第27話

「あ...伯父様」

アリスは笑顔で立ち止まる。

由來は怪訝そうに眉を寄せながらもアリスの隣でピタリと足を止めた。

周囲は何事かと、事のなり行きを見守っている。


「知り合いか?」

アリスの耳に顔を寄せて聞く由來。


「うん、上垣内の伯父様よ」

アリスの返答に由來の眉がピクッと動いた。

アリスの言葉に思い出した。

あぁ、あの人は上垣内財閥の総帥だ、とすれば隣は息子だな。


「私の可愛い姪にこんな場所で会えるとは嬉しいね」

上垣内氏は豪快に笑う。

彼の言葉を聞いて周りの連中は息を飲む。

アリスの正体が分かって、目の色を変えた連中がウザいねぇ。

貴方達は、何をしても近付くことは許されないと言うのに。

牽制の意味を込めて睨みを利かせておく。



「本当、久し振りですね。その節はお世話になりました」

丁寧に頭を下げたアリスはとても優雅で美しかった。

その節とは...三年前に上垣内とミカエルを動かしたあの事だろう。

浅井達は影も残さぬように姿を消した。

もちろん、死んではいない。

だけど、死にたいと思えるほどの生活を強いられているだろう。

俺達ですら、彼らの居場所は分からない。


「いやいや、可愛い姪の頼みは何でも聞いてあげるよ。何か困った事があったら何でも言いなさい」

この人もアリスの魅力に取り付かれた過保護者なんだと知る。


「ありがとう、伯父様」

アリスの微笑みは、周囲に溜め息をもたらした。

皆、自分達の隣に座ってるキャストの女の子なんてもう眼中にない。


「所で、彼は宇佐美の若頭かい?」

アリスの腰を抱く由來に鋭い瞳が向かう。


「お初にお目にかかります。宇佐美由來です。亜理子さんとは結婚を前提にお付き合いしております」

佇まいを正して丁寧に頭を下げた由來。

今度はキャストの女の子から、悲鳴混じりの溜め息が漏れる。

フフフ...こんな姿滅多に見られないねぇ。


「そうか、君が。中々良い男じゃないか。今度亜理子と一緒に食事でもどうかね?」

笑っていない瞳が由來を捉える。


「ええ、ぜひ懇意にしていただいたいと思います」

由來も負けずと真っ直ぐに視線を向ける。

空気が張り詰める。

誰も口を挟める雰囲気じゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る