風の旅行 ふうのたび
雨世界
1 第一章 ……ずっと一緒にいようね。猫ちゃん。
風の旅行 ふうのたび
詩集
春(あお)を駆ける。
原風景
じっとしていることは苦手だった。
現世界
こんなにも恵まれているのに。
……、こんなにも、愛されているのに。
はなればなれ。
忘れることなんて、できそうにもないのにね。
花
愛はここにあるよ。ずっとある。
星と夜
今日の日のこと。ずっと、覚えていられたらいいね。
本編
第一章
真夜中のお散歩
……ずっと一緒にいようね。猫ちゃん。
気がつくと、ぼくは夢の中で真っ黒な毛並みをした一匹の猫になっていた。猫になって、真っ暗な廊下をなれない四本の足を使いながらひたひたと歩きまわっていた。それは暖をとるための行動だった。そこはとても冷たかったから、ぼくは体を温めることのできる小さな炎を求めていた。
だけど、どこまで行っても世界は真っ暗なままで、炎はどこにも見当たらなかった。ぼくは炎が無理なら、せめて古くても、ぼろぼろのものでもいいから一枚の毛布が欲しいと思った。暖かい毛布にくるまって、朝がくるまで、この真っ暗闇の中で静かに眠っていたいと思った。夢の中で眠りにつくというのはなんだか変な話だけど、でもそうしたいと思えるくらい、ここは寒くて仕方がなかった。
……、でも結局、どこまで歩いても世界は真っ暗なままで、いつまでたっても現状はなにも変わりそうもなかったのだけど、でも、それでもぼくはそんなものたちを求めて、暗い廊下をひたひたと小さな足音を立てながら歩き続けていた。
お腹がとても空いていた。だから力が出なかった。夢の中だというのにお腹が減るというのも、これまた変な話だった。そんなことを考えていると風が、びゅーという音を立ててぼくの周囲を吹き抜けた。寒い風だ。ぼくはぶるっと体を震わせた。今は春のはずなのに、吹く風はまるで冬の風のように冷たかった。もしかしたらこの夢の中では季節は冬のままで時間が止まっているのかもしれないとぼくは思った。そういうことは夢の中では、『よくあること』だった。
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