。これだけでも推薦される理由にはなると思うんだが」
楠木は続ける。
「それに、生徒会役員は各クラスから選出しなくてはいけないんだ。出来れば選挙の立候補者だったり、応援演説をした生徒。あととりわけ優秀な生徒だったりね。うちのクラスだと――分かるだろ?本来であれば溝野くんを出すはずが予定が狂ってしまった。頼むよ、つぴくん」
どうしたものだろうか。
「もしも――もしも僕がお断りしますって言ったらどうしますか?」
「…………」
楠木は困ったように笑う。
まずい。楠木がこのような反応をするときは、だいたい生徒側の拒否権が無いときだ。
少し悩んだあと、僕は口を開く。
「……少し考えさせてください」
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ワンオペ図書委員長 僕 不労つぴ @huroutsupi666
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