第7話
この先の未来、由來と歩むことを許してね。
貴女の愛した彼を、誰よりも愛すると誓うから。
切ない思いも苦しい思いも、初めて経験した。
私が唯一幸せを感じられるのは、きっと由來の側だから。
迷わないよ、乃絵留の分も幸せになる。
目尻を伝い落ちた涙は白い枕へと染み込んでいく。
悲しい涙じゃない、これはきっと嬉し涙。
幸せでも涙は出るんだね。
『...亜理子』
開いた窓、ふわりと揺れるカーテン。
愛らしい乃絵留の声が聞こえたような気がした。
私の大切な片割れ。
唯一無二の存在。
貴女と共に生きるよ。
胸元に手を当てて微笑んだ。
乃絵留は今のここに居る。
ようやくその事に気付けたよ。
この三年、そんな簡単な事に気付けなかったね。
大切な思い出と一緒に貴女は私の心の中に居てくれたのに。
乃絵留が生まれ変わっても私の姉になりたいと思ってくれた様に、私も貴女の妹に生まれたい。
だから、私が天に召されるまで待っててね。
トントントン、ノックされるドア。
「はい」
目尻の涙を指で拭って返事した。
「失礼します」
そう言って神妙な面持ちで病室のドアを開けたのは、花屋の奥さん。
男の子の手を引いて病室へと入ってくる。
私は融通の利かない体をなんとか動かして、上半身を起こした。
「この度は息子を助けていただき誠にありがとうございました。とても感謝しています」
ベッドの側までやって来た花屋の奥さんは、膝に額を着ける勢いで頭を下げた。
「あ...ありがとうございました」
男の子も恥ずかしそうに頭を下げる。
「頭、上げてください。そんな風にお礼を言われるのは照れ臭いです」
フフフと笑った。
「...でも、本当に貴女のお陰でこの子が助かりました...どう償えばいいのか..」
顔を上げた花屋の奥さんは、オロオロと泣き始める。
あっちゃあ....弱ったな。
咄嗟に助けに行ってしまったんだよね。
だから、感謝とか言われたら困る。
「ね? 君は怪我はしてない?」
助けた子供が大丈夫な事は由來に聞いてたけど、自分で確かめてみたくなった。
「うん、お姉さんが助けてくれたから」
素直に頷いて微笑んだ男の子にホッとした。
良かった...フフフ。
目の前の命を助けることができたことが嬉しい。
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