第3話 事故とおかしい自己
俺は木崎誠。
22歳。
今はとある地方の田舎で農業関係の仕事に就いて4年目。
どこにでもいる普通の男だ
残念ながら彼女とかはいない。
別にモテないわけじゃないと信じてはいるけど……
ここは俺が高校まで生活していた都市と違い、驚くほど異性との出会いがない場所だった。
高校の時……
まあいいや。
何より今住んでいるばあちゃんの家がある村。
人口よりもシカとかイノシシの方が多い、まさに現代では在り得ない正に秘境のような環境だった。
今日は久しぶりにいい天気になった土曜日。
無趣味な俺だが先輩に薦められて購入した大型バイク。
なぜか心が沸き立ち、つい5年のローンを組んで買った俺の愛車。
俺はまたがり、エンジンをかけた。
俺は多重人格ではないと思う。
でもバイクに乗るとどうしても心が沸き立ってくる。
まあきっと誰しもそういう事はあるのだろう。
俺は深く考えずに、アクセルを捻りバイクを走らせた。
いつもの信号のまったくない無駄に整備された曲がりくねった道路を俺は風を感じながら爆走する。
ああ、サイコー。
この感覚、一度知れば病みつきになってしまう。
気分よくツーリングを楽しんでいた俺の前に、見慣れた250CCのバイクに乗ったやんちゃな高校生の武夫が走り出した。
こちらをちらりと見る。
(またあの小僧か。ったく、この前凹ましてやったというのに)
因みに普段の俺はどちらかと言えばおとなしい方だ。
でもバイクに乗っている俺は、ある意味イタイ、かなりやんちゃな性格に支配されてしまう。
(懲りないねえ)
俺は右手を捻りアクセルを開けて、エンジンの音を感じながら加速する。
もちろん別に競争しているわけではない。
武夫だってそんなつもりはないはずだ。
だけど少し性格の変わってしまっている俺は格下であるバイクより後ろを走ることがなぜかとても気にくわない。
そして一気に加速して武夫をぶち抜いた。
きっとこの時150キロ以上は出ていたのだろう。
だから。
全ては俺自身の責任だった。
※※※※※
これが俺の最後の記憶だった。
いきなり目の前に、見たことない様な美女が出てきた。
そう、出てきたんだ。
何の前触れもなく。
そりゃあさ、俺だってバカかもしれないよ?
ムキになってじい様やばあ様、軽トラックとトラクターしか使わないような道路で、あまつさえ夜なんかは鹿やイノシシがたくさん出てくる道路でさ、150キロ以上出してたからね。
でもさ、いきなり出てくるって何なのよ?
あー、死んだわこれ。
まあ、去年ばーちゃん死んで、今の俺は天涯孤独。
あーあ、詰まんねえ人生だったな。
ワンチャン転生とかしないかな……
あーあ、死んだら……
真琴に会えるかな……
※※※※※
「えっ?……あれっ?…んん?声が変……ふわっ!?」
何が起きた?
えっ?
「いてっ、……肘すりむいて……えっ!?……何この腕……」
俺が倒れている横には大破した俺の愛車が悲惨なことになっていた。
なんか混乱していて思考がうまく働かない。
『ねえ、ちょっと君』
「っ!?……えっ?誰!?……ていうか、さっきの女の人……やべえ、俺…」
『ねえってば、聞こえないのかな?おーい』
俺はあたりを見回す。
そこに武夫がバイクを降りて慌てた顔で近づいて来た。
「だ、大丈夫ですか?……あれっ?誠さん……えっ、うわっ、すげー美人……」
俺を見て変なこと言う武夫。
ん?美人?……俺が?!!
「あっ、おいっ、武夫、さっきの……」
(あれ、俺の声おかしいぞ?なんか女みたいな声……)
明らかに挙動不審になる武夫。
顔が赤くなっていく?
「あー、えっと、大丈夫ですか?その…あっ、俺、この近くに住んでいる柳田武夫って言います」
「いや、知ってるが……あー、うー、……やっぱ声変だ」
「えっと、あ、救急車呼びます?30分くらい来ないけど……」
俺は取り敢えず自分の体を確かめようと立ち上がった。
アレ?
武夫いつの間にお前でかくなった?
俺より小さかったよな身長。
ん……
ん?
ん!?
んんんんん!????
何これ……
なんで俺おっぱいあんの?
俺は無意識で自分の胸にたわわに実っている胸を触れてみた。
『あん♡……ちょっと、こらー、この変態!!あうっ♡』
うわっ、やべえ、柔らかい!?うわー凄いコレ…
はあはあはあ、なんか変な気分になってきた。
「ああん♡」
変な声出た!色っぽい!?
「ひうっ!?な、な、何してんすか!?大丈夫ですか……うわー、えろっ!」
あ、やべっ。
武夫目の前にいたわ。
うん。
取り敢えず落ち着こうか。
俺はタバコを探し胸のポケットをまさぐる。
『あんっ♡こらー、この腐れ変態男!!いい加減にしなさいよねっ!』
えっ?……頭の中から聞こえるこの声って……は?
『もう、私の話聞いてよ!!』
「え、ああ、うん」
なんだか知らないけどどうやらややこしい事になっているみたいだ。
とりあえず帰るかな。
うん。
骨とか大丈夫みたいだしね。
「あー、武夫さ、わりいけど家まで送ってくんね?」
「えっ、いや……誰?」
「……あのさ、木崎誠知ってるよね」
「あ、はい」
「そこまででいいからさ」
「あ、はい」
ふう、どうにかなるかな。
俺は武夫の後ろに乗った。
クソッ、250CCのバイク、せまっ。
しょうがない。
男にしがみつく趣味はないけどやむを得ないよな。
俺は武夫にしがみつき体を密着させた。
危ないからな。
「ひうっ♡……やべー、柔らか♡」
「ほら、早く」
「う、うっす」
取り敢えず武夫に送ってもらい俺は自宅にたどり着いた。
ああ、バイクまだローン残ってるんだよね。
最悪だ。
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