プロトタイム
一ノ瀬シュウマイ
第1話 未来からの来訪者
「必ず、必ず未来を変えて、勇気。信じてる」
■■■
20XX年、日本。
ほとんどの都市が崩壊し、焦げ臭い空気が辺りに漂っていた。
俺は、砲弾の音を耳にしながら廃墟となったビルの影で息を潜める。
ラジオをつけると、
「えー先ほど我が国領土にミサイルが10発着弾したと見られます。国民の皆様は命を守る行動を徹底してください。政府としても情報収集が整い次第被害情報を随時お知らせいたします」
(ミサイルか…)
そう、第三次世界大戦の余波が及び、国は荒れ果て、人々は散り散りに逃げ延びていた。
生き残っている人々はどのくらいいるのだろうか…?
「まさか、こんな未来になるなんてな……」
息をつく間もなく、頭上を戦闘機が通り過ぎ、激しい爆風がすぐ近くで響く。
身を伏せ、俺の脳裏には、ほんの数年前の平穏な日々が浮かんだ。
会社から帰ってきて、適当にアニメやらドラマを見ながら飯を食べる。
あんな平穏な毎日が…。
27にもなって結婚もできなかった…。
(父さん、母さん、友恵…)
ただ、あの時は自分に何の力もなかった。
逃げ延びることしかできない人生に、いつしか絶望だけが積み重なっていた。
そんな時だった。
「やぁ、
静寂を切り裂くように、物静かな声が俺の背後から聞こえた。
振り返ると、見覚えのない黒いフードを被った少年がそこに立っていた。
戦争中のこの状況で、あまりに場違いなほど冷静で、穏やかな表情をしている。
「君は……誰だい?」
俺は、恐る恐るそう問いかけると、少年は小さく微笑んだ。
「僕は、あなた、そして世界を救いに来たんだよ」
何言ってんだこいつ…。
「大人を揶揄うもんじゃないよ。大体君…」
「中学生ぐらいだろ。親に連絡とってあげようか。ですよね立川勇気さん」
俺が喋ってる途中から被せてきて俺の言おうとした言葉を全部一言一句同じで言いやがった。
何だこいつ。
しかし、少年の目は、ただならぬ何かを秘めているように感じた。
「今から、あなたには過去に戻って、この世界を救ってもらう。……そう、この先のディストピア、未来を変えるためにね」
「過去に…戻る?そんなことが…?」
疑いの声を上げると、少年はゆっくりと頷き、俺に手を差し伸べる。
「さぁ、立川勇気さん。あなたの望みはなんだい?失った家族、友人たちと、平穏な日常を取り戻したいと願ってるんじゃないかい?」
少年は、まるで俺の心を見透かしているようだった。
ていうか、完全に見透かしている。
俺は、差し伸べられた手を握り返した。
その瞬間、視界が歪み、体が宙に浮くような感覚に包まれた。
明るい何かと暗い何か、光と闇が交差する中で、俺は次第に意識が薄れていった。
□□□
次に目を覚ましたとき、俺は硬い机の感触を感じた。
「んん…」
ぼんやりとした頭を持ち上げ、周囲を見渡すと、そこは見覚えのある高校の教室だった。
黒板、教科書、見覚えのある奴ら。
窓からは、眩しいほどの太陽の光が差し込んでいる。
「…ここは、俺の卒業した高校か?」
そして、自分の服装を見ると高校の制服だった。
(俺、高校生に戻ってんじゃねーか!)
まるで、夢のような光景に、俺はただ呆然としたまま立ち尽くした。
しかし、ふと視線を移すと、前の席に先ほどの少年が、制服を着てこっちを向いて座っていた。
「ようこそ、過去へ。立川勇気さん、いや立川勇気くん」
少年は、にこりと俺に笑いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます