由來とお仕事体験のお話

玲哉

第16話

日の沈んだ繁華街。

そこに溢れ返るのは人と闇と欲望。

派手な化粧に派手な服で自分を展示品の様に見せびらかしながら歩く女達。

偽物の笑顔を振りまいて駆け引きするスーツ姿の男達


皆一様に、素顔を隠し夜を生きる。

鈍い光に包まれるそこに、一際存在感を誇示する目の前を歩く二人。

周囲から向けられる視線は様々だけど、二人を一瞥した連中から漏れ出る羨みを含んだ溜め息に俺は満足する。


「こうやって、並んで歩く二人を見れるなんて嬉しいじゃねぇのよ」

隣に並ぶ和毅がニヤリと口角を上げる。


「やっぱ、二人は一緒じゃないとね」

うんうんと頷きながら、口に銜えていたチュッパの棒をクルクルと指で回す李斗。


「確かにそうですね。亜理子がこんな風に由來の隣を歩いてくれるなんて」

和毅じゃないけど、感無量だ。

ここまで来るのは長かった。

俺は柄にもなく昔を思い出す。

最初の出会いから衝撃的だった。

彼女は誰よりも強くて、そして誰よりも儚かった。


 

『不思議の国のアリス』

お伽の国からやって来た彼女は、目的通りにウサギを捕まえた。

由來と言うウサギをね。

乃絵留さんの事もあって、二人は随分と遠回りをした。

だからね、二人を思う俺としてはこの先の人生を手を取り合って生きてほしい。


アリスが花屋の男の子を庇って事故にあったあの日。

知らせを受けて病院に向かった俺が見たのは、悲壮に顔を歪ませた由來。

手術が終わっても一週間も目を覚まさなかったアリスの側に常に居た苦悩に顔を歪める由來。

あんな姿はもう二度と見たくないよ。

ほんとさ、目を覚ましてくれて良かったよ。

うちの王様は君が居ないと生きて行けないみたいだ。


由來に肩を抱かれて歩くアリスの背中に心の中で語りかける。

俺達が唯一認めた存在。

由來を中心とする組織を構成するには、君の存在が不可欠だ。

だから、由來の隣でいつまでも笑っててね。

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