6
「この子が迷子の猫ちゃんね」大人の女性がぼくを見ながらそう言った。大人の女性は言葉を発しながら部屋の中央に移動する。そして、ぼくの前に来ると、そこに手に持っていた小さなお皿を置き、そこに瓶に入った新鮮なミルクを注いでくれた。お腹が空いていたぼくはお礼も言わずに、それに口をつけた。ミルクはとても美味しかった。
「あ、飲んでる、飲んでる。お腹が空いてたんだね」大人の女性は笑っている。しかし、女の子は不安そうな顔をしながら食事をするぼくを見ていた。
「秋子さん。猫ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、心配ないよ」
「本当?」
「うん。本当」
秋子さんと呼ばれた女性の言葉にようやく安心したのか、女の子はやっと笑顔になると、その場にしゃがみ込み「よかったね、猫ちゃん」と言いながらぼくの頭を軽く撫でた。ぼくは人に頭を撫でられることが嫌いだったのだけど、ここまで面倒を見てもらったからには、その行為を無下にするわけにはいかなかった。なのでぼくは一応、お礼の意味を含めて「にゃー」と小さな声で鳴いた。すると人間たちはとても喜んだ。
「ほら、風(ふう)ちゃん。いつまでも猫にかまってないで、ちゃんと準備をして、今日はもう寝なさい」
「もう寝なくちゃいけませんか?」
「寝なくちゃだめ。猫のことは私から先生に伝えておくから、ちゃんと面倒みるんだよ」
「はい。ありがとうございました。秋子さん」
「うん」
秋子さんは風と呼ばれた女の子の頭を撫でた。「じゃあ、また明日ね。おやすみなさい、風ちゃん」「はい。おやすみなさい、秋子さん」秋子さんは扉を開けて部屋を出て行った。
風は秋子さんに言われた通りに就寝する準備を始めた。着ていた小さな子供用の真っ白なコートと真っ白なマフラーを脱いで、それらをベットの横にある壁の出っ張りに引っ掛けた。コートのポケットからは小さな白い手袋が少しだけはみ出している。
その作業を終えると風は真っ白なパジャマ姿になった。(風はなんだか全身が雪みたいに真っ白だった)足元には白いスリッパを履いているが、どうやら風は裸足のようだ。それでは外を歩くのは寒いだろうとぼくは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます