第5話 三河さんとの初会話

「いってきまーす」


妹の友恵と一緒に家を出る。

登校する俺ら二人を朝日は照らす。

その、朝日を妨げんとばかりの雲の少なさ。

壊れていない街とは実に素晴らしく綺麗なものだ。


そして、隣を歩くショートカットで小柄な生意気そうな妹。

(これが日常だったなぁ)


「おにい昨日から様子おかしいから無理しちゃだめだよ」

「うん、わかってるじゃあ」


(そうだったな、ここで別れ道だったんだ)


高校の校舎に近づいてくると、同じ制服を着た生徒がたくさんいる。

朝にもかかわらず賑やかな話し声なんかが聞こえる。


「!?」


まるで周りの雑音を消すかのようなオーラ。

他の生徒とは違う…。

周りの男子生徒も彼女に釘付けだった。

整えられた長髪。上品な歩き方。

まさに絵に描いたお嬢様だった。


(三河さんか…。この人と友達になれってか…。まさに高嶺の花だよな。別に俺イケてる方じゃないし)


俺はそのオーラに圧迫され肩を落とす。


「やあ、立川くん。おはよう」

「うわっびっくりした。って神保か」


三河オーラを全く意に介さない、いつもの笑みで話しかけてくる神保。


「ひどいなー。そんなにびっくりしなくてもいいのに」

「いや、びっくりするだろ」

「可愛らしいですね、三河さん」


俺の心を読んだかのようにまた一歩先のセリフを言ってくる。


「はぁー俺無理だよ。どうやって仲良くなれっていうんだよ」

「それは、立川くん次第だね。この難局をどう突破するか楽しみにしてるよ」


□□□


「鉛のような飯とは何か…」


(はー村本の現代文相変わらず暇だなあ。しかし、右隣には三河さん…)


俺は、授業中三河さんと接触する方法をずっと考えた。

この時代の俺、三河さんと一言も話したことないし…。

笑ったとこも当時から一回も見たことない。

第一、人と話してるのなんて見たことあるか?


(次のテスト範囲聞く口実で話しかけるのありだな。「やあ、三河さん」じゃないな。「こんにちは」いやおかしい。「元気?」いきなりすぎるな)

脳内シュミレーションをしても正解に辿りつかない。


「はい、今日はこれで終わり復習忘れるなー。あと、課題ノート所務係の三河と立川職員室まで運んでくれ」


(所務係!?そういえばそうだった1年間係一緒だったんだ!ナイス村本!)


俺は、教卓にあるクラス全員分のノートの半分をとる。

そして、三河さんも半分のノートを持って無言で歩き始めた。

(そういえば、過去係一緒だったけど一言も話さなかったなー。でも、これは未来を変えるためだ一歩踏み出そう)


「三河さん、重そうだから少し持つよ」


勇気を振り絞って話しかける。


すると、三河さんはびっくりした様子で反応する。


「え、あ…立川くん。ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。職員室すぐそこなんで」


ニコッと笑いながらそう話した。

俺は、その笑顔に心を打たれた。

(三河さん、話したら普通じゃん。いつものあのオーラは何なんだ?)


「え、あ了解!んじゃ職員室まで運ぼうか」

「はい」


(俺の隣に三河さんが歩いている!緊張。やばい、ぶっ倒れそう)


俺は少しよろっとしてしまう。


「だ、大丈夫ですか?立川さん」


三河さんは真剣な表情で心配してくれる。


「うん、大丈夫。心配しないで。そんなことより、早く運んじゃおっか」


□□□


「ありがとうお前たち。そこに置いといてくれ」


職員室から教室に戻る時は三河さんと並んで廊下を歩いた。

意外にも、三河さんから話しかけらた。


「立川さんって意外に気さくで喋りやすい方なんですね。もっと硬い人なのかと勘違いしてました」

「あーそうなのね。んーまあそういう雰囲気出てたのかな」

(その言葉そっくり返すよ!確かに、俺高校時代女子と話すの苦手だったけど…)


俺は心の中でツッコんだ。

そして、不器用な笑顔で三河さんが話続ける。


「立川さんが、私と本格的に話してくれた人第一号です!」

「へ?」

「なぜか、私全然話しかけられなくて…。話しかけてもみんなそっけないし…。ぼっちで学校生活つまらないです…」

「なるほど、それは三河さんのオーラじゃないかな?笑」


(三河さん、超意外なんだけど!三河さんのイメージ180度変わったわ)


「オーラですか?…」


三河さんはきょとんとした顔で尋ねる。


「そうそう、三河さんは大物オーラがあるから。

まあ、三河さんは美人でお嬢様って感じだからなー」

(やっべ、声に出てた!)


「…」


三河さんは、顔を赤らめて若干俯いて無言になってしまった。


(やばい。こっちも恥ずかしい。気まづい!)


「ほ、ほら!オーラ消すとかはどう?」

「オーラを消すですか…。出してる実感なかったですし、そもそも出てることも知りませんでした…。頑張って消してみます!」

「その調子!」

(俺が提案したものの、今思えばオーラ消すって何だよ笑まあ、三河さんも乗り気だし、話せたしいいか)

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プロトタイム 一ノ瀬シュウマイ @syuumai5533

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