第2話 動き出す運命
俺は、未だに自分の状況を信じられないまま、教室の机に座った。
見慣れた薄汚れた黒板、並べられた机と椅子、窓の外に広がる景色…。一切破壊されていない。
全てが、かつて俺が通っていた高校そのものだった。
「これは、夢じゃないのか…?」
まだ信じられない。
俺は、自分の頬をつねり、そしてその痛みを確認する。
「痛っ…。本当に、ここは過去…」
そして、俺を見る隣の少年が楽しそうに笑う。
「面白いリアクションだね。勇気くん。でもこれは紛れもなく現実だよ」
少年の言葉で、俺は我に帰った。
じっとその顔を見つめる。
この少年が、あの崩壊した未来で出会った「救いに来た」と名乗る人物なのだ。
「お前、本当に俺を過去に戻したのか?」
少年は、笑みを浮かべたまま頷いた。
その、笑顔の裏には何か不思議な力を感じる。
(安心感…?威圧感…?分からない)
だが、同時に彼がただの人間ではないことを感じ取れる。
「そうだよ。君のいや、世界の運命を救うためにね。まずは、ここから始めるんだ。勇気くん、君の失ったものを取り戻すためにね」
「失ったものを取り戻す」か…。あまりにも大きすぎるな。
しかし、その言葉で俺の胸はざわついた。かつての平穏な日々、そして愛する家族。
俺は、感情が溢れそうになるのを堪え少年に問う。
「俺は、何をすればいいんだ?」
少年は、笑みを浮かべながら考えこむ。
そして、口を開く。
「まずは、今の生活に馴染むことだね。過去を変えるには、周囲に不自然と思われないように行動する必要があるからさ」
少年はさらりと答える。
「そ、そうか…」
しかし、不思議なのはこの少年がいるのがまるで当然かのような周囲の態度だ。まるで、初めからいるような…。
しかし、俺の高校時代この少年はクラスメイトじゃない。
「席つけー授業始めるぞ」
不思議に思っていると、俺の元担任村本がメガネを光らせ現代文の教科書を手に持って教室に入ってきた。
(村本じゃん!懐かしい!確かこいつは、2、3年の時の担任か)
そして、授業が始まる。
「今日は、夏目漱石のこころの続きやるぞー」
(夏目漱石かー懐かしいな)
タイムスリップした瞬間の授業なんて頭に入らなかった。
ていうか眠い。
すっかり忘れていた高校の時の授業が次々に進んでいく。
ただただ、ボーッとして時間を過ごした。
「はい、今日のところは終わり。もうすぐテストだからちゃんと勉強しろよ」
村本はささっと教室を出ていく。
「おい、勇気」
ボーッとしていると俺を呼ぶ声が背後から聞こえる。
振り向くと、親友の
こいつは、中学生の時からの付き合いで同じ高校に進学して大人になっても唯一付き合いのある人間だった。しかし…。
この時代の沢田は、当たり前だがまだ幼い顔つきで制服はダボっと緩く着こなし髪型も校則に触れないようにしているためかショートヘアだ。
「え、沢田!?」
俺は、思わず驚く。
そして、感動。
「何だよ、天然記念物発見したみたいな反応しやがって」
「す、すまん」
(こいつは、立派な商社マンなるんだよな。こんなガキが)
「そんな、ボーッとしてないで早く飯食いに行こうぜ」
「お、おう」
気がつくと、時計の針は12時30分を指していた。
もう、昼か。
ざわつく教室。
全然、お腹が空かない。しかし、怪しまれてはいけないので沢田に連れられるがままに食堂に向かった。
食堂は、流石はお昼時というような人数が集まっていた。
みんなが楽しそうに飯を食っている。
(平和だなあ)
「お前、何食う?」
沢田が俺に問う。
「えーかんぱんとか?」
考え事をしていたので、無意識に答えてしまう。
「かんぱん!?お前、戦争中じゃないんだから笑」
「そうだな…じゃあカレーでいいかな」
「了解笑」
沢田はまだ幼い顔で手を叩きケラケラと笑っていた。
この時代は、まだ冗談なんだな…。
食事を受け取って適当なテーブルに腰を落ち着ける。
すると、ぴょこっと襟足が長いチャラチャラしてるやつが現れる。
「よっ遅くなった」
(こいつは…確か
「お、後藤来たな。じゃあ食うか」
沢田がそう言うとみんなで昼飯を食べ始めた。
お腹減ってないんだよなー。
そう思いパクッとカレーを一口。
(なんだ、この米とルー絶妙なハーモニー!そして、ポークベースで玉ねぎの深み、じゃがいもは口の中でとろける!うまい!)
「うまい!!!」
俺は大声をあげガツガツと食べた。
その様子を見て、沢田は心配する。
「勇気、だ、大丈夫か…。なんか、目がバッキバキなってるけど…」
「この、カレーがうまいんだよ!!!」
「そうか…まあさっきの勇気が元気なかったのか…」
二人は、俺の様子を見て箸が止まっていたが俺はそのまま完食した。
「どうした二人とも、冷めるぞ」
久しぶりのカレーで血糖値が上がった俺は二人にそう言った。
「そ、そうだな。た…食べるか」
沢田と後藤に若干引かれたが怪しまれている様子はなくそのまま食べ終わり食堂を後にした。
そして、午後の授業は突っ伏して寝て放課後。
もう、教室内は部活に行く準備をしている人たち、帰ろうと準備をしている人たち、座って楽しそうに話し込んでる人たちで騒がしかった。
「勇気、帰ろうぜ」
後藤が話しかけてくる。
「あ、ああ」
俺は、ふと右隣の席を見る。
そこには、騒がしい教室で一人だけ無のベールに包まれているような可憐で長髪のいかにもお嬢様のような美しい女の子が一人で机に向かって勉強していた。
同じクラスだった、
(あの真面目な三河さんか…。相変わらず真面目だな。そして、可愛いな…)
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