第2話 信頼

翌日、旅を続けていた僕は、とある村に立ち寄った。小さな集落で、活気もなく、住民たちの顔には疲れが見える。


「何か手伝えることはありませんか?」

僕は宿の主人に声をかけた。何か収入を得る方法を探すしかない。


だが、主人は苦笑いを浮かべた。

「悪いね。ここの人たちは自分たちのことで精一杯なんだ。仕事を頼める余裕なんてないよ」


そんなとき、アークが僕に語りかけてきた。

『レイ様、村の状況を改善する計画を提案します。この村の収入源は農業ですが、現状では収穫量が著しく低い。原因は土壌の劣化と効率の悪い作業です』


「それをどうにかする方法があるっていうのか?」


『可能です。まず、土壌改良剤を作るために近隣の山から特定の鉱石を採取してください。また、作業効率を上げるための新しい農具の設計図を提供します』


「待て待て、そんなこと言われても俺にできるのか?」


『心配無用です。必要な情報と指示はすべて私が提供します』


僕は少し悩んだが、アークの提案に賭けることにした。村の人々を助ければ、信用を得られるかもしれない。それに、何より自分自身が試されている気がした。


アークの指示通り、僕は近隣の山へ向かった。幸いなことに、村の周辺は広大な自然が残されていて、採取活動に支障はなさそうだった。


「アーク、本当にこんな場所に鉱石があるのか?」

『はい。この地域の地層データと私の分析結果から、この付近に必要な成分を含む鉱石が埋まっている可能性は92%です』


「地層データって、そんなのどこから持ってきたんだよ……」

僕は呆れながらも、アークの声に従い、指定された地点で地面を掘り始めた。


30分ほど作業を続けた頃――。


「……お、これか?」

土の中から、薄い青色の光を帯びた小さな石を掘り出した。それはどこか不思議な輝きを放ち、まるで生き物のような存在感があった。


『発見おめでとうございます。これが「ルナライト鉱石」です。この成分を用いて、土壌改良剤を作成します』


「こんなもので本当に土地が良くなるのか?」

『効果は保証します。ただし、次のステップとして、この鉱石を粉砕し、特定の植物と混合する必要があります』


村へ戻った僕は、宿の主人に頼み込んで小さな作業場を借りた。アークの指示に従い、鉱石を粉砕し、村周辺で採取した薬草と混ぜ合わせる。


「ふむ……意外と簡単だな」

薬草の匂いと鉱石の光が混じり合い、何とも言えない神秘的な雰囲気を漂わせている。


『これで完成です。これを畑に撒けば、土壌が活性化し、収穫量が劇的に向上します』


「よし、試してみるか」


僕は村長に改良剤を試してもらえるよう説明した。最初は怪訝そうな顔をされたが、「失うものは何もない」と言われ、ようやく了承を得た。


数日後――。


村中がざわめきに包まれていた。


「本当に芽が出たぞ!」

「こんなに早く作物が育つなんて……信じられない!」


村人たちの畑で、改良剤を撒いた箇所から次々と新芽が顔を出していた。それは異常なほどの成長速度で、まるで魔法を見ているようだった。


「どうだ、効果は抜群だろ?」

僕が少し得意げに話すと、村人たちは驚きと感謝の目で僕を見つめた。


「これは奇跡だ……いや、貴族様が神に選ばれたのかもしれません!」

「ぜひ、もっとこの村を助けてください!」


僕に向けられる言葉は、久しぶりに「頼られる存在」としての温かみを感じさせた。


『信用を得ることに成功しましたね』

アークが冷静に評価を下す。


「ああ、でもこれで終わりじゃない。村を救ったくらいで満足するつもりはないよ」

僕の中に、新たな目標が芽生えていた。自分の力で、いや、アークと共に――この世界を変える。


「次はどうする、アーク?」

『さらなる効率化と成長を目指し、次の計画を提案します。この村を拠点に、周辺地域を巻き込んだ新しい経済モデルを作りましょう』


「いいだろう。その計画、乗った!」


こうして、僕の異世界改革が本格的に始まったのだった――。


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